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【急募】捨てられてたドラゴン拾った【飼い方】  作者: カズキ
可愛い子に旅行に誘われて行った話
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115

***


 間近に見上げた【自殺魔塔】は、赤茶色の煉瓦造りの塔だ。

 むしろ、デカい風車を取り付けると様になるのではないかという、地味なような絵になるような、そんな尖塔だった。

 出入口らしき場所には、木の扉があり固く閉ざされていた。


 「神様、か」


 姉がつぶやく横で、俺は吸い寄せられるように扉に近づいた。

 手を繋いでいるので、姉も一緒に移動する。

 やっぱり、知っている。

 俺は、ここに来たことがある。

 でも、いつだ?

 いつ来たんだ?

 ノイズだらけの映像は、もう出てこなかった。

 俺は、思い出せそうで思い出せない、なんとも気持ちの悪いモヤモヤ感を抱きながら、その扉を押してみた。

 開かない。


 「引く方かな?」


 手前に引こうとするが、なにしろノブも何もないので引くことが出来なかった。

 

 「???」


 戸惑う俺に、横にいた姉がおもむろに右脚を上げたかと思うと、魔法陣を纏わせて扉に蹴りを入れた。

 鈍い打撃音が響く。


 「念の為強化したんだけど、無傷、か」


 どうやら今の魔法陣は、身体強化の魔法陣らしい。

 魔法陣なんてみんな同じに見える。

 しかし、普通なら、これで破壊されるはずだが、扉は無傷だった。

 姉は、改めて扉に触れてみた。

 鏡を調べた時のように、ぺたぺたと触れて、やがてしゃがみこむ。

 そして、


 「あ、なるほど、そういう仕掛けか」


 なにかに気づいたのか、俺と繋いでいた手を離すと地面に近い部分に触れて、そこにあったらしい窪みに指を滑り込ませて、


 「開け、ごま!!」


 そんな、やはり昔、綺羅星で読んだ童話の中に出てきたセリフを元気よく口にした。

 ガラガラガシャン、と扉は下から上へ、シャッターと似たような音を奏でて収まった。


 「こりゃまた、古典的な」


 俺は呆れて、そう呟いた。

 中に入ると、壁づたいに螺旋階段が設置されていた。

 見上げれば、要所要所に部屋があるのか簡素な扉が見えた。


 「さて、探索をしたいところだけどさっさと帰ろうか」


 姉が俺を見ながら言った。

 しかし、その視線は俺の顔ではなく少し下、そうちょうど喉元に注がれているようだった。

 そういや、さっきから首がチクチクしてんだよなぁ。

 ポリポリ、と俺はフェンスで切って、絆創膏が貼ってある周囲を軽く掻いた。

 すると、少し強く掻きすぎたのか指先に赤いものが付いた。

 血だった。

 あれ?

 おかしい、なんで、こんなに出血してるんだ?

 奇妙な違和感に、視界がぐらつくような感覚に陥る。

 頭が、痛い。

 思わず、額を抑えた俺へ、

 

 「急ぐよ」


 姉がそう言った。

 這い上がってきた違和感とも恐怖ともつかない気持ちの悪い感覚に、頭がグラグラする。

 脳裏に、あの映像が浮かんできた。

 でもそれに神経を集中させる間もなく、姉が俺を肩に担いで、


 「しっかり掴まってな!」


 そんな男前すぎるセリフを吐いて、一旦膝を折ったかと思うと勢いよくジャンプした。

 姉の肩の上から、どんどん床が遠ざかるのを見た。

 ゴンスケに乗った時とは違う意味で、空を飛んでいるような、そんな感じだ。

 そうして、あっという間に最上階らしき場所にたどり着く。

 そこにも、他の階と同じように扉があった。

 姉に降ろされ、俺は扉を見た。

 視界が、揺れた。

 まるで、貧血のときになるというブラックアウトのように、視界が真っ暗になった。

 そして、声が聴こえた。


 ――ごめん――


 そんな、泣くのを我慢するような、喉を締めあげられて、それでも吐き出すような声だった。


 男の声だ。

 よく知る、男の声だ。

 でも、誰だろう?

 わからない。

 わからないけれど、知っている。

 この声を、俺はよく知っている。

 

 ――いつか、憎んでくれていい。

 恨んでくれていい――


 ――それでも、生きて欲しいんだ――


 ――だから、頼む。やってくれ――


 それは、その言葉は、誰かに向けられていた。

 誰に向けられていたのかはわからない。

 でも、俺ではないのは確かだった。


 別の声が、それに応える。


 ――魔法は、夢をみせるものだ。だからこそ奇跡になる。

 君の望みは、とても残酷で傲慢なものだ。

 それでも、叶えたい?――


 その別の声に、最初の男が答えた。


 ――××、×××××――


 でも、なんと言ったのか、聞き取れなかった。

 ノイズが混じって、聞き取れなかった。


 「ちょっと、大丈夫?」


 気づくと、俺は扉の前でうずくまっていた。

 グロいものをここでは見ていないのに、吐きそうだ。

 姉が、そんな俺の背を撫でていた。


 「姉ちゃん、ここ、気持ち悪い」


 「…………」


 「吐きそ」


 「わかった」


 姉が、軽く答える。

 俺は姉を見た。

 姉は、軽く指を振って魔法を展開する。


 「?」


 俺は疑問符を浮かべる。

 すると、急に眠気に襲われた。

 完全に意識が落ちる寸前に見えた姉の顔は、今までに見たことがないくらい真剣なものだった。

 


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