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「マジか」
電話の向こうの姉に何を言われたのか、父が物凄く面倒くさそうな表情になった。
「いや、ありがとう。助かった」
そして、通話ボタンを切って俺に携帯を返しながら父は言ってきた。
「面倒臭いことになった」
「先輩、今の電話、誰です?」
「上の子、タカラだ。
今、ニュースでここのことが出てるんだと。
で、どうも、建物内は占拠されたみたいだ。
人質をとってな。最悪なことに、お姫様を含めた民間人とともにテロリスト魔族達はこの国とウェルストヘイム、両国に囚われてる仲間の釈放を要求したらしい。
今は、それこそ動画サイトなんてものがあるからな、そっちの方で動画を投稿、視聴数が伸びてランキングトップに載ってるみたいだ」
テロリストって、動画サイト使うのか。
なんか、意外だ。
「時代ですね~」
「SNS、だったか?
そっちの方でも、野次馬達がこのホテルに近づけるギリギリの場所から撮影した短めの動画が投稿されてるらしい」
「どれどれ」
俺は携帯を操作して、入れてるアプリを起動させる。
動画サイトの方が良いかな?
それに気づいた二人が画面を覗き込んでくる。
アンタらは、ステータスウィンドウがあるだろ、そっちみろそっち。
「あった、コレだな」
現在動画サイト内ランキング一位の動画をタップして、全画面表示にして再生する。
そこに映し出されたのは、宴会場のような場所に一纏めにされた人質の人達と、いかにもな武装をした男達だった。
リーダーっぽい人が、淡々と要求を告げる。
どうやら、時間までに要求が通らなかった場合は五分ごとに人質を殺して行くことに決めたらしい。
武装集団の中にも人質の中にも、あのエロい格好の女の人はいなかった。
「あ、マジっすか、これ!」
人質の中にアストリアさんを見つけた、彼女のお父さんが声を上げた。
お母さんと弟君の姿は確認できない。
そして、自分の携帯端末を取り出すと何処かに電話を掛け始めた。
俺は動画を見続ける。
「あ、いた」
アストリアさんのすぐ近くに、ルリシアお姫様らしき姿を見付ける。
というか、人質は女性や子供、年寄りが多い。
ただ、侍女さんの姿は見えない。
「こういう時って、機動隊とか特殊部隊とかが動くんだっけ?」
「まぁ、一応。
場合によっては、冒険者ギルドに依頼がくる」
たかだか人材派遣会社に?
あ、そっか、そういう経験者がなる場合もあるのか。
伝手とかそんな感じで来るのかな?
「裏任務として、俺らが処理できませんかねー?」
電話を掛け終わったのか、アストリアさんのお父さんーーこれ言い難いんだよな。長いし。
アス父でいいかな?
トリ父?
うーん、おじさんでいっか。
おじさんが、そんなことを口にした。
父が、ちらりと、俺をみる。
「俺、そこまで詳しくはないですけど、ウェルストヘイム側は要求呑むと思います?」
「さて、どうかな。あの国も何かときな臭いからな。
お姫様はお忍びでここにいたーーいや、待てよ?
あの時もお忍びだったよな?」
父が確認するように、俺に訊いてくる。
「あの時?」
「ほら、最初にルリシア様を助けた時。
俺、お前に言っただろ」
あー、そう言えば、お忍びでーとかなんとか言っていたような、そうじゃなかったような。
「あれ、もしかして偶然とかじゃなくて普通に襲撃されたンだとしたら」
「でも、あの時って父さんが指名手配犯の潜伏場所を調べてから行ったんだし、たまたまでしょ」
「俺らがいなかったら、お姫様はどうなってたと思う?」
「そりゃ、良いように嬲られて殺されてたんじゃ?」
「殺された後は?」
「後?」
おじさんは黙って、俺達のやり取りを見ている。
「うーん? あの時はルリシア様はお忍びだったわけで。
そう言えば、少人数で動いてたんだっけ?
ってことは、あの侍女さんにも内緒だった?
仮にそうだとすると、あのままルリシアお姫様が殺されてたなら、表向きには別の場所にいたのに忽然と消えて行方不明になったように見える、かな」
そこで、ようやくおじさんが口を挟んだ。
「なーんか、それだけ聴いてると暗殺みたいですね、先輩?」




