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「で、押し切られた、と」
ツカサが呆れている。
「でも、珍しいなぁ。お前のペース崩すって」
リーチもそんな感想を述べる。
「あの店、前から顔面偏差値高かったけど、そのレイって人も、まぁ、うん顔は良かった」
「顔だけ?」
「体つきは?」
ツカサとリーチがそれぞれ言ってくる。
言っては悪いが、レイさんの肉付きは良くない方だ。
ぶっちゃければ、ペッタンコである。
「そっか」
「ペッタンコか」
まぁ、うん言いたいことはわかる。
「でも、細かった」
と、そんな会話をしていると。
「ね、テツ君、訊いてもいい?」
やけに、ニコニコ顔のアストリアさんが現れた。
ニコニコしながら、ずいっと携帯端末の画面を見せてくる。
そこに映しだされているのは、彼女に俺がいつものように送ったゴンスケの画像の一つだ。
「この子、誰?」
「あれ? メールに書かなかったっけ? ゴン」
ゴンスケ人間バージョンだ、と言おうとした俺の言葉が遮られてしまう。
「ゴンスケちゃんじゃ、ない方。
この茶髪の子と、エプロンを着けた銀髪の子のことだよ。
誰?」
なんだろ、姉ちゃんみたいに威圧感あるな、今日のアストリアさん。
「あぁ、レイさ、レイと、リオさんか。
レイのことはよく知らんけど、リオさんは父さんがよく行く喫茶店の従業員さんだよ」
「へぇ、レイさんのことは呼び捨てなんだ。よく知らないのに?」
「本人がそうしろって言うから」
「よく知らないわりに、随分仲良さそうだね?」
「そうか?」
俺は、悪友二人に振り返りながら聞いてみる。
おい、なんで二人共目を逸らすんだ。
「ね、本当はどんな関係なの?」
「うん? うーん? 夏休み入ったらすぐ旅行? に行こうって誘われて、押し切られた関係?」
口にだしてみて、これどんな関係なんだろ、ほんと、と思わなくも無かった。
「え、旅行? 二人で?」
「いや、もう一人いるらしいんだけど、その人とは現地集合らしい」
「へぇー、そんなに仲良いんだ」
初対面だったんだけどなぁ。
「あと、ゴンスケも連れてくし」
なので、三人と一匹だ。
「まぁ、よく知らない人ではあるけど、喫茶店の店長が身元保証してくれたし。
それに」
「それに?」
「姉ちゃんが帰ってくるから」
俺の返しに、アストリアさんもそうだがツカサとリーチも意味を図りかねて疑問符を浮かべている。
ゴンスケの安全その他諸々保証してくれる上、あの姉から逃げられる口実はそうそう無いだろうし。
「お姉さん」
「姉ちゃん、帰ってくるのか」
「テツ、お姉ちゃんいたんだ」
順に、アストリアさん、リーチ、ツカサである。
そうだよ、居るんだよ。そして帰って来るんだよ。
怖い、姉が。
アストリアさんは、この前のホテルのことを思い出したのか、あの電話の人かなぁという表情を浮かべている。
「テツ君、一応確認だけどさ」
「んあ?」
「そのレイさんって人とは交際してないんだよね?」
付き合うとかではなく、交際ときたか。
こういうところ、育ちの良さがあるよなあ。
「してないしてない」
俺は手をパタパタふってそう答えた。
「そのリオさんって人は?」
俺は、ちょっと驚いて、そうだったなら良かったのになぁと思いながら、返した。
「あー、リオさん好きな人いるから無理無理」
俺は、もう一度手をパタパタ振った。
「…………そうなんだ」
なんだ、その微妙な間は。
アストリアさんは、満足したのかそこでこの会話は終わり、人に変身出来るようになったゴンスケのことに移る。
と、アストリアさんが携帯端末を操作し始める。
「やっぱり家だとずっと変身したままなの?」
ツカサの疑問はもっともだろう。
「時と場合による。
爺ちゃんの晩酌に付き合う時は元の姿。散歩の時も元の姿。
婆ちゃんと山や畑に行く時も元の姿。
ポンと昼寝する時は人だったり、元の姿だったりランダム。
俺と風呂入る時は、人だな。三、四歳くらいの」
「なんだ、ほとんどドラゴンなんじゃん」
リーチは、少し残念そうだ。
「え、一緒にお風呂入ってるの?!」
大きい声で言ったのは、ツカサだった。
「ポンが入れてやれって感じで連れてきたんだよ」
携帯端末の操作を終えたのか、アストリアさんが興味津々だ。
「最初は母さんや父さんと一緒に入ってた。
体の洗い方と頭の洗い方教えるために。
で、初日で覚えたら今度は俺と入るようになった。
言葉覚えてないから、ゴンスケが風呂入ってて、俺が頭洗ってるあいだは数かぞえさせる代わりに、鳴いてもらってる」
ちなみに、この話を以前立てた掲示板で報告したら、犯罪者のレッテルを貼られたんだが、まぁこれは言わなくて良いか。
「なんで、そんなことするんだ?」
リーチが首を傾げる。
「いや、目を離すと人間の子供の場合沈んだりすることがあるらしいから、それも含めて数数えさせるんだと」
「そうなんだ」
アストリアさんも、意外そうに呟いた。
「アレって事故防止も兼ねてたんだ」
ツカサもアストリアさんに続く形でそう言った。




