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二日連続でイレギュラーな昼休みとなってしまった。
帰宅部である俺は、さっさと教室を出た。
イレギュラーなこととは重なるものらしい。
「…………」
目の前に見慣れない男子連中が、通せんぼしていたのである。
うーん、特進クラスの男子かな。
何となく、俺みたいな一般人と違う雰囲気だ。
金持ち、財閥、貴族。
おそらく、そう言った家の子供達なのだろう。
「貴様か」
貴様って、初対面の人間に対して失礼だな。
というか、貴様なんて名前では無いので無視する。
無視したまま、その男子達の横を通り過ぎようとするが、足元が淡く光った。
展開されたのは、魔法陣。
と、俺の足が糊か何かで固定されたように動かなくなる。
「無視するなよ」
「………校内での私闘は禁止されてたはずだけど?」
校内だけでなく、校外でも禁止だ。
それが社会のルールだ。
「頭が高い」
男子達の中でも、特に偉そうな奴がそう言いながら俺に足払いをかける。
同時に、魔法陣が解除された。
床に転がされ、足で踏みつけられた。
「お前みたいな、下賎な肥溜め臭いやつが何を勘違いしている?」
「…………」
?
こいつ、なに言ってんだ?
「なにか言えよ」
今度は蹴られた。
「あ、猫餌買って帰らないと」
母に頼まれていたのだ。
それを思い出して口にしたら、馬鹿にされたと思ったらしい。
袋叩きにされた。
その時に吐かれた言葉の数々から察すると、つまり身分の低い俺がアストリアさんと親しくし始めたのが気に入らないらしい。
嫉妬か。
いや、知らんがな。
こういう女々しいタイプにはなりたくないなぁ。
アッハッハッハッハッ。
他にも、生徒や教師がいるはずなのに、誰も止めようとしない。
というか、ツカサやリーチじゃなくてなんで俺がターゲットにされ、あぁそうか、魔力ゼロで魔法が使えないからか。
ああ、嫌だ嫌だ。
と、袋叩きに合っている間に、ちらり、と遠巻きにこちらを見ている野次馬達へ視線をやる。
その中でリーチがニヤニヤと悪い笑みを浮かべているのが見えた。
たぶん、この意識高い勘違い連中の、今まさに振るわれている拳や足がいつまで保つのか楽しんでいるのだ。
「馬鹿にしやがって!! たかが百姓の癖に!!」
お前、そんなこと言うなら、もう二度と野菜食うなよ。
「…………そんな【たかが百姓】に寄って集ってリンチするって、恥ずかしくね?
数集めなきゃ、下賎なたかが百姓相手でも、なんにも出来ませんって宣伝してるようなもんだぞ」
リーチが吹き出すのが見えた。
おい、なに笑ってんだ。
と、それが地雷だったのか、カチカチカチカチ、と聞き覚えのある文房具の音が聴こえてきた。
一番偉そうな奴が取り出したのは、文具店で売られてる。
どこにでも置いてあるカッターだった。
「刃物は人に向けるものじゃないだろ」
「うるさいっ!!」
うーん、俺はぶっちゃけ刺されても平気なんだが、下手に暴れられると他の生徒が刺されかねないし。
「困った」
俺の言葉をなにか勘違いしたらしい。
偉そうな奴らは、ケラケラと俺を嘲笑う。
そして、
「土下座しろ」
偉そうな奴がそう言ったのだった。
うわぁ、めんどくせぇぇー。
まぁ、いいや、さっさと猫餌買って帰りたいし。
この後、こういうタイプって絶対頭を物理的に踏みつけてくるからなぁ。
俺が偉そうなやつの行動を脳内でプロファイリングしつつ、土下座する。
まぁ、もともと土下座みたいな格好だったけど。
すると、予想通り頭を踏みつけてきた。
グリグリと床に押し付けられる。
「弁えろ下等生物」
それで、気が済んだらしい。
言うだけ言って男子生徒達は去っていった。
遠巻きに見ていた生徒らも、散っていく。
「おーおー、色男になったじゃん」
リーチがそう声を掛けてきた。
「助けてくれてもいいだろ。あと何笑ってたんだよ」
「ツカサならともかくお前なら大丈夫だと思ってたし。
まぁ、さすがに土下座するとは意外だったけど」
「いや、刃物出されちゃさすがに危ないしさ」
「明日が楽しみだ」
俺の言葉を聞いているのかいないのか、リーチがそんなことを呟いた。
さて、猫餌を買って帰宅するとゴンスケと一緒に母が待ち構えていた。
「喧嘩したんだって?」
「は?」
「学校から電話があったの。
特進クラスの子、殴ったんだって?」
「あ、そう言うことになってるの?」
内申に響くなぁ。
困った。
「そういうことになってる」
「ふぅん」
「で、殴ったの?」
「いやいや、殴れるわけないじゃん。
相手、普通に魔法使えるんだよ?
むしろ殴られたんだけど」
「よし、じゃあ医者行くよ。診断書書いてもらう」
「いいよ、面倒臭い。そもそも怪我してないし」
「だめ、こういう事はしっかりしておかないと」
そんな俺と母親のやり取りを、少し不安そうにゴンスケは見守っていた。




