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助けた女の子は、思いのほか元気そうだった。
ゆるくウェーブのかかった金色の髪に、同系色の瞳。
アストリアさん並みに白く、線の細い、まさに折れそうな体をした女の子だった。
歳は、俺と同じくらいかな?
たぶん、まだ現実に思考が追いついてないのだと思う。
とりあえず、自分で汚れを落としたり着替えたりは出来たので、あとは国道まで戻って、呼んだ救急隊に彼女を預ければ良いだろう。
国道へ戻ろうとしたら、女の子の足が震えて立てなくなっていた。
「テツ、肩かしてやれ」
「ん、あ、おんぶの方がいい?」
父親の指示に、俺は女の子に訊ねる。
こうも震えていたら、逆にそっちの方が良いかもしれない。
「あ、は、はい、ごめんなさい、お願いします」
俺は、俺の中学時代のジャージを着た女の子を背負う。
俺が持ってきていたカバンは父親が背負う。
どうでもいいが、女の子ってホントいい匂いするなぁ。
こだわりとかあんのかな?
あー、そーだ次の姉ちゃんの誕プレ香水にするか。
そういや、香水っていくらくらいするんだろ。
「あ、あの、テツさん」
「はい?」
「それと、テツさんのお父様も、助けて頂いて本当にありがとうございます」
「気にしなくていいよ、俺は父さんの手伝いでくっついてきただけだし」
どうやら彼女は、あの車に乗っていた生存者らしい。
道すがら、彼女は少し落ち着いたらしく、盗賊には他にも仲間がいること、その仲間に車の同乗者達が殺されてしまったことを話してくれた。
その受け答えをしたのは父だった。
父から、他の盗賊達が死んだことと、犠牲者の遺体は保護されたことを説明されると彼女は安心すると同時に、鼻をすする音が聴こえてきた。
何か気を紛らわせた方が良いかな。
でも、下手なこと言えないしなぁ。
あ、そうだ。
「君の家、ペット飼ってる?」
「え?」
突然何を言い出すんだ? と不思議そうな声が返ってきた。
「ウチはさ、猫とトカゲがいるんだけど、画像見る?」
「え、トカゲですか?」
あ、爬虫類苦手なのかな?
そうだよなぁ、やっぱり女の子だしなぁ。
普通にドラゴンって言えば良かったかな。
「私、トカゲってちゃんと見たことないんです。
あ、猫は飼ってますよ。犬も」
よし、食いついた!
「じゃあ見る?
携帯に画像あるからさ」
「良いんですか?」
「うん」
俺は片腕で、背負った彼女を支え、もう片方の手でポケットに入れた携帯を取り出すと、アストリアさん用のフォルダを出して画像を表示させて渡した。
「スワイプすれば、色々出てくるよ」
「うわぁ、三毛猫だ、可愛い。
あ、え? トカゲ?」
どうやらゴンスケの画像を見たようだ。
「驚いた?」
「はい、とても驚きました。飼ってるんですか?」
「そう、雛の時にトカゲだと思って拾ったら、ドラゴンだったんだ」
「え、拾って、懐かれたんですか?」
「そう、かなり人懐っこい性格でさ。
ちなみに、猫の方がポンで、トカゲ、じゃなかったドラゴンの方がゴンスケ」
「……テツさんは、とても善い人なんですね」
「へ?」
「ドラゴンは基本懐きにくいんですよ。だから、主人と認めるだけの器があるのだと思います」
なんか、照れるなぁ。
「へへ、ありがとう」
しばらく、お互いの飼ってるペットの話で盛り上がり、やがて、道に出た。
そして、とっくに駆けつけていた救急隊へ彼女を預けて俺達は、車を停めていた場所まで戻る。
「そういや、お前ほんと物怖じしないよなぁ」
「んあ? なんの話?」
運転席に乗り込みながら、父が突然そんなことを言った。
俺も助手席に乗って、シートベルトを付けながら返す。
「殿下に対して、タメ口きいてたからさ」
「あー、デンカってめずらしい名前だなぁとは思ってたけど、それが?」
「え?」
「ん?」
「えーっと、お前、もしかしなくても父さんとあの女の子の話、聞いてなかったのか?」
「ちゃんとは、聞いてない」
むしろ聞き流してた。
「あー、そうか」
「え、なに、もしかして貴族だった?」
「隣国、ウェルストヘイムから留学中のお姫様だよ。しかも、王位継承権は第一位。
ルリシア王女殿下」
「へー、道理で、アストリアさんみたいに手が綺麗だと思った」
ついでに、やはりいい匂いだった。
言ったら確実にキモがられる感想しか持てなかったので、ペットの会話で時間を潰せたのはよかった。
「…………」
「あ、でもタメ口で接したってことは、俺、不敬罪で死刑になるのかな?」
「安心しろ、一族郎党皆殺しにでもならない限り、もしそうなったら立派な墓を建ててやるよ」
そいつは頼もしい。
しかし、疑問が浮かんできた。
「でもなんで、そんなVIPがこんなところで襲われたんだろ?」
そもそもなんで居たんだ、という話になってくる。
「さぁな、それは向こうの事情だ」
それもそうか。
下手に詮索すると国際問題になりそうだもんな。
というか、ふつうに今回のこと国際問題になるだろ。
戦争とかになったりしないよな?
「どうでも良いけどさ、父さんも警察の電話番号登録しておきなよ。今日は俺がいたから良いけどさ」
「タカラにも同じこと言われた。すっかり忘れてた」
この親父が、英雄ねぇ。
翌日、翌々日と、俺は朝のニュースをチェックしたが大きなニュースは特になかった。
良かった、不敬罪で死刑とかは無さそうだ。
しかし、あの日、帰るとまたゴンスケに水責めにあったのだが、あいつ香水の匂いが嫌いなんだな、たぶん。
アストリアさんにも唸ってたし。
「ぎゃう?」
「んー?」
「ぎゃっぎゃっ」
ゴンスケが、プリントアウトした依頼書を見せてくる。
俺が受けた採集依頼だ。
「行かないのかって?」
「ぎゃうっ!」
まぁ、自転車でもだが歩いても行けるしなぁ。
今からなら、夕方には戻ってこれるか。
「着いてきたいのか?」
「ぎゃうっ! くぅるるる!」
どうやら、散歩ついでに連れて行けということらしい。
「わかったよ、ちょっと待ってろ」
俺が支度に取り掛かると、ゴンスケはのっそのっそと玄関に向かう。
そして靴箱の上に無造作に置いてある首輪とリードを尻尾を変形させて近場に置いておきスタンバるのだ。
自分で付けれるだろうに、付けてもらいたがるのだ。
「よーし、んじゃ行くか」
支度が出来た俺は、ゴンスケに首輪とリードを付けて玄関を出た。
「ぎゃうっ!」
ゴンスケが嬉しそうに鳴いた。




