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「アッハッハッハッハッ、会社クビになった」
昼。
パスタを祖父母と食べていると、まず、こんな時間に帰ってくるなんてことない父が帰宅して開口一番笑いながらそう言った。
「えー、また?」
今から四年くらい前にも、不景気でリストラが横行した際に父はクビを切られている。
その後、仕事を転々しつつなんとか今の会社で中間管理職の地位に三年足らずで就いたと言うのに。
「というわけで、ハロワと役所行ってくるわ」
とりあえず、就職と解雇を繰り返したためか変にはっちゃけてしまった父はあっけらかんと言って、また出かけていった。
「お祓いしてもらった方がいいのかね?」
祖母がさすがに心配そうに呟いた。
父は、昔から、それこそ子供の頃から不幸と言うか不運体質だ。
それは、かなり強力で、もはや呪いといってもいいくらいである。
犬の糞を踏む、痴漢と間違われる、冤罪だって両手両足の指を足しても足りないくらい経験し、不運に見舞われている。
祖父母は、半分本気で父の結婚も、そして孫の顔も諦めていたらしい。
父の恋愛遍歴は、祖父から聞いた話だがそれは酷かった。
最初の彼女は寝盗られて、二代目の彼女にはATMにされ、三代目の彼女には嵌められ危うく前科持ちになるところだったとか。
四代目の彼女には、売られそうになり全く見ず知らずの男性に掘られそうになったりもしたとか。
逆に父さん、よく女性恐怖症や人間不信にならなかったな。
それで母さんを射止めたんだから、人生なにが起こるかわからないもんだよなぁ。
それでも不運であること以外は平々凡々な、どこにでもいる中年太りのオッサンである。
「あ、そういえば、昨日なんかあんたが喧嘩した子が、テレビで謝ってたよ」
「へ?」
何の話だ?
俺は意味がわからず、祖母に聞き返した。
「ほら、あの喧嘩。一方的なイジメ扱いになったみたいで、それも親の会社が有名だから、謝罪会見開いたみたい。
うちにも、謝りにきたとか言ってたけどちゃんとお茶出した?」
祖母は、自分たちが畑仕事で家を開けている時に来たと思っているようだ。
「いや、来てないけど」
「え、でも二日くらい前に、高級車がうちの近くに停まってたけど、アレ違うの?
あと、立派なメロンも貰ったって」
あー、アストリアさんのことと勘違いしてるのか。
「違うよ。それは、知り合いが俺が喧嘩して怪我したと思ってお見舞いにきたんだよ。
メロンもお見舞いで持ってきてくれた。
貰いっぱなしでも悪いから、小屋にあったイモ渡した」
「そうか。あのメロン美味しかったな。
改めて、よくお礼いっとくんだぞ」
祖父の言葉に俺はうなずいた。
その日の夜。
「ちょっと困ったことになった」
夕食の席で、父が困った顔で困った声を出して、そう切り出した。
緊急家族会議イン夕食である。
「会社都合のはずなのに、失業保険が貰えないどころか、なんか俺には仕事斡旋出来ないっぽい」
「え、なんで?」
母が驚いて、訊いた。
「理由聞いても、はぐらかされるし。
とにかく紹介できる仕事は無いんだとさ」
「えー、じゃあ生活どうするの?」
俺はのんびりとたずねる。
「まぁ、しばらくは冒険者ギルドの方で知り合いに仕事斡旋してもらうことになるかな。
日雇いで、なんとかなるはず」
「父さん、ギルドに登録してたんだ」
「学生時代にな。冒険免許の方は車の免許と一緒に更新してたから、期限切れにはなってないし。
こういう、なんかあった時用に重宝するからさ更新有料でも持っといた方が良いんだ」
「へぇ」
「ぎゃうるるるる?」
ゴンスケが会話に入ってくる。
しかし、何を言っているのかはさっぱりだ。
そんなゴンスケの頭を撫でながら、
「ゴンスケのおやつくらい買える甲斐性がないとなぁ」
ペットくらいしか、父に媚びる存在がいないため必死なのだ。
「そうだ、この際お前も登録しておけ。
バイトより稼げたりすることもあるし」
母は特に反対は無いようで、何も言ってこない。
「そうだ、バイト。忘れてた」
どうせ暇だし。
登録するだけしておくか。




