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婆ちゃんはオーガ、所謂鬼人種族である。
人間種族との一番の違いは、やはり体力とか頑丈さだろうか。
ちなみに、オークである爺ちゃんも強いし頑丈だ。
頑丈さだけなら、父と俺は人類最強を自負できるくらいだ。
姉ちゃんも、頑丈さなら負けていない。
いや、だって、昔、暴走した車に散歩中に突っ込まれたことがあるけど、俺たち父子、無傷だったんだもん。
だけど、あえて普通の人間種族だと主張する。
何故なら魔法が使えないからだ。
そもそも、元々人間種族は魔法が使えなかった。
歴史が進むに連れて神の加護だかで使える人間種族が増え、さらに時代が進むと異世界からきた勇者達によってさらに魔法が使える人間種族が増えて行った。
その加護を受けた者や、勇者たちの血が混じりあい、広がった結果が現代である。
しかし、俺のように魔法が先天的な理由で使えない、そもそも魔力ゼロなんてのも世界中探せばよくある話なのだ。
ただ、魔力ゼロ人間の数が少ないのもまた事実であり、世界大戦が起こったという百年ほど前では、下等種族として差別の対象だったとか。
良かった、現代産まれで。
まぁ、現代でもその差別の名残はあったりするけど。
「あんたはお父さん似で大人しいのが玉に瑕なんだよ」
今の一ヶ月謹慎の詳細について聞かれたので、答えたら返ってきたのがこれであった。
「そんなこと言ってもさー、社会的に権力あるヤツらだよ?
ちょっとでも反抗したら後が怖いじゃん」
「権力を持ってるのは、その子らじゃなくて保護者のほうじゃないのかい?」
「いや、うん、まぁそうなんだけどさ。
婆ちゃん、今はモンペっていう親がいるんだよ。悪質なクレーマー」
「もんぺ。最近は股引の亜人がいるのか?
それとも、家電みたいに喋ったりする股引があるの?」
「違うよ、モンスターペアレント。略してモンペ。
自己中で理不尽な要求やクレームをつけてくる保護者のこと」
「たとえば、どんな?」
「うーん、聞いた話じゃ、文化祭とかでのクラスの出し物がたとえば演劇だったら、自分の子を主役にさせろーとか。そんな風に言ってくる親。
道具係になったら、なんで道具係なんだーとか言ってくるのもモンペの一種」
「へぇ。色んな親がいるもんだ。
でも、一番注目される場所だけが主役ってわけでもないんだけどね~」
おや、意外。
てっきり、ふぅん、くらいで済ませると思ってたのに。
「主役だけじゃ、劇は作れない」
「?」
「あんただって、マンガ見る度に、脚本が~とか監督が~とか制作会社が~とか色々言ってるし」
「あ、たしかに」
ちなみに、祖母の言うマンガというのはアニメのことである。
昔はアニメのことをテレビマンガだかマンガテレビと言ったらしく、祖母は本の方もマンガ、アニメの方もマンガと言う。
「ぎゃうっ!」
俺たちがそんな会話をしていると、森の奥からのっそのっそとゴンスケが姿を現した。
そして誇らしげに一声鳴いた。
その後ろには頑丈な檻に変化させた尻尾、中にはすでに事切れているオオカミとクマの魔物。
なんで、こんな大物が捕れて、ボスに負けるかな。
「おお! ゴンスケは今日もいい子だね」
「ぎゃうくるるぅ!!」
祖母に褒められてとても嬉しそうだ。
がっちゃんがっちゃんと、嬉しさを表現する度に尻尾が揺れ、檻がぶん回される。
「よしよし」
祖母がゴンスケの頭を撫でる。
「じゃあどこが食べたいんだ?」
「ぎゃっぎゃっ!!」
ここ、ここ、とゴンスケが尻尾の檻を解いて、今度は尻尾を矢印に変化させて食べたいところを指し示す。
「はいはい。今切り取ってやるよー」
そんな、のほほんとした光景を見ていた俺は、世間が騒がしくなっていることなんて、この時はもちろん知らなかった。




