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「でもさー、こっちの方が稼ぎが良いなら、ずっと冒険者してれば良かったのに、なんでやめたの?」
鬱蒼とした森の中。
父に着いて行きつつ、俺はそんなことを聞いた。
「いや、収入安定してないし。あとは歩合、出来高制だったってのと、保障とかまぁ色々考えて安定した収入が入る就職を選んだんだよ」
あー、たしかに怪我とかして依頼受けれなくなったら命取りだもんな。
「そういや、今更だけど母さんも冒険者だった?」
「あー、うーん、まぁそうかな?」
なんだなんだ、歯切れが悪いな。
子供に馴れ初め聞かれるのが恥ずかしいのかな。
「と、国道だ」
どうやら道に出たようだ。
コンクリートで舗装された国道が南北に延びている。
「あ、父さん、アレ」
俺は、すぐ近くに停まっていた車を指差す。
黒塗りの高級車だ。
タイヤがパンクしている。こちらから見ると、後輪が二つともぺたんこになっている。
そして、不自然にガタガタと揺れていた。
「お前はそっちの森に入って待ってろ。その木の陰がいい」
「?
わかった」
不思議に思いながらも、俺は言われた通りにする。
そして、俺が木を背もたれにするのと、罵声と銃声、そして爆発音のようなものが聴こえてきたのは同時だった。
数秒か数分か。
しばらく木の陰でじっとしていると、ひょっこりと父が顔を現した。
そして、
「携帯貸してくれ。それとしばらく道路には出るな」
「ん」
俺から携帯端末を受け取ると、どこかに掛け始めた。
さらに数分後、警察官が空間転移で現れたらしく、父親が説明をしに行った。
さらに待つこと数分。
「もういいぞ」
父の許しが出たので、俺は道路に出た。
すると、最初に見た時よりもなんというか酷い状態の車が目に入った。
車ごと爆発、炎上したようだ。
車の横には、担架があり水色のシートで覆われていた。
よく、ドラマや事件事故のニュースで見たことのある遺体に被せるやつである。
担架は全部で五つ。
「…………」
やがて、その担架は空間転移でどこかへ運ばれていった。
父は、警察官と二言三言話すとその場は警察の担当になったのか俺を連れて再び山の中へ。
「冒険者って、人、殺すんだね」
「時と場合による。
軽蔑するか?」
「んー、よくわかんないや。
でも、出来るなら俺はああいう仕事はしたくないなぁ。
というか、絶対できない」
「そうか」
「うん」
「それで、いい」
俺は、さっき父が何をしたのか見ていない。
父が見せないようにしたからだ。
祖父母の監督の元、食材を生きたまま処理したことなら何回もある。
今でこそ慣れたが、鶏肉なんかは精神的にキツかった。
人の形をしていなくても、そうなのだ。
この仕事、冒険者の仕事で荒事は俺には向いていない。
それが早めにわかって良かったと思う。
「俺、手伝いか採集依頼限定にしよ」
「それがいい」
と、ふと考える。
どうして、父はこんな教育によろしくない仕事を選び手伝わせようとしているのだろうか?
「…………実はタカラは、逆に張り切ったんだ」
「姉ちゃん?」
「そ、出来ることと出来ないことがわかるだろ。
タカラは平気だった」
姉もこんな仕事を手伝ったのか。
そして、平気だった。
「俺は姉ちゃんじゃないし」
「わかってるって。あとは、まぁ社会勉強だよ。
一部の世間で言われてるほど、凄い仕事でも、綺麗な仕事でもないからさ」
「ふーん」
もしかしたら、父は黒歴史を俺に知られたから急遽連れてくることにしたのかもしれない。
依頼を受けて一旦家に帰った時、俺は自転車で、それも好きな時に仕事に行けば良かったのだから。
父一人でもなんとか出来る仕事をわざわざ手伝わせる必要がない。
逆に、俺という荷物が増えると動きにくくなるだろうし。
英雄として持て囃されようと、目立とうとする者はきっと多い。
動画投稿サイトですら、再生数を稼ぐためにかなり危険なことをする人がいるくらいだ。
わざわざ確認はしないが、なんとなくそうなんじゃないかと俺は勝手に思った。
これは息子が実力主義の冒険者家業で変な夢を見ないようにするための、現実を見せるための社会勉強なのだと。




