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アストリアさん一家とは途中まで一緒に移動した。
食事会の場所が同じだったのだ。
レストランではあるが、商談をする人もいるためか個室だった。
アストリアさん一家は先にレストランに入って行った。
それを見送って、父が近くにいた従業員へ予め渡されていたルリシアお姫様からの招待状を見せる。
一瞬、従業員は顔を強ばらせたように見えたが、本当に一瞬で直ぐに俺たちを案内した。
促されるまま個室に入ると、すでにルリシアお姫様ともう一人、四十から五十代くらいの女性が座っていた。
ぎろり、と女性に睨まれてしまう。
もうヤダー、お家帰るーー!!
帰ってポンをモフモフするーー!!
ゴンスケと、依頼こなすーー!!
ついでにこの前始まったラノベ原作の深夜アニメ(ハーレムもの)見るんだーー!!!
と、脳内で繰り広げる。
とりあえず、顔はいつも通りのはずだ。引きつってないし、どん引いてないはずだ。
「テツさん、お久しぶりです。本日は忙しい中ありがとうございます」
いえ、別に忙しくありません。
忙しくないので、早く帰りたいです。
むしろなんか気を使わせてごめんなさい。
「あ、今日は、お招きいただきありがとうございます」
「そんな畏まらないでください。先日のように砕けた口調で」
クスクスと微笑みながら言ってくるルリシアお姫様の言葉を、隣にいた女性が口を挟んで途切らせる。
「ルリシア様! はしたないですよ!」
小学校の時、鬼婆って言われてた、女校長思い出すな。
あの校長も人間種族だったけど。
「良いじゃない。今日くらい」
「ダメです! 失礼。私はルリシア様の侍女兼教育係です。
どうぞ、お座りください」
厳しそうな人だなぁ。
そこからは、まず先日の救助に関するお礼を言われ、感謝状と箱に入った勲章を渡された。
もう一枚、貴族であることを証明する証書を渡される。
箱を開けて、勲章を見た。
華の形をした勲章だった。
カバンに付けてキーホルダー代わりにでもするか。
んー、女子が好きそうなデザインだな。
侍女さんがルリシアお姫様に代わって、お礼の言葉を言ってくる。
ただ、それは俺ではなくて父親に向けられていた。
ふとルリシアお姫様を見ると、戸惑っているようだった。
やがて、社交辞令ではあるが侍女さんが、
「あとは、何かお困りのことがあるようなら申してください。できる限りの力になりましょう」
と言ったら、父がいつもの苦笑を浮かべて、
「では、お言葉に甘えてもよいでしょうか?
先日、そちらから雇用についての、お話がありましたがそれは申し訳ありませんがお断りさせて頂きたく思います。
ただ、少し今回のことを利用させていただきたいのです」
そう切り出した。
そこからは、侍女さんとルリシアお姫様、そして父の話し合いとなった。
侍女さんが渋い顔になる。
しかし、最後には父の提案を了承してくれた。
そこから食事へと移ったのだが、まぁとにかく侍女さんは俺の存在を無視した。
やっぱり付け焼き刃のマナーだってわかるよなぁ。
すいませんねぇ、侍女さん。不快にさせて。
と、ルリシアお姫様が俺に声をかけてきた。
侍女さんが口に食べ物を入れた瞬間に話かけてきたな。
「あ、あのテツさん! そのテツさんには、こ、恋人、のような、将来を誓った方はおられるのでしょうか?」
「いえ? いませんよ」
ここで、二次元に複数嫁がいますよ、とか冗談言えたら良かったんだけどなぁ。
侍女さん、冗談通じなさそうだし。
ルリシアお姫様の顔がパァっと明るくなる。
「そ、それでは」
「ルリシア様、下品な話題は避けるよう、いいましたよね?」
「で、でも、同年代の方のお話は興味があるの、いいじゃない、それくらい」
女友達いないのかな。
あー、身分が上すぎてその辺難しいのかな?
貴族にも家格とか上下関係があるらしいし。
「そういえば、ルリシアお姫様は犬や猫を飼ってるって言ってましたよね?
ウチの猫はもう、お婆で基本日向ぼっこしかしてないです」
困った時はペットの話題だ。
侍女さんに、気安く話しかけんな次期国家元首ぞ? とばかりに睨まれた。
でも、お姫様は嬉しそうにペット自慢を始めた。
それを俺は相槌をうちながら聞く。
そんな穏やかな時間は、しかし、急に終わりを告げた。
大きな揺れと、爆音が同時に襲い。
闇が広がった。




