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下心が無かったと言えば嘘になる。
春が来るなんて、夢のまた夢だと信じて疑っていなかった。
それは本当だ。
でも、それと下心満載な妄想をするか否かは別だ。
しかし、その下心満載な妄想が粉々に打ち砕かれるとは正直思っていなかった。
現在、トラブルにあい無人島に流れ着いた俺とレイ、そしてゴンスケの二人と一匹は絶賛サバイバル中であった。
昨日、つまりは無人島に流れ着いた初日のことだ。
濡れた服を乾かすため、レイはなんの躊躇いもなくそれを脱いだのだが、俺は、見てしまった。
レイの股間に、俺にも生まれた時から付いているソレがぶら下がっているのを。
そう、レイは女の子の顔立ちをしたれっきとした男だった。
畜生、騙された。
いや、俺が勝手に勘違いしただけなんだけども。
道理でマスターもリオさんも、そしてジルさんも面白そうにニヤついてると思ったよ。
「いやぁ、でも荷物が無事でほんと良かったよな!」
本日、何度目かのこの言葉。
もちろん、レイの言葉だ。
俺はジト目でレイを見た。
俺の視線の先には股間に葉っぱを付けた、ほぼほぼ全裸の馬面が歓喜の踊りを舞いつつ、昼ごはんであるスライムが焼けるのを待つ光景が広がっていた。
何が楽しいのか、ゴンスケもドラゴンの姿でレイの踊りに合わせて、上機嫌にぎゃうぎゃう鳴いている。
タイムスリップでもしたかな、アハハハ。
「そーですね」
「どした、元気ないな」
「いや、事実は小説よりも奇なりってほんとなんだなって」
「そうそう、長い人生、弟に階段から突き落とされたり、新天地で同級生にハブにされて殺されかけたり、今回みたいに遭難してサバイバル生活することもあるって!」
そんな人生嫌だ。
ただ同じ空間にいるだけの他人ならまだしも、身内から攻撃されるなんて考えたくもない。
そして、どんな人生だそれ。
「ブラックな冗談は、今は聞きたくない」
「まぁ、たしかに、俺もテツも魔法使えないし?
ゴンスケでここを脱出出来なくはないけども、また落とされても嫌だしなぁ」
「そう、それだよ!!」
「ん? あ、ホントだもう焼けてる」
違う、そっちじゃない。
スライムの丸焼きのことじゃない。
「何なんだよ、いきなり攻撃受けるとか!」
「いやいや、そんなんで驚くなよ。慣れてるだろ?」
慣れてるわけないだろ!
というか、その馬の被り物を取れ!
「だって、テツは人知れずテロリストから人質を救い出したヒーローじゃん」
「…………なんで、知ってんの?」
「あれ? 言わなかったっけ?」
「いや、その前に言ってもいいか?」
「ん?」
「もう、服乾いたよな?」
「乾いたな」
「なんで、まだほぼ全裸なの?」
「え、そりゃあ、自由を感じるために決まってるだろ」
何の自由だ。
股間か? 股間の自由か?
「服を着ろ!」
「…………葉っぱがあるから良いじゃん」
「ゴンスケに変なもの見せるなって言ってるんだ!」
股間がどうとかではなくて、先住民族でもやらないような怪しげな踊りをやめてほしい。
「バカ野郎、俺の股間は紳士だぞ」
下ネタはもういいわ!!
そんな、クッソくだらない会話を続ける俺達に、腹が減って焦れたゴンスケが催促してきた。
「ぎゃうぎゃう!!」
早くスライムの丸焼きをくれ、と騒いでいる。
「ま、海に落ちて直ぐに救難信号、でいいのか?
ほら、現地集合のメンバーにそれ送っといたから、たぶんすぐに迎えにくると思うけどな」
串に刺した、小さめのスライムの丸焼きをゴンスケに渡しながら、レイはそう呟くように言った。




