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「よっ、おかえりー。お前の彼女可愛いなぁ」
「彼女じゃねーし」
俺の部屋で我が物顔でくつろいでいるマサに俺は言った。
すると、マサに撫でられていたゴンスケが俺のとこまで寄ってきたかと思うと、尻尾でベシベシ叩いてきた。
「痛っ、なんだよお前?」
「グゥルルル! ぎゃうっ!」
唸って叫んで、俺の横で不貞腐れたように丸まってしまった。
「妬いてんじゃね?」
マサがそんなことを言った。
ぺしんぺしん、とゴンスケが床を尻尾で叩いている。
「は? 何に?」
「お前が可愛い女の子と話したから」
「まさか」
ナイナイ、と俺が言うと。
「ぎゃうっ!」
バシンっと一際強く、ゴンスケが俺の背中を尻尾で叩いてきた。
「ほら、絶対妬いてるって」
***
どうしてこんなことになったのだろう?
彼は不思議でならなかった。
同時にとてもイラついていた。
自分を取り巻く理不尽に。
彼は、身分の低いドブネズミに常識を教えただけだった。
常識を知らない人間以下の存在に、世間の常識を普通を教えてやったのだ。
それなのに、どうして。
目の前には、多くの報道陣。
カメラがズラリと並んでいる。
視線が彼に集中する。
これは、謝罪会見だ。
事が大きくなりすぎた。
だから、形だけでも頭を下げろと言われた。
そうすれば、体裁だけは保てるから、と。
何故、自分が頭を下げなければいけないのか。
常識から外れた行動を取ったのは、あの肥溜め臭いドブネズミじゃないか。
悪いのは自分じゃない。
悪いのは、あのネズミだ。
薄汚い、百姓のネズミだ。
本来、ここで頭を下げ、現実でもネットの世界でも石を投げられ叩かれ、断罪されるべきなのは、アイツなのに。
しかし、彼の目の前に広がる現実は、ただただ彼を悪者扱いしてくる。
それが、納得出来なかった。
彼ーーテツに土下座をさせ、その頭を踏みつけてグリグリとした生徒、つまりは有名な魔法杖メーカーの未来の三代目社長もしくは会長予定の少年は、頭を下げた。
カメラには映らない、その表情は醜く歪んでいた。
本当のことを、真実を社会に突きつけなければならない。
自分に罪を擦り付けた、あのネズミに復讐しなければ気がすまなかった。
謝罪会見のあと、彼はすぐにネズミの個人情報を調べた。
どこに住んでいるのか。
家族構成、その他諸々。
元々、先天的に魔力がないというのは知っていた。
義務教育過程でも落ちこぼれで、障がい児として隔離されていたこともわかった。
その父親は、どこにでもいる中間管理職。
母親はスーパーマーケットでパートタイマー。
同居している祖父母は、専業で農業をしている。
それなりに銀行から借り入れもしているらしい。
圧力をかければ、すぐに潰れてしまう、路頭に迷う者達だ。
後ろだてすらない、下賎な犬の群れ。
しかも祖父母は亜人ときている。
純血な人間ではない。
穢れた亜人の血が入っている、人間。
いや、亜人の血が入っているからこそ人間以下の落ちこぼれなのだろう。
彼は、謝罪会見をしたその日の夜に行動を開始した。




