17
謹慎がはじまって初の世間の休日。
「あ、あの、その」
来客があったので玄関を開けると、黒服とサングラスをかけた怖いお兄さん達に囲まれたアストリアさんがいた。
「宗教と押し売りなら間に合ってます!!」
「え、ええ??!」
俺は勢いよく扉を閉めた。
「あの、私、アストリアだよ!」
「いえいえ、うちのような豚小屋、財閥のお嬢様が足を踏み入れるような場所じゃないので!!」
と、そんなやり取りをしていると、
「おっすー、来たぞー」
と、マサの声。
本来なら今日はリーチとツカサが来る予定だったのだが、一連の騒動で遠慮したらしい。
なので、予定が空いてしまいまたマサと遊ぶ約束をしたのだが、まさかこんなことになろうとは。
「と、お客さん?」
「あ、はい」
「もしかして、噂の彼女さん?
テツのやつ、俺と言うものがありながら浮気とは」
なんか誤解を産みそうな発言をマサが始める。
気配だけでわかる。
黒服のお兄さん達がどよめいた。
動揺したのは、アストリアさんも同じだった。
「え? それって」
「そそ、俺、テツのこいーー」
ばんっ!!
「悪質なデマを流すんじゃないっ!!」
勢いだけで扉を開け、俺はヅカヅカとマサへ歩み寄る。
ペシんっと、馬鹿なことを口走っていたマサの頭を小突いた。
「お、出てきた」
「ニヤニヤすんな!」
と、外で騒いでいるとそんな俺の背後で、黒服さん達がまたもざわついた。
今度はなんだ。
俺がそちらを見ると、ゴンスケが顔を出していた。
「あああ~!! ホントにいた!!」
ホンワカとした、むしろ花でも飛ばしそうな空気でアストリアさんがゴンスケを見て感動していた。
ゴンスケはと言うと、少し鼻をフガフガさせたかと思うと唸りはじめた。
ゴンスケの唸りに黒服さん達が反応する。
「ゴンスケ! めっ!!」
「グゥルルルっ」
唸って、しかしすぐに不満そうな顔を俺に向けると家の中に引っ込んだ。
威嚇だよな、今の。
「あっ」
ちょっと残念そうにアストリアさんが声を漏らす。
と、入れ替わりでまた扉が開いて、ポンがぽてぽてと出てきた。
そして、ゴロンっとアストリアさんの前で寝っ転がった。
地面に背中をこすりつけ、ゴロンゴロンと体を転がせる。
アストリアさんが、俺を振り返り、目をキラキラさせて聞いてきた。
「な、撫でても良いですか?!」
「そいつは、人懐っこいんでどうぞ」
ポンは今のところ、尻尾を引っ張ったり変なことをしなければ噛みついたり引っ掻いたりはしたことはない。
「じゃあ、俺は先に上がらせてもらうぞ」
飄々とマサが言って、我が物顔で俺ん家に入っていく。
猫は癒し効果があるのだろう。
黒服さんの空気も和やかなものに変わっている。
一番マッチョで強面の黒服お兄さんも触りたそうにうずうずしている。
「えーと、それでアストリアさん。
今日はなんの用でこちらに?」
黒服さん達の手前、精一杯丁寧な言葉遣いでたずねる。
「えーと、その。
今回のことをちゃんと謝ろうとおもって」
「?」
「私が、貴方に話しかけたせいで、迷惑をかけたから、その」
「???
え、なんで、話しかけたせいで迷惑に?」
「今回の謹慎。あなたは何も悪くないのに」
「あ、それか。別に気にしなくても」
「だ、だって、怪我をして、家で療養してるって。
それに、正当防衛であの生徒達を怪我させたから、それもあって今回のことになった、と。
怪我は、もういいの?」
「大丈夫大丈夫。俺、頑丈だから。
それと、訂正しておくと俺が出したのは口で、手は出てないから。相手も怪我はしてないよ」
つられて、俺はいつも通りの口調になる。
黒服さん達は、見た目的には気にしていないようだ。
「でも、アストリアさん。よく俺の家がわかったね」
「リーチさん達に教えてもらいました」
個人情報保護的にアウトだな。
まぁ、いいけど。
「そ、そういえば、さっきのダークエルフさんは、どんな関係なの?
ホントに恋人、とか?」
女子は異性同性問わず色恋話が好きだからなぁ。
しかし、その期待を叩き折る。
「ただの幼なじみ。俺なんかに恋人が出来るわけないだろ」
「え、それって」
「……アストリアさん、俺の悪い噂とか聞いてない?」
ふるふると、アストリアさんは首を横に振った。
「魔力ゼロの将来性皆無男。
肥溜め臭い下賎な奴」
冗談混じりにやんわりと言えば、アストリアさんは顔を青ざめさせた。
「別に今の時代、魔力ゼロだからって奴隷にはならないけどそれなりに苦労するというか」
「わ、私は、あなたのことをそんな風に思ったことなんて」
「知ってる知ってる。
ただ、それくらい俺の評判は悪いってこと。
逆に、俺と話してるとアストリアさんの評判も下がると思うから気をつけてねって話だから」
「私のことは気にしないで。あと、せめてこれを受け取ってくれると嬉しいな。お見舞いの品なんだけど」
「え、いいよ、逆に悪いし」
そうして渡されたのは見事なメロンだった。
それも網目のやつだ。
「良いから」
「ありがと。あ、ちょっと待ってて」
俺は一旦庭から農作業小屋へ回ると、小屋に転がってる野菜を適当に見繕って、裏口から台所へ入り適当なスーパーのビニール袋にその野菜を詰めると、玄関に戻ってその袋をアストリアさんに渡す。
「これ、良かったら護衛の皆さんと分けて」
うちで取れた野菜である。
「え、でも」
「いいのいいの、どうせ毎年食いきれなくて腐らせるし。
というか、文字通り腐るほどあるし」
なんて言ったら、受け取ってくれた。
黒服さん達も土つきのイモやら玉ねぎに興味津々である。
とりあえず、俺へのお見舞いの品を渡すのと謝罪が目的なのは本当だったようで、逆に野菜を渡されたことに驚きつつアストリアさんは帰っていった。




