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「うわぁ、カメラが凄いよ」
ツカサが図書室のある別の棟の4階から、生徒玄関を見下ろしながらそんな感想を漏らした。
「思ったより早いなぁ。まぁ、たしかに今って特に話題がないからなぁ、メディアは食いつくわな」
想像通り、とかなり悪どい笑みをリーチは浮かべている。
その視線の先はツカサと同じ場所に注がれている。
「うわぉ、特定班の仕事も早い」
とあるウェブ記事とSNSではリンチをしていた特進クラスの生徒達の身元がすでに特定され、公開されていた。
「あの偉そうな奴、魔法杖で有名な会社の社長の孫だったのか」
「え、どこ?
アレイスター?
それともザレウスキー?」
「アンブローズ」
「うっそ。うわぁ、幻滅した。
僕あそこの杖のデザイン結構好みだったんだけどなぁ。
性能も良いし」
「初代で、現役社長だか会長は裸一貫で頑張ってきた人だからな。
自分が苦労した分、子供や孫には甘いんじゃね?
息子、つまり孫の父親もあんまりいい話聞かないし」
「あーあー、聴こえない。聴こえなーい」
「あ」
「どしたの? リーチ?」
「テツの奴、まだ知らないみたいだな」
「え? あ」
二人の元に、画像が送られてきた。
ゴンスケが美味そうに焼けた肉を食べている画像だった。
短いメッセージも添付されていたが、今日の学校のことは何も知らないようだ。
「…………これ、アストリアさんにも送ったりしてないよね?」
「どうだろうな」
「というか、彼女、そういえば来なかったね。
アレかな? 僕らみたいな悪漢とはつきあうなーとか言われたのかな?」
「さあな」
「でも、こうやって特定されたんならテツのことも特定されそうだけど、そんな感じないね」
「アイツ、魔力ゼロってことで有名だけどぶっちゃけ顔覚えてるやつなんてそんなにいないと思うぞ。
昨日のリンチがそもそもイレギュラーな事だったんだし」
「どゆこと?」
「影が薄いってこと。
情報だけが有名で、顔を知らないなんてザラだろ」
「そういえば、たまに、スーパーとかの自動ドアに反応されないとかボヤいてるよね、テツ。
とりあえず、この取材陣の画像を送って現状を伝えよう」
***
『なにやってんの、あんたはーーーー!!』
山に姉の声が響いた。
耳が痛い。
「いきなり電話してきたかと思えば、今度はなにーー」
『土下座するようなヤワな性格してないでしょっ!!』
「え、なんで知って」
このやり取り、なんだろ既視感。
『ニュース!!』
「ニュース?」
『虐め動画拡散して、大騒ぎになってるの!!
昼のニュースに取り上げられてるの!!』
「あー、昨日のかな?」
「ぎゃう?」
俺が首を傾げたら、ゴンスケも真似して傾げる。
「でも、ニュースって?
え、なに、俺が特進クラスの連中を怪我させたとか、そんな感じで報道されてんの?」
『…………え、うそ、マジでなにも知らないの?』
「ニュースは見てない」
『ハア。
もういい。あ、でもこれだけは聞かせて。
なんで、何もしなかったの?』
「だって、相手刃物持ち出してきたし。
たかだか魔力ゼロの底辺男子高校生の土下座で丸くカタがつきそうだったから」
『はい、嘘。
どーせ、あんたのことだから余計なこと言ったんでしょ』
「余計なこと、余計なこと?
あー、百姓を馬鹿にしておいて数の暴力振りかざしてきたから、お前らそれブーメランだかんな、的なことは言った気がする」
『あー、はいはい。だいたい分かったわ。
とりあえず、彼女さんに迷惑だけはかけないように。
つぎ、実家帰ったら紹介しなさい』
と、一方的に言われ電話は切れてしまった。
そして、俺はまた首を傾げる。
「彼女?」
誰のことだ?
と、俺の呟きに何故かゴンスケが騒ぎ始めた。
「ぎゃう!? ぎゃっぎゃっ!!?」
尻尾でベシベシ叩かれる。
なんなんだよ、ほんと。
と、祖母が軽トラのエンジンをかけた。
とりあえずベシベシしてくるゴンスケを荷台に乗っけて、来た時と同じようにリードで繋げる。
「ぎゃっぎゃっぎゃ、ぎゃうるるるぅ!!」
おい、話はまだ終わってねーぞとばかりに騒ぐ。
「珍しく興奮してるね。発情期かい?」
祖母が運転席から言ってくる。
「さぁ?」
「でも、アレだね。もしそうなら早めにお嫁さん見つけるか、去勢した方が良いかもね」
「そうだね。でも、ドラゴンって育てにくいらしいし。
それと婆ちゃん、ゴンスケは雌らしいよ。マサが言ってた」
「マサ?」
「ほら、今はもうやめちゃったけど、カジロンの家の子」
俺が説明すると、祖母は理解したようだ。
ちなみに【カジロン】というのは、マサの苗字ではなく屋号である。
俺の住む田舎では、苗字より屋号で話した方がどこの家かすぐ相手に伝わるのだ。
マサの家は、三年くらい前まで駄菓子屋だった。
「あぁ、あの駄菓子屋の倅か!」
店を切り盛りしていたマサの婆さんが亡くなって、店を畳んだらしい。
まぁ、俺とマサは保育園も一緒だったりしたので所謂幼なじみの関係なのだが、高校が別々になってからは普通に疎遠になった。
「あんたよく遊んでたよね~」
「まぁ、そうだね」




