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「よし、とりあえず避難するぞ!」
父の言葉に俺は現状がイマイチ理解出来ていないので、首を傾げる。
「というか、この騒ぎ? 騒ぎは何なん?
何が起きてる?」
この疑問に答えてくれたのは、アストリアさんのお父さんだった。
「魔族に襲撃されたんだよ」
「魔族?」
魔族と言うのは、亜人種の一つだ。
…………一つだったはずだ。
大昔の基準で言えば、うちの祖父母なども魔族になるらしい。
現代の基準だと、見た目は人間と同じ。
違うのは魔力の絶対量と寿命。
世界大戦時代じゃあるまいし、現代じゃ別に攻めて来るような大事なことは起こって居ないはずだ。
「テロリストだよ、テロリスト。
どっかで情報が漏れてたんだ」
父の言葉に、アストリアさんのお父さんが訊ねる。
「情報って。先輩、なんの情報が」
「今日、ここにはお忍びでウェルストヘイムのお姫様が来てんの。ほら、留学中の。
で、ついさっき、襲撃とほぼ同時にカリエルさんからその辺の情報が流れてきたんだ。
杞憂かもしんないけど、気をつけろってな」
「あの熊野郎、まだ生きてたんですね」
熊野郎、か。
まぁ、たしかにカリエルさん熊みたいな外見だったもんなぁ。
「で、見事に襲撃された、と。
じゃあ、さっさと嫁と子供達と合流しましょう。
もう、全員」
「だな」
そんなやり取りを見ていると、また携帯が鳴った。
姉からだった。
『ぶじーー??!!』
キーン、と耳が痛くなる。
と、ほぼ同時に、青空の下飛んでいたヘリが爆発、炎上した。
ホテルより離れている場所だったので、街中へ墜落してしまった。
「タカラだな。テツ、電話貸せ」
「ん」
父に携帯を渡す。
そう言えば、あのメンヘラ気質のエロい格好の人何だったんだろ?
後で父さんと姉ちゃんに動画みてもらお。
***
「ぎゃっ! ぎゃっ!」
天井には幸いにして届かなかった。
しかし、
「大きくなったわねー、ゴンスケ。
でも細長いから、そんなに場所取らないか。」
蛇に前足と、うしろ足がついたドラゴンへと、ゴンスケは姿を変えた。
誇らしげに、ぎゃうぎゃう喚きながら、
「ぎゃうっ! ぎゃっ!ギャギャ!」
いつもの様に尻尾を矢印に変化させて、ゴンスケはテレビを指し示す。
「倅と孫なら多分大丈夫だよ、安心しな」
テツの祖母の言葉に、ゴンスケは頭をブンブンと横に振る。
ピンときた、テツの母が、
「もしかして、テツ達を迎えにいきたいの?
うーん、でもねぇ、今お義父さん軽トラで出掛けてるし。
私やお義母さんのくるまじゃ、ちょっと狭いだろうし。
帰ってくるの待ってなさい」
ゴンスケは、テツの母の言葉に顔を膨らませると、
「ぎゃうるる!」
やはり動きは前と同じで、のっそのっそと玄関へ移動する。
そして、
「ぎゃうるる! ぎゃうぎゃう!!」
玄関の扉を開けろと催促する。
「外に出たいの? あ、自分で迎えに行きたいのか」
テツの母が玄関までやってきて、ゴンスケへそう訊く。
今度は、ゴンスケは首を縦に振った。
「でも、ゴンスケ、歩きじゃとてもじゃないけど」
尚もそう言ってくるテツの母に、ゴンスケは向き直ると彼女の着けていたエプロンを噛んで引っ張る。
と、そこに、ポンが現れて一声鳴いた。
「ポン? どうしたの?」
「にゃう」
もう一度、何かを訴えるように鳴いた。
すると、ゴンスケが応えるように、
「くぅるるぅ」
そう鳴きながら、ゆっくりとその巨体が少しだけだが、浮き上がった。
「なるほど、わかった。
でもゴンスケだけじゃ迷子になるからね、私を乗せて行くこと。それと、ちゃんと私の言うことを聞くこと、できる? 出来る子は手ェあげて」
そのテツの母の言葉に、
「ぎゃう!!」
自信満々な返事をしつつゴンスケは前足を上げようとして、バランスを崩して尻もちをついてしまう。
何が起きたのかわからないのか、ゴンスケは尻もちをついたそのままの状態で、母を見返した。
テツの母は苦笑いしながら言い直す。
「ちゃんと言うこと聞ける良い子は、尻尾をあげて」
「ぎゃうぎゃう!」
ゴンスケは、今度は綺麗に尻尾をピンっと立てたのだった。




