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【急募】捨てられてたドラゴン拾った【飼い方】  作者: カズキ
可愛い子に旅行に誘われて行った話
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 「えー、それってつまりは聖地巡礼じゃん!」


 久しぶりに訪れた図書館。

 夏休みもあと数日で終了というその日に、俺は久しぶりに会ったサクラと、趣味の話題で盛り上がっていた。

 サクラに、先日の【白い家】に関する仕事のことを話すと、ケラケラと笑いながらそう返された。

 その声にはどこか羨ましい、という色が含まれているように感じた。


 「あ、そう言えばそうだな」


 


 「で、結局なにもなかったんだー。やっぱり現実は小説と違うよねー」


 そう言いながら、サクラは近所のコンビニで買った菓子パンに齧りついた。

 その次の瞬間には、幸せ過ぎて死にそう、と言わんばかりの笑顔が溢れる。


 「……うまいか?」


 ハムスターのように、両頬をパンパンにしながら、そして笑顔はそのままにサクラはうなずいた。

 どうやら、とても美味しいらしい。


 「よく噛めよ」


 俺は言って、自分もコンビニで買ったおにぎりにぱくついた。

 しばらく二人してもごもご食べて、先に口の中のものが無くなったサクラが、なんてことない風に言った。


 「そういや、テツ、前話してた特撮映画の応援上映があるんだけど、一緒に行く?

 もう一人友達誘ってあるし」


 応援上映というのは、いわゆる声出し可能の映画のことだ。

 ヒーローショーの延長、大人向けのそれだと考えてもらえばわかりやすいかもしれない。


 「え、行きたいけど、俺邪魔じゃね?」


 サクラが、その名前通りの綺麗な色をした薄ピンクの瞳を俺に向ける。

 そういや、サクラの瞳の色ってアストリアさんと同じ色なんだよな。

 顔は他人なので、似ても似つかないけど。

 そして、ニコニコと笑いながら返してきた。


 「邪魔じゃないよ。むしろ女子ばっかりの場所に誘うからさ、こっちが悪く感じるくらい。それに」


 「それに?」


 「この辺じゃ聞かないけど、県外で数日はやく応援上映やったとこだと痴漢が出たらしいから。その用心棒代わり。

 あ、あとその子テツの知り合いだし」


 「……はい?」


 サクラの言葉に、俺は聞き返した。


 「アーちゃん、じゃなかったアストリアちゃんって子なんだけど」


 はい?


 「私はアーちゃんって呼んでる。

 アイドルかモデルかと思いきや貴族のお嬢様でびっくりしたよ。腰細いし、めっちゃ美人だし」


 その話に俺がびっくりしたよ。

 俺がなにか言う前に、サクラは続ける。


 「ほら、可愛い子の体を不埒な人に自由にさせたりするわけにはいかないでしょ」


 言い方、言い方。サクラ、言い方。

 俺は想像以上にサクラとアストリアさんが知り合いだったことに驚いていたのか、それとも脳が処理速度を落としたのか、


 「いや、多分大丈夫じゃないか?

 アストリアさん、護衛の人が付いてるし」


 なんてことないように返した。

 いや、待て待て待て、なんで俺がこんな変な汗かいてんの?


 「そうだけど、そうじゃなくて。こういうのはそもそも男がいるってだけで近づいてこないものなの。

 もちろん、その護衛の人も来るらしいけど、女性って話だし。女性ばかりだと逆に狙われる可能性があるでしょ」


 いや、なんのための護衛だよ。

 俺が呆れた顔を向けると、菓子パンのクズがついた口を乱暴にゴシゴシ手の甲で拭きながら、サクラは感極まったように言った。


 「アーちゃんのさ、笑顔、とっても可愛かったんだよね。ホラー小説読んで怖がってるのも可愛かったけど。

 もう、なんていうの?

 【守りたいこの笑顔】的な感じでさ」


 爛々と、サクラの瞳が怪しい色を湛え始めたので釘をさしておく。


 「……とって食うなよ」


 「食べないよ」


 どうだか。

 妄想の餌食にくらいしていそうだ。

 そんなことを考えていると、


 「沼に嵌めるだけだよ」


 妄想よりマシなのか、酷いのかわからない答えが返ってきた。

 それから、思い出した、と言いたげに、


 「あ、そうそう、アーちゃん経由で新しい友達が出来たんだよ。

 ルリッペっていうんだけどね。本名はルリシアって名前で隣りの国から留学してきてる子で、この子のこともテツは知ってるんだっけ?」


 おっとー、気のせいだろうか。

 どっかで聞いた事のある名前が出てきたぞ。


 「ルリッペから聞いたんだけど、テツ、ルリッペのことを暴漢から守ったんでしょ?

 物語の中の王子様みたいだったって、言ってたよ」


 鳥肌がたった。なんだ、王子様って。


 「いやー、美化されてるねー。青い春だねぇ」


 うしし、とサクラは笑った。どこか中年の親父みたいだ。

 って、ちょっと待て、なんであの人そのことバラしてんの?!


 「その暴漢の時のように、いっちょ私らのことも守ってよ」


 「ち、ちょっと待て。ルリシアさ、んに会ったのか?」


 「うん、アーちゃんと三人で女子会した。

 いやー、二人ともカラオケ初めてだったみたいでさ、映像付きのやつ歌ったら反応が良くて、感動したね」

 

 女子会って。カラオケって。


 「ルリッペもいいとこのお嬢様だったみたいだから、護衛の人がいたけどね」


 お忍び、だったようだ。

 サクラやアストリアさんには隣国のお姫様って言ってないのか、もしかして。

 うーん、もしかしたらアストリアさんにだけ言ってて、サクラには言ってないとかか?

 どちらでもいいが、とにかくこの話しぶりからして、サクラはルリシアさんが、お姫様であることは知らないようだ。

 知ってたら、さすがにルリッペ呼びはしないだろう。

 それにしても、サクラとの交流をよく許したなあの鬼婆侍女さん。

 アストリアさん経由だから、大丈夫だったとかかな?


 「ルリッペも観劇とか好きみたいだから、今度チケット取れたら一緒に行こうねって約束してある」


 うーん、多分だけど、お前が好きな観劇とルリシアさんが好きな観劇には溝か壁があるような気がするぞ。


 「で、そのための予習としてこのまえルリッペに2.5次元の舞台とミュージカルのディスク貸した」


 あ、ダメだった。

 いろいろ手遅れだった。

 ルリシアさん、鬼婆侍女さんに怒られてなければ良いけど。

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