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「おおー! 可愛い!!」
その勢いに、ゴンスケが怯えて俺の後ろに隠れてしまう。
「ぐぅるるる」
どうやら、言葉はまだらしい。
変身すると、そのまま喋るものと思ってたんだけどなぁ。
「ありゃ、俺、もしかしなくても怖がられてる」
ちょっとしょんぼりしながら、レイと呼ばれた少女はマスターを見た。
リオさんがレイさんを揶揄うように言う。
「ド変態だって見抜いたんじゃねーの?」
「いや、俺紳士よ?」
淑女の間違いではないだろうか?
もう一度、レイさんはゴンスケを見る。
「でも、ドラゴンって人間になるとこんなに可愛くなるのかぁ。
こりゃ酒に漬けにくくなるなぁ」
酒?
酒ってなんだ?
「それは、飼われてる子だから漬けちゃだめだよ」
マスターがレイさんを窘めた。
「わかってますよ。師匠。俺だってそんな人の物取るほど堕ちちゃいないです」
「でも、君。僕のこと普通の蝙蝠だとわざと勘違いして、ホルマリン漬けにしようとしたじゃない」
と、ボソッと言ったのはジルさんだ。
確信犯か!!
そう言えば、ジルさんは蝙蝠に変身するもんな。
なにも知らなければ、勘違いするのはまぁわかるが。
まぁそれも、ステータスを見ようとしなければ、の話か。
「がぅるるる」
唸り声に、俺はゴンスケを見た。
ゴンスケは、俺が食べかけていたアンパンを見ている。
「食べたいのか?」
「ぎゃう!」
「これ、食べさせて大丈夫なんですか?」
俺は、なんとなく、詳しそうなジルさんに聞いてみた。
「コーラやビールが大丈夫だったなら、たぶん大丈夫だよ」
そういうもんなのかなぁ。
「それにほら、小さい子って甘いもの好きだし。体は人間と同じだからアレルギーさえなければ平気なはずだよ」
なら、大丈夫かな。
ゴンスケ、今のところアレルギー出たことないし。
俺はゴンスケに、アンパンをちぎって渡そうとして、はた、と気づいた。
「すいません、お手洗いかしてください」
食べる前には手を洗わせなきゃな。
手の洗い方をおしえて、備え付けてあった風で水を吹き飛ばすあれを使って乾かし、席に戻る。
ジルさんとリオさん、そして、マスターの三人は接客をしていたが、レイさんは俺のいたボックス席に座っていた。
「あの」
「お、戻ってきたか。で、どうする?」
「はい?」
「いや、リオさんから聞いてない?
ドラゴン捕りにいく話」
主語をつけて話してほしい。
というか、勝手に捕ったら密猟だと思うんだが。
「あぁ、その話なら」
断る、と言おうとした俺の言葉を遮って、レイさんは言ってくる。
「もうすぐ、学生さんなら夏休みだろ!
日程はそっちの都合に合わせるしさ」
おい、どういうことだ、行くことになってるぞ。
「いや、俺は」
「まぁ、座れよ。色々話聞きたいんだよ、何しろドラゴンの育成に素人が成功してるしさ。
今後のためにも生の体験談が聞きたいんだよ」
ここ、俺が最初から座ってたんだけどなぁ。
俺は元の位置に座り直す。
丁度レイさんと向かいあう形になる。
と、ゴンスケが俺の横、ではなく何故か膝上に乗ろうとしてくる。
うーん、もう少し小さければ出来るんだけど十歳くらいの体格だとキツイな。
と、
「ぎゃっ!」
一声鳴くと、また体が変わった。
今度は、三~四歳くらいの姿である。
先程の姿を退行させたような感じだ。
服もそれに合わせて小さくなった。
「…………便利だな」
俺はそう呟いた。
すると、それに答えるように幼児ゴンスケは、俺の膝に乗りながら、
「ぎゃう♪」
やはり上機嫌に鳴いたのだった。




