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夜。
アストリアが連れてきた初めての友達を玄関先で見送る。
帰りの送迎は、護衛を任せている者達に頼んである。
「いい子ね」
「うん!」
「それにお城のおじいちゃんによく似てる」
「そう?」
「ほら、ドラゴン飼ってるんでしょ?
ドラゴンが懐くほどだから、よほど魔力が強いか容量が大きいのかなって思ってたんだけど、違った。
アストリア、あの子が魔力ゼロだって黙ってたでしょ?」
「あ、それは」
母が差別をするとは思っていなかったが、デリケートなことなのでアストリアがわざわざ言うのもはばかられたのだ。
「それもあの子の場合、生まれつきみたいだし」
「え、なんでわかったの生まれつきって??」
「ん? お城のおじいちゃんに似てたから。
つまり、覇気、オーラがおじいちゃんと同じだったからね。
オーラは英雄の色をしてたから、時代が時代なら勇者か下克上で王様に成れた子ね。
覇気がある人、それも英雄の色をしてると魔力が先天的に備わらないことが多いの」
「え?」
「あ、アストリアは知らなかったっけ?
お城のおじいちゃんも、魔法使えないのよ」
「そうだったんだ」
「即位して、ずっと魔力ゼロの人への差別を無くそうと頑張ってきたからねぇ、おじいちゃん。
あの子にとって、少しはこの世界が生きやすくなってたら良かったんだけど」
少しだけ悲しそうに、アストリアの母は言って言葉を切った。
逆にいえば、それだけ今が平和ということだ。
平和な時代に、英雄はいらない。
英雄が必要な時というのは、それだけ大変な時代ということだ。皮肉な話である。
やがて、アストリアの母は続けた。
「アストリア、友達は大事にね」
「うん、もちろんだよ」
「英雄、本当の正義の味方は貧乏くじを引くものだから」
「?」
「本当に正しい行いをした人ってね、ほぼ確実に損をするものなの」
歴史上の英雄に限らず、正義の大小に限らず、正しい行いというのは痛みを伴うものなのだ。
「あと、ドラゴンが懐いてる理由だけど、損をする代わりにオーラの波長があった生き物なら惹き付ける性質があるの。
たぶん、それね。ドラゴンが飼えてる理由。
魔力の無い存在は、神様から愛されなかったから、嫌われたから、前世で悪いことをした穢れた存在だからっていう考えがあるけど、むしろ逆なの。
神様に愛されてるからこそ、苦難ばかりの人生になってしまう。
お話なんかだと、自己犠牲がそれね。
逆にいえば、自己犠牲の精神で見返りを求めなければ誰だって正義の味方に、英雄になれるってことなんだけどね」
母の説明に、今度学校で教えて上げようと思うアストリアだった。
***
アストリアの家には近づけない。
学校でもそうだ。
それでも、一目見たかった。
彼女の姿を、たった一度で良いから見ておきたかった。
そんな彼の想いを裏切るように、あのネズミが彼女の家から出てきた。
怒りが一気にふくれ上がる。
「こら、ダメでしょ?
アナタは愛しい彼女の白馬の王子様になるんだから。
ここは、その舞台じゃないわ」
彼に力をくれた妖艶な女性に窘められた。
「穢れたネズミが、調子に乗りやがって」
「そう、ネズミ。穢れてるから、皆から嫌われてる。
害獣ね。
神聖なものを汚そうとしてる。
だからこそ、わかってるわよね?」
「もちろんだ。あんたから貰ったこの力でぶっ殺す。
ただのネズミ退治でも、舞台さえ整えれば俺は英雄になれる」
「フフっ。そうね、英雄への道は誰でもそうだけれど、まずは小さな悪を討つところから始まるものよ」




