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先日助けたお姫様が、是非ともお礼をしたいらしい。
正式に、強盗から命を救ってくれたウルクとテツに貴族の位を与え、さらに出来るなら彼女付きの護衛として雇いたい、という話が出ているらしい。
カリエルは、ウルクがこういう話を嫌がるのを知っているため慎重に言葉を選んで説明した。
そして、ここから先はカリエルの提案であるのだが、
「ルリシア様に事情を話して、大々的に他国だけれど王族がバックについてることを宣伝すると言うのはどうだ?」
何しろ、世間はドラマティックなことが好きだ。
作り話のような成り上がりストーリーとしては、メディアも食いつくだろう。
「いや、そこまで大事にはしたくないので」
「しかし、このままじゃ泣き寝入りだろう?
ルリシア様としては、借りた服を自分の手で返したいとも言っているらしい」
テツの中学時代のジャージ、つまりは古着だ。
返さなくても、息子なら別に気にしないのだろうが。
「それに、世間も意外と飽きやすい。
来年の今頃にはもう忘れられてるはずだ」
「…………倅の意見も聞いてからで良いですか?」
「もちろんだ。
ただ、大々的に、ってのはもう一度言うが俺の意見でしかない。
だから、せめてルリシア様の意志を汲み取ってお礼だけは受け取ってほしい」
「わかりました」
その日の夜、息子は友達と焼肉に行ったらしく夕食にはいなかった。
そのため、まずはもう1人の保護者へ話だけでも通しておく。
「へぇ、そんなことが。まぁテツの返事次第ね」
嫁に、軽く返されてしまった。
「テツが嫌がったら、アンタが矢面に立ってとりあえず貰えるものはもらっておけばよし」
嫁は子供を産んで【母ちゃん】になってから、なんと言うか漢らしくなった。
「わかった」
***
深夜、彼女ーールリシアは悪夢に魘され目を覚ました。
留学中、滞在しているゲストハウスの一室である。
天蓋付きのベッドから身を起こし、大きく息を吐き出した。
襲われてから数日。
大きな怪我どころか、間一髪で貞操も守られた彼女の心はそれでも傷ついていた。
カウンセリングを受けながら、無理のない範囲で学業に取り組む。
勉強をしていると、気が紛れるのだ。
さらにもう一つ幸いだったのは、彼女がそこまで異性を恐れなかったことだ。
きっと助けてくれた、あの親子のお陰だろう。
それでもふとした時、あるいは夢にあの日の光景が出てくる。
今も、そうだった。
学校にいる時は無理だが、こんな時彼女は綺麗に洗濯されいつでも返せるように準備しているその服を持ってきて、抱き抱えベッドに横になる。
ルリシアを助けてくれた彼ーーテツが用意していた着替えの運動服だった。
少しだけ、自分の鼓動が早くなる。
そして、思うのだ。
「もう一度、会いたい、です」
彼の父親は一瞬で盗賊を倒してくれた。
先日はほとんど発揮されることは無かったが、彼も、かなりの強さを持っているはずだ。
盗賊を倒しこそしなかったが、軽くあしらっていたのと、何よりもドラゴンに好かれているという事実。
ペット用だろうとドラゴンは絶対的な強者だ。
だからこそ、より強い存在に付き従うのだ。
彼の優しい笑顔と声を思いだすだけで、また胸が高鳴った。
会えない苦しさと、切ないほどの愛しさがルリシアに安心と幸福をもたらす。
初めての感情に、彼女は、悲しさを紛らわすことが出来た。
だからこそ、もう一度彼に会いたいと願うのだ。
それが許されない想いだと気づかぬまま、再会を夢見るのである。
やがて穏やかな寝息が聞こえてきたが、この部屋の中には彼女以外いないので誰にも聞かれることは、無かった。
だから、
「お慕いしております、あの日から、ずっと」
そんな寝言も、誰にも聞かれずに済んだのだった。




