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アストリアさんの家は、学校から程近い都心部の高級住宅街の中にあった。
片道50分か。良かった迎え来てもらえて。
普段、バス使ってるからなぁ。
バスで行く道を自転車はさすがにキツかった。
お金溜まったし、誕生日きたらスクーターの免許取りに行こうかな。
とりあえず、往復ありがとうございます、黒服護衛さん達!
さて、アストリアさんの家だが。
質素、というよりも、洗練されたデザインの家だった。
たしかに、無駄に広い【田舎のおばあちゃん家】の見本みたいな、ただただデカくて古くて農作業のために広いだけの俺ん家と比べると小さいと言えるだろう。
「……………………」
本当にお嬢様だったんだな。
……………………。
もうお家帰るーー!!
自分で言い出したことで、頼んだことだけど、俺って異物じゃん!
お家帰って、録り溜めた特撮観るーー!!
こんなキラキラした世界、ずっと居たら浄化されそう。
「さぁ、どうぞ」
一軒家をぐるりと囲むのは塀だ。
そして、出入口のところは柵になっている。
護衛さん達が、柵の鍵を開けてアストリアさんと俺が入るのを待っている。
「……………………うん」
もう、ぽんぽん痛い。
うわぁ、これ絶対アストリアさんのお母さんにいびられるよ。
謹慎のアレで、巻き込んじゃったもんなぁ。
どこもかしこもキラキラしてる。
ウチなんて、ポンもそうだけどチコ(初代、黒猫。野良のボスに負けっぱなしだった)やムスコ(二代目、白猫。チコの子供でポンの兄貴。野良のボスとよく喧嘩しては負けてた)とチョコ(三代目、父ウルクが知人から貰ってきた。野良のボスに勝てた試しが無い)達があちこち爪とぎした跡などで荒れてるっつーのに。
「あ、そういえば、一応洗濯とコロコロしてきたけど、大丈夫かな。
お母さんと弟さんアレルギー持ちだったよな?」
「うん、一応中に入ったらもう一度、粘着ローラーしてもらうけどね。
たぶん大丈夫だよ。アレルギー持ちだけど、そこまで症状重くないし。
そもそもダメだったら最初から断ってるし」
それもそうか。
招かれるまま、俺はその家に足を踏み入れた。
アストリアさんが玄関の扉を開け、中に入る。
「ただいまー」
「お、お邪魔します」
うわ、中も綺麗だ!
ちゃんと掃除してんだろうな。
掃除しても、どこからともなく入り込む野良猫とウチの猫の足跡だらけの俺ん家とは大違いだ。
華美ではなく、シンプルだ。
飾り、調度品と言うんだったか。
小さな瓶や現像した写真くらいの大きさのミニ絵画なんかが飾られている。
と、パタパタと奥から人が出てきた。
「ようこそいらっしゃい!」
にこやかな、なんというかとてもフワフワとした優しそうな女性が現れた。
顔立ちがアストリアさんに似てるなぁ。
同じ年月だけアストリアさんも歳を重ねたらこうなるのだろう。
俺は頭を下げる。
「お邪魔します。
今日は我儘を聞いていただきありがとうございます」
礼儀正しく。
礼儀正しく。
「それと、謝罪がこのような形になり申し訳ありません」
「謝罪?」
アストリアさんのお母さんが不思議そうに聞き返してくる。
俺は下げた頭を上げる。
「アストリアさんも、例の動画で迷惑を被ったと聞いています」
「あぁ!! 気にしなくていいのよ。
それよりも、この前はお芋ありがとう。ホクホクしてとっても美味しかったわ。御家族の方にとっても美味しかったって伝えておいてね」
ホワホワと言うアストリアさんのお母さん。
と、玄関の外から黒服さんの一人が声をかけてきた。
「奥様。今回も玉ねぎを貰いました」
アストリアさんもそれに続く。
「これは、テツさんのお母さんからだよ」
黒服さんが二重にした袋を、アストリアさんがちょっとお高めな菓子折りを見せる。
「まぁ! 逆に悪いわ」
「いいえ、マナー講座の費用代わりです。皆さんで食べてください。
それと母がよろしくと言っておりました」
ニコニコと微笑ましいわぁと、言わんばかりの笑顔だ。




