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気づくと、俺は外にいた。
遠くから、いや、わりと近いな、プロペラの音が聴こえてきて、上を見る。
青空が広がっていた。すぐ近くに黒煙が立ち上っている。
そして、ヘリコプターが近くを飛んでいた。
「?
どうゆう状況だ、これ?」
すぐ近くにある柵まで近づくと、街が一望できた。
ホテルの屋上か?
「おい」
俺が考えていると、背後からそう声を掛けられた。
振り向くと、特進クラスの制服を着た、何処かで見たことのあるような、いや、やっぱねーや。
初めてみる顔の、同学年くらいの生徒が俺のことを睨み付けていた。
「ドブネズミ、今度こそお前を駆除してやるよ」
新手の厨二患者だった。
特進クラスって、ストレス多そうだもんなぁ。
えーっと、出口は、あ、あったあった。
「って、聞けよ!」
「なんか危なそうだから、さっさとお前も逃げた方がいいんじゃね?」
「馬鹿にすんじゃ、ねーーーー!!」
出入り口のドアノブを回す。
あれ?
鍵かかってる?
あ、
「らっきー、小銭めーっけ」
俺は、出入り口のすぐ側に落ちていた銅貨を見つけ、拾おうと屈む。拾って頭を上げる。
瞬間。
ガンっ!
何かが俺の頭に当たった。
「ん?」
俺はそちらを見る。
剣の柄が見えた。
その先にあるはずの刃は、途中で折れてカラカラと音を立ててすぐ近くに転がった所だ。
「は?」
訳が分からない、という表情を特進クラスの生徒は浮かべる。
「あー、刃物は人に向けちゃいけないだろ。
俺だから良かったものの」
「嘘、だろ。だって、神様の加護を受けた特別な武器だって、言ってたのに」
「?」
そういう設定なのか。
でもなぁ、いくら厨二とはいえ、刃物持ち出しちゃダメだろ。
と、今度は足元に違和感を覚えて、跳んで避ける。瞬間魔法陣が展開して、雷の柱が今まで俺がいた場所を穿いた。
あっぶねーー!!!
なんなんだよ、もしかしなくても喧嘩売られてる?
でもなぁ、知らない人に恨みを買うことなんて、少なくとも今日はしてないんだけどなぁ。
あー、でも駅とかですれ違った時に肩がぶつかったことでブチ切れて暴行をする人もいるからそれかなぁ。
それかな?
いやでも肩がぶつかった記憶はないしなぁ。
うーん?
着地して俺が悩んでいると、ポケットで携帯が震えた。
携帯の通話ボタンを押して、電話に出たら、こんどは槍を持って特進クラスの生徒が襲いかかってきた。
あの槍、どっから出したんだろ?
『アンタはいったい、何に巻き込まれてるの!?』
姉だった。
「いや、知らん」
『知らんじゃないでしょ!
なに、遊んでるの!!
そんな槍小僧くらいさっさと殴って止めなさい!!』
「暴力はよくないと思うんだよ、姉ちゃん。
って、え?
なんでわかったの? 槍に襲われてるって」
『動画サイトで生配信されてるの!!』
姉よ。もしかして、彼氏が出来ずに暇だからこんな昼間っから動画漁ってたのか?
「なるほど」
『なるほどじゃないでしょ!』
俺は繰り出される槍の攻撃をひょいひょい避ける。
「いや、万が一にも怪我させちゃうとさー」
『正当防衛!!』
「でも、」
『あー!! もう、埒が明かない!!』
耳元では姉の、眼前では初対面の特進クラスの生徒のイラついた声が届く。
「さっきから何をごちゃごちゃと一人で喋ってるんだ!
このクズのネズミがぁあああ!!」
五月蝿いなぁ。
と、今度は周囲が暗くなり始めた。
空に真っ黒な雲が出現したのだ。
ただ、それはこのホテルだけで、他は青空が変わらずに広がっている。
『誰の弟がクズのネズミだって? もう一度言ってみろや、このガキんちょのボンボンがァァ嗚呼!!』
姉のブチ切れた声とともに、特大の雷が特進クラスの生徒へ向かってピンポイントで落ちた。
いや、幼少時代の姉ちゃんも相当俺の事、玩具にしてたじゃん。
姉ちゃんがそれ言っちゃいけないだろ。




