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「困った」
ネットで食事のマナーについて検索しながら、テツは呟いた。
「きゅうるるる?」
まだ携帯空かない?
と、ゴンスケが軽い頭突きを食らわせてくる。
「困った~」
ルリシアお姫様から晩餐会のお誘いが正式に届いた。
ささやかなものだと言うが、ささやかにしては、その食事をする場所が全然ささやかじゃなかった。
場所を検索してメニュー一覧を見てみると、ランチは最低でも一人、ファミレスで家族五人前後で食べてさらにデザートまで付けられる値段だった。
さらにドレスコードまであるときた。
が、学校の制服で大丈夫だよな?
失礼になるかな?
無理無理無理。
街中にある大衆焼肉【お気楽堂】を提案してみようか?
いや、炎上確実だよ。
どうするよ、俺テーブルマナーなんて殆ど習ってねーよ。
習ってたとしても、覚えられる自信がない。
「あーーーーっ!!
この話流れねーかな?!
くっそめんどくせぇぇえええ!!」
「きゅうるるるぅぅうあああ!!!」
横でゴンスケが、早く携帯端末を寄越せぇえええ!! とばかりに尻尾をベシベシしてくる。
せっかくお金あるし、ゴンスケ用にタブレットでも買うか。
そんな現実逃避を始めた俺に、そのメール受信の文字が飛び込んできた。
「あ」
その名前に、俺の中にとある考えが浮かんだ。
それは、定期的に送られてくるアストリアさんの画像に関するお礼メールだった。
彼女も律儀だよなぁ。
そう思いながら、俺は、そのメールへ返信メッセージを書く。
内容は、テーブルマナーについて教えてもらえないか、である。
ルリシアお姫様のことは、伏せて、『先日、諸事情で知り合った貴族の人に食事に誘われたけれど、場所がかしこまった所なのでテーブルマナーが必要で、せめて失礼のないようにしたいから、アストリアさんに教えて貰いたい』と説明した。
他に頼れる知人がいないのだ。
あ、でも、断られるかな。
実質、今回のことで彼女にも迷惑がかかってるみたいだし。
まだ、昼。
これから午後の授業だろうから、返信が来るのは夕方くらいだろうと思っていたら、すぐ返信がきた。
返信というか、着信だった。
『あ、えとえと、テツさんの携帯でしょうか?!』
「もしもし、アストリアさん。そうだよ。ごめん、電話なんかさせちゃって」
バシバシっ!
『ううん、気にしないでいいよ。
メールの件だけど、私ならいつでも大丈夫だよ。
それで、いつにする?
色々道具が揃ってるから、私の家で教えるよ』
バシバシバシっ!
晩餐会は、再来週。つまり、謹慎最終日。
来週は祝日があって世間的には三連休だ。
「じゃあ、急なんだけど次の休みが三連休だから、その都合のつく日、お邪魔していいかな?」
『いいよー。
三日間とも空いてるから、三日間ともみっちりできるよ。あ、私の家わかる?』
「そりゃ、ありがたい。
なら初日で良いかな?
さすがに三日間全部潰すのは、気が引けるからさ。
そういえば、家、知らないや」
『気にしなくていいよ。
でも分かった、とりあえず三連休初日ね。
じゃあ、迎えに行くから』
さすがに、送迎も悪い気がする。
でも、言葉に甘えよう。
「ありがとう、助かる」
バシバシバシっ!
バシバシバシっ!
ばんっ! ばんっ!
『気にしなくていいよー、友達だしね。
ところで、なんか破裂音みたいな音がするけど、もしかしなくても立て込んでた?』
「あ、いや、ゴンスケが動画みたいから早く携帯寄越せってせっついてるんだ」
『そっか、じゃあ切るね。ゴンスケ、バイバイ』
「ううぐるるるぅ」
おい、香水の匂いしないだろ、唸るなよ。




