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「で、タカラは元気?」
ゴンスケと、戯れて満足したリオさんは戻ってくるなりそう聞いて来た。
「元気ですよ」
夏休みに帰ってきたら、俺、埋められるかもですけど。
「そっか、んで、あのドラゴンどったの?」
「拾ったんです」
「ドラゴンって落ちてるんだな」
「どちらかと言うと、捨てられていたというか」
「マスター! この店でもドラゴン飼いましょうよ!! お店の看板ドラゴンとして!!」
「あはは、レアドロだねぇ」
リオさんの提案をマスターは笑って流す。
俺はリオさんに訊ねる。
「リオさん、普通に触れました?」
「うん?」
「いや、ゴンスケのやつリオさん前後の年頃の女の子あまり好きじゃないっぽくて。
知り合いの子達には結構唸ったりするんですよ」
「いんや、別に?」
と、今度はマスターが訊く。
「ジルさんとはどうだった?」
「普通に懐いてましたよ。って言うか、あの人、勝手に変身魔法?っぽいの教えてたけど良いのか?」
マスターから俺に視線を移しながら、リオさんはそう教えてくれた。
おお、そりゃ願ったり叶ったりだ。
「わ、マジですか!
そりゃ、ありがたいです」
あとで、ちょっと様子見に行こう。
決してテスト勉強の現実逃避じゃないぞ。
***
「いやぁ、他人の家の子は育つのが早いねぇ」
「…………」
夜、閉店間際に姿を見せたテツの父親であるウルクに、マスターはビールとツマミを出す。
「マスター」
「ん?」
「俺、ちゃんと親やれてます?」
言って、ウルクはビールをあおった。
「おや、珍しい。もしかしなくても弱音?」
「弱音です。マスターにしか吐けませんもん」
「よっぽど、堪えたんだねぇ。
そんなに、汚い仕事だった?」
「いいえ。いつも通りですよ。学生の頃となにも変わらない。
だからこそ、ちょっと吐き出したいんです」
「吐き出すついでに、血の提供でもしていく?」
冗談交じりのマスターの言葉に、ウルクは苦笑で断る。
吸血鬼である、ジルへの血の提供だ。
「それは、遠慮しておきます」
マスターも別に本気では無かったようだ。
ウルクの返答に、笑う。
そして、ついでとばかりに続ける。
「あぁ、そうだ就職おめでとう」
「ありがとうございます」
「それで興信所の仕事の方は、なんとかなりそう?」
「えぇ、紹介してくれて、本当に、ありがとうございました」
「いいよいいよ。
でも良かったの? 近衛騎士の口もあったんでしょ?」
「あはは、マスターの情報網には適わないなぁ。
えぇ、そうですね。でも、無理ですよ。俺には」
「それは、君がテツ君を救ったから?」
沈黙がおちる。
マスターは、ウルクの返しを待たずに店の出入口に掛かっている看板を閉店のものと取り替える。
「…………外道になる覚悟は出来ていました。
だからこそ、道を外れました。あの時、俺は親としても外れたんだと思います。
だからこそ、いまだに考えるんです。
この選択が本当に良かったのか、正解だったのか、いまだにわからないから」
「正解がわかれば、もうちょい人生は楽なのかもしれないしねぇ。
でもこればっかりは、後にならないと、時間が経たないと分からない。
その時にならないと、誰にもわからない。
まぁ、これは俺の持論だけど。
正解なんてないよ。最善はあっても、正解はない。
でも、一つ言えるのは、君が親として外れたから、君の息子は小さなドラゴンの命を救うことができた。
そして大なり小なり、そうだなぁ、それこそこの前の騒動で救われた人達がいた、とも言えるし」
「マスター、この際だから訊いても良いですか?」
「ん?」
「テツは、いつか、俺を恨むと、憎むと思いますか?」
「そうだなぁ、うーん、逆に訊くけど。
君は、自分の子供を救ったことを後悔してる?」
そんな雑談が続き、やがて吐き出して満足したのかウルクは帰って行った。
その背を見送って、マスターは店の片付けを始めたのだった。




