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ゴンスケを拾い、飼い始めて数日後のことだ。
携帯で動画を見てケラケラと、まぁお世辞にも上品とは言えない笑い方で笑っていた俺に、祖母が声を掛けてきた。
「テツ坊、これ貰ったよ」
「ん?」
見れば、祖母の財布の中に蛇の抜け殻のようなものが入っている。
「アンタの蛇が脱皮したから、ほら、蛇の抜け殻って金運が上がるって言うし、また脱皮したら頂戴」
蛇じゃなくてトカゲなんだが、まぁいいか。
「わかった」
それにしても、ゴンスケはあんな捨てられ方をしていたのにかなり人慣れと、そして猫慣れしている。
そして、懐いているようだ。
犬猫と違ってトカゲは人に慣れることはあっても懐くことはないと、ネットに書いてあったが、なんというか懐いてるように感じてしまう。
どうでも良いことだが、テツとは俺の事だ。
テサウルスと言うのが本名だ。
役所へもテサウルスで届けてある。
まぁ、言い難いからかよくわからんが大人達はテツ坊、友人知人からはテツと呼ばれている。
ちなみに、その抜け殻の生産者であるゴンスケは俺の頭の上で誇らしげである。
脱皮したら少し大きくなった。
と言っても、まだまだ掌サイズではあるが。
頭の上は見えないだろって?
オーガである祖母の手入れの行き届いてピカピカな二本角が、鏡の役割をしているのでそこに写っているのだ。
祖母が、優しく俺の頭に鎮座しているゴンスケを撫でる。
角に映るゴンスケは嬉しそうだ。
「くぅるるるぅ」
甘えるような鳴き声を出す。
「おや、背中に変なコブがあるね」
祖母が撫でていた手を引っ込めてそんなことを呟いた。
気持ち良さげに撫でられていたゴンスケは、物足りなそうな顔をして祖母を見返す。
そういや、こいつたまに、俺の携帯端末で動画再生してるんだよな。
しかも、ちゃんと観てるし。
頭良いトカゲだよなぁ。
俺は頭からゴンスケをひっぺがし、その背中を見た。
たしかに、ラクダのコブか、ドラゴンの背びれのようなボコボコとした物がいくつも出来ている。
「頭にも、これ角じゃない?」
祖母が更に指摘した。
そこには、たしかに変形した角のような尖った部分があった。
「ホントだ。
最近のペット用の生き物って品種改良が進んでるらしいから、大きくなるとビジュアルがドラゴンっぽくなるのかも」
自分で言ってて、俺は少し楽しくなってきた。
ドラゴンなんて、高くて手が出せない。
あんなのを飼えるのは、金持ちだけである。
品種にもよるが、ほぼ飼い主がステータス目的で飼うのが普通だ。
世の中には龍人族という種族もいるが、アレだ人間と猿的な関係だ。
龍人族や森人族はその名の通り亜人であり、どちらも魔力も知能も人よりも上の存在だ。
勝ち組種族というやつである。
大企業や高学歴の、まぁつまりはエリートや金持ちに多い種族である。
もちろん、上流階級には人間種族もいる。
龍人族や森人族は意識高い系にも多かったりする。
そして、そんな上流階級の者達のペットになってるのが品種改良されたドラゴンだ。
一部のペットショップで犬猫とおなじように、卵から孵ったばかりの子ドラゴン、雛が売られているのである。
値段は、まぁ、高い。
最低価格で最新の耕運機が二台ほど買える値段だ。
耕運機だと、農家じゃないとわからないか。
高級外車二台分くらいだ。
育てるのも、詳しくは知らないが難しいらしいとは聞いた。
爬虫類は脱皮だが、ドラゴンの場合は脱皮ではなく進化と呼ばれる。
ペット用のドラゴンは、品種にもよるが小型のものから大型まで色々いるらしい。
しかし、一般、どころか下流階級である我が家ではそもそもペットを店で買うなんてできない。
今いるポンは、我が家の農作業小屋に居着いた野良猫が産み落とした一匹である。
かなり人懐っこい性格で、母が気に入ってしまい気づいたら首輪を付けられ我が家のお猫様として君臨していた。
ちなみに、ポンの餌代は父の小遣いを削ることで捻出している。
ポンのために、父はタバコと酒をやめた。
「品種改良、ねぇ。あんまり良いイメージはないけど。
まぁ、飼うなら最後まで責任持ちな」
と、祖母。
「わかってるよ」
ちなみに、ゴンスケの餌代は俺の小遣いから出ている。
でもコイツ、トカゲのクセに虫を全然食べないのだ。
目を離すと、焼き魚とか生肉を食べる。
昨日、母にその盗み食いが見つかって叱られ、しばらくしょんぼりしていた。
「間違っても、ゴミと一緒に捨てるんじゃないよ」
「わかってるって」
祖母がこんなにしつこく言う理由は分かっている。
あの子猫の話があったからだ。
むしろ、ゴミとして捨てられていたから拾ったのだ。
それに、ゴンスケが脱皮で格好よくなるならとても楽しみだ。
そう思っていた時期が俺にもありました。