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地上よりは高く。
雲よりは下を、その長細い白線のような身体が滑るように飛んでいた。
「ぎゃうっ♪ ぎゃうっ♪ ぎゃっうぎゃう♪」
「上機嫌ねぇ。まぁ、おめかしみたいなものだから、早く見せたいのは分かるけどね」
「ぎゃうっ♪」
「でも、ゴンスケ。明日からテツ学校だからね」
「くぅるる?」
「そ、学校」
テツの母の言葉に、最近はずっと家にいたテツが前みたいに朝にいなくなって、夕方か夜に帰ってくる生活に戻るのだとゴンスケは察したようだ。
ちょっとしょんぼりしている。
「まぁ、ずっと一緒にはいられないからねぇ」
「ぐるるぅ」
と、そこでテツの母が下界を見下ろす。
斜め下に、テツ達が喚ばれたホテルが見えた。
ホテルからは、こちらからは火の手は見えないものの、黒い煙が上がっていた。
そんな、ホテルを取り囲むように野次馬と、警察車両、救急車両が見える。
「うーん、ちょっと近づき過ぎるのは危なそう」
テツの母はキョロキョロと、ホテルの周囲を見る。
なるべく人気のない場所を探して、見つける。
「あ、ゴンスケ。あそこに降りなさい」
「ぎゃう」
ゴンスケが指示に従って降下しようとした時。
『こらー!! そこのドラゴンライダー! 止まりなさい!』
音割れした、そんな声が届く。
声は、次第に近づいてきた。
そちらを見ると、空飛ぶ白バイこと、ワイバーンに乗った制服姿のお巡りさんがこちらにやってくるところだった。
「ぎゃう?」
ゴンスケが、何アレ何アレ、と体をそちらに向ける。
「あー、そっか、ノーヘルだった。
ゴンスケ、ちょっと待ってね」
テツの母が、やっちまったぜ、とばかりに呟いて空飛ぶ白バイがやってくるのを待つ。
やがて追いついた空飛ぶ白バイ隊員が、声をかけてきた。
「お姉さんノーヘルはダメだよー。ちゃんと被らないと。
それとロングとはいえスカートと突っかけもね。危ないから。
怪我してからじゃ遅いんだよ?
プロテクターと専用ブーツは必須だよ必須。
あとこの辺いま大変なことになってるから、ちょっと降りてから話そうか。
降りたら免許証とドラゴンの登録証、見せてね」
「はい、すみません」
テツの母は、素直に隊員に従う。
「ぎゃう?」
ゴンスケが不思議そうに、隊員と、空飛ぶ白バイのワイバーン、そしてテツの母を見る。
と、ワイバーンが鳴いた。
「ぐぅるる」
「ぎゃう?」
「ぐるっ!」
「ぎゃうるる!」
ゴンスケがゆっくりと降下し始めた。
そこから、適当な場所に誘導され、テツの母が隊員とやり取りする。
と、ゴンスケは風に乗ってきた焦げ臭いにおいの中に、大好きな飼い主の匂いを嗅ぎとる。
そちらの方を見ると、家のテレビにも映っていたあの建物。
ちらり、とテツの母を見る。
まだ時間はかかりそうだ。
早く終わらないかなぁ、と待っていると焦げ臭さと飼い主の匂いの中に、ゴンスケの嫌いな匂いが混じっていることに気づく。
もう一度、ちらり、とゴンスケはテツの母と隊員、それとゴンスケを誘導してきたワイバーンを見る。
ワイバーンは、隊員の方を注視している。
スピードも出ていなかったし、まだゴンスケが子供で従順だったということがあり、油断したのだ。
一通りの話が終わり、警察署まで転移して他の必要書類を書くという段階になって、テツの母がゴンスケに声を掛けた時、気づいた。
「それじゃ、ゴンスケって、あ、あれ?
ゴンスケ?」
その姿が忽然と消えていたのだ。




