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「邪悪なる龍よ、この聖剣を受けてみよ!」
芝居かかったセリフを高らかに叫び、聖剣(コンビニ等に置いてある求人情報誌を丸めたモノ)を掲げ、アホな俺の友人はゴンスケへ切りかかる振りをする。
ゴンスケはと言うと、きょとんとした顔で友人ーーマサを見ている。
「なーんか、ノリ悪いなぁ、ゴンスケ」
「そんな遊び今までしたことない」
「マジか。じゃあどうやって今まで遊んでたんだよ?」
「猫じゃらしで、ポンと同じようにしてた」
「…………ドラゴンなのに?」
「トカゲだと思ってたんだよ」
「トカゲだと思ってたなら、もっと別の遊びがあっただろ」
ここは、コンビニの駐車場である。
交差点で出会った時、マサはコンビニへジュースと菓子と、昼ごはんを買いに行く途中だった。
ゴンスケは初めて見る自転車に興味を示し、乗りたがった。
たしかに、サーカスとかでそういう芸をする犬、いるけどさ。
それをマサが面白がって、乗せたところ直ぐに倒れて俺に泣きついてきたのだ。
しかし、自転車への興味は薄れなかった、コンビニへ行こうとするマサの後を追いかけようとしたのだ。
リードを引っ張って、制止しようとするも無駄に終わり、長めの散歩になってしまったのだった。
それに気づいたマサが途中で自転車を降りて、二人と一匹でゆっくりとコンビニへ向かった。
田舎のコンビニは、ちょうど混む時間帯だからかそれなりに人がいた。
介助犬等の例外を除き、ペットは基本入店できない。
なので、俺はマサにジュース代を渡してついでに買ってきてもらうよう頼んだ。
外で待ってると、やはりドラゴンは珍しいからか、かなりほかの客の視線を集めてしまった。
親子連れの、まだ保育園くらいの小さな子なんて、奇声を上げながらゴンスケに抱きついてきた。
凄かったなぁ、あの子。
母親らしき女性が窘めていたが。
そんなこんなで、マサが出てくるのを待ち、今に至るのである。
マサを待ってる間に思いついて、掲示板でドラゴンの飼い方を訊ねることにする。
そして、携帯をいじっているとマサが店から出てきた。
ジュースを受け取ってそれを飲もうとしたら、思いっきりゴンスケの視線を感じた。
みれば、いっちょ前にでかくなった尻尾をコンクリートへ叩きつけている。
有名すぎる黒い色をした炭酸飲料を俺はごくごく飲む。
そして、げっぷ。
「あー、うめぇ」
俺が呟くと。
だんだんだん!!
ダダン!!
だあん!
だあんっ!!
尻尾の主張が激しくなった。
「これは、お前は飲めないの!」
「頭いいんだなぁ」
「ダメっ! めっ!」
ダンダンダンダン!!
ダダン!ダダン!
「がるるるぅ!」
「唸っても、ダメなものはダメっ!!」
そんな攻防をしていると、コンビニから店員さんが出てきて、物凄く申し訳なさそうに声を掛けられた。
「あのぅ、お客様。
申し訳ないんですが、その、駐車場が傷つくのと、他のお客様のご迷惑になりますので、尻尾を叩きつけるのを止めさせてもらいたいのですが」
「あ、す、すみませんっ!」
俺は、ゴンスケの頭を掴んで一緒に下げさせる。
店員さんは苦笑して、それからゴンスケを物珍しそうに見てから店に戻っていった。
ゴンスケが不服そうに俺の手を振り払う。
「お前が悪いんだろ!」
ふと、周囲をみれば、車に乗って休憩中らしいドライバーや今買い物にきた人達がこちらを見ている。中には携帯端末を向けられて画像か動画を撮っている人達もいた。
「は、恥ずかしっ!」
「とりあえず、店にお詫びついでにゴンスケのおやつでも買ってくれば?
ここ、たしか猫用の缶詰置いてたはずだし」
というマサの提案に、
「ジュース代くらいしか残ってねーよ」
俺はマジックテープの財布を取り出して中身を確認してそう言った。
「あ、なら紙パックの野菜ジュースなら買えんじゃん。
それなら、前に動画で飲ませてるの見たことあるし」
「野菜ジュース、ね」
そもそも人間向けに加工されたものを、動物に与えるのは良くないのだ。
「ゴンスケのやつ不貞腐れてるぞ。
機嫌直しといた方いいんじゃね?」
渋る俺に、マサは体を丸めていじけてるゴンスケを指さしながら言ってくる。
丸まって、でも、ゴソゴソ動いている。
と、そこで俺は気づいた。
先程まで手に持っていた、ペットボトルの感触が消えている。
「ゴンスケっ!!」
俺が怒鳴るのと、炭酸の直撃をゴンスケが食らうのは同時だった。