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謹慎最終日。
つまり、ルリシアお姫様との食事会当日。
父は新しいスーツ姿で、俺は制服で指定されたホテルへやってきた。
少し早く着きすぎたので、ホテルの駐車場に停めた車の中で適当に時間を潰す。
「お前、女の子の友達が出来たんだってな」
「それが?」
「いやぁ、青春だなぁと」
「…………家族で、今日ここでご飯食べるって言ってたから、会えるかもよ」
「え、お金持ち?」
「お金持ちっていうか、ほら、謹慎することになった時、ピー音入ってたけどさ痴情のもつれがどーたらって、報道されたじゃん?
要は迷惑を被った子だけど」
「あー、公爵様のご令嬢か」
という、ほんとどーでもいい会話をして時間を潰す。
「ん?」
父が不思議そうに後部座席を見た。
「なに?」
俺も身を捻って後部座席を見る。
立駐ではない、外にある駐車場のためすぐ横には歩道と道路があり、車と人が行き交っていた。
「いや、なんでもない」
それから、時間を確認して、車を出た。
金魚のウンチのように父親の後に続く。
ホテルに入ると、係員に誘導され何故か念入りに身体と持ち物チェックされた。
解放されると二人して、キョロキョロとエレベーターを探す。
すると、
――――――とんとん
軽く肩を叩かれた。
振り向くと、アストリアさんがいた。
「ホントにいた。こんにちは!」
「ん、こんにちは」
と、その後ろからアストリアさんの両親と、来年に小学生になるという弟君が現れた。
ウチの父もそれに気づく。
すると、アストリアさんのお父さんを見て口をあんぐり開けてしまう。
アストリアさんのお父さんも、かなり驚いている。
「せ、せせせ、せんぱーい!!」
叫ぶように声を出したのは、アストリアさんのお父さんだった。
「おま、え、て、ことは、その人ってもしかして」
ニッコリとアストリアさんのお母さんが父に笑顔をむける。
「あらあら、なるほど道理でお父様に似てると思いました」
アストリアさんのお母さんがちらりと俺を見て、そんなことを言った。
似てる?
「お久しぶりです。ウルク様。
元気そうで、何よりです」
「ひ、姫様も、お元気そうで、なにより、です」
「ふふふ、元、が付きますよ。
でも、そうですか、テツさんのお父さんが貴方だったとは。
かの英雄の息子さんだったんですね」
「いやぁ、俺も驚きましたよ姫様。
こいつの友達の親が、まさか姫様達だったとは」
「先輩、なんで連絡してくれなくなったんですか!?
俺が冒険者辞めたあとぷっつり音信不通になるから、てっきり魔物の餌になったとばかり!」
そんな親の会話に入れない俺とアストリアさんは、互いを苦笑混じりに見た。
「英雄?」
アストリアさんが訊いてきた。
「俺はよく知らないんだけど、なんか父さん学生時代にヤンチャしてたらしくて、魔神倒したことがあるんだってさ」
「魔神?
魔神討伐の英雄って言うと。
一番最近で二十年くらい前に短期間で四体倒したっていう、英雄ウルクくらい、じゃ」
アストリアさんが、自分の親と親しげに話す俺の父を見て、すぐ俺を見た。
「なんだ、有名な話なんだ」
俺のつぶやきに、今度はアストリアさんが驚きの表情になった。
と、俺の呟きが聞こえていたのか、アストリアさんのお父さんが言ってくる。
「先輩、なにも話してないんですか?
勇者に当時の恋人奪われた腹いせに、勇者の所有してた、バイクと聖剣盗んで魔王城に単騎で乗り込んで、魔王城の窓という窓を聖剣で割りまくった上、魔王と魔神の首まで取った話とか。
あとあと、将来を誓いあった恋人が、魔族で。それは良かったんだけど、実は財布目的でしかなくて結婚詐欺まがいで当時の財産持ち逃げされた仕返しに、その恋人の故郷を支配してた魔神を滅ぼして連鎖的にーー」
なにそれ、聞いてない。
というか、婆ちゃん。父さん全然大人しくないじゃん。
「あははは、教育に宜しくないから、お前もう黙れ」
なおも話し続けるアストリアさんのお父さんへ、父さんが、苦笑しつつぴしゃりと言った。
こんな人だったんだ、アストリアさんのお父さん。




