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【急募】捨てられてたドラゴン拾った【飼い方】  作者: カズキ
可愛い子に旅行に誘われて行った話
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 「つまりね、獲物を同時に複数追いかけても逃げられるの。

 だったら、確実に一匹を仕留めなさい」


 いい加減足が痺れてきた。

 しかし、姉は喋り疲れていないようだ。


 「はい、よくわかりました」


 これはいったい、なんの苦行だろうか。

 俺は、足の痺れに耐えながら返す。

 ここでようやく、母から援護射撃がきた。

 どうやら母は、夕飯後食器等を祖母と片付け、ゆっくり入浴してからこちらにやってきたようだ。

 ぞんざいに転がっていたドライヤーを拾い、髪を乾かしながら少し大きな声で母は姉に言った。


 「タカラ、飲みすぎ。今日はシャワーだけにしときなさい」


 直訳すると、早く風呂入れ、ただし酔いが回ってるからシャワーだけにしとけということらしい。

 充分、それも危ないと思うのだが、姉の場合倒れて頭を打っても俺と同じで体が頑丈なので怪我をしないのだ。

 まぁ、そのまま目を回してしばらく寝るくらいはするだろうが。


 まぁ、姉なので心配はいらない。

 姉なので。


 マグカップに入っていた清酒はいつの間にかなくなっていたらしく、姉は母の言葉に少し不満げにカップの中を覗きながら頷いた。


 「はいはーい。風呂入ってくるよ」


 外出の予定がない限り、最近姉は基本ノーブラTシャツ、下はジャージの着たきり雀だ。

 前は全裸で過ごす事もあったので、文化的になったと思う。

 

 下着だけ交換するので、部屋の隅で畳まれていた姉の洗濯物の中から自分の下着を引っ張り出して、俺から取り上げた携帯をこちらに投げて寄越してから風呂に向かった。


 「テツも、相手へ迷惑になるからメールは明日にしなさい」


 いや、電話じゃないから大丈夫だと思うけどな。

 そう思いながら、壁掛け時計で時間を確認する。

 まだ二十三時と言うべきか、それとももう二十三時と言うべきか。

 母の感覚からすると、こんな時間にメールだろうとよその家の子と連絡のやり取りするのは眉を顰める部類に入る行為のようだ。

 この家で母は絶対権力者の一人なので、また俺も母に楯突く気もないので、とりあえず打った分のメールを一旦保存する。

 そして、それとは別のメールを作成し、件名のところに、【遅くなってすみません】と書き、さらに本文に、今日はもう遅いのでまた明日、改めて返信しますと書いて、送信した。

 と、すぐに返信が返ってきた。

 そこには、


 【こちらこそ、夜分遅くにすみません、おやすみなさい】


 という短い文と、寝ている顔文字が書かれていた。

 なんとなく、王族の人がこういった顔文字を使っていると思うと意外だなと思うと同時に、ルリシアさんも同年代の女子なんだなぁと改めて親近感が湧いた。


 なので、ついマサやリーチ、あるいはツカサとやり取りするのと同じ気になって、


 【ルリシアさんも、おやすみなさい】


 と送った。

 ちなみに友人達には、もう少し馬鹿な返しをするが、ルリシアさん相手ならこれくらいでたぶん、不敬にはならない、はず。

  


 


 


 ベッドの上で、すでに灯りを消して暗くなった部屋で、ルリシアはようやく返ってきたメールに、はね起きた。

 この部屋と廊下を繋ぐ扉の前には護衛が控えているはずだが、さすがにはね起きただけでは入ってくることはなかった。

 大事な友人に関する相談事、それに対する返答だとは分かってはいても、大好きな人とやり取りしているという事実は、ルリシアの心を幸福で満たしてくれた。

 友人――アストリアをダシにしているようになってしまっている事実に、気が引けてしまう。

 でも、最近できた新しい友人であるサクラの助言でもある。

 それを言い訳にしている自分に気づいた。


 そして、実感する。


 人を好きになっただけで、たった一人を大好きになってしまっただけで。

 自分はこんなにも醜く欲深く、我儘になったのだと。

 それは、きっと後ろ指を指されることだ。

 ヒトとしては、きっと恥ずべき行為だ。


 会えない時間だけが募り、ルリシアの中でだけ想いが育ち膨らんでいく。

 それは、とても苦しくて愛しい感情だった。

 アストリアの悩みが解消されたら会えるだろうか。

 それとも、いっそのことこの想いを彼にぶつけてみようか。

 そんなことを、考えてしまうまでに彼女の心はテツでいっぱいだった。

 会えないなら、それこそ、この他人と簡単に繋がることの出来る現代の利器で。

 文字でもいい、声だって届けられる。

 魔法ではない、魔法のような機械を使って、この想いを伝えてみようかと考えてしまう。

 

 「大好きです。愛しています。だから――」


 携帯端末を抱きしめながら、ルリシアはいつか彼に伝えたい言葉を繰り返した。


 「私を大好きになってください。愛してください」


 彼の心にいるという、その女性より、


 「私を、選んで……」


 また、彼女はベッドに寝転がる。

 そして、彼の笑顔を思い浮かべながら、いつしか眠りについたのだった。



 


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