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【急募】捨てられてたドラゴン拾った【飼い方】  作者: カズキ
可愛い子に旅行に誘われて行った話
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***


 家の外は、明るかった。

 太陽が出ていて、快晴だ。

 化粧台が置かれていたあの部屋でも感じたことだが、やはり昼間のようだ。

 鏡の外、つまり俺たちが元いた世界は夜だったから、家の間取りとかはそのままで時間だけが反転しているようだ。


 「さっきの首が取れかけてた奴みたいなのが、徘徊してるかなとも考えたんだけど、いない、か」


 姉が言った。

 そうでなくて、良かったと思う。

 あんなのがゾロゾロいるのは、パニック映画だけで十分だ。


 「それで、外に出てみたけど、どうするの?」


 「ほかの家の位置と、人がいるかどうか確認する」


 「了解」


 俺が、返事をすると同時に、姉が先に歩き出す。

 三歩ほど歩いて、止まる。それから俺の方を振り向いて、


 「ほら」


 手を差し出してきた。


 「なに?」


 「なんだかんだアンタは夢中になると走ってどっか行くからね。

 その気があればいつでも動けるのに、本当に不思議だよ。

 とりあえず家の中みたいな、狭い場所ならともかくここ結構広いみたいだし、迷子防止」


 母もそうだが、姉の中でも俺はいったい何歳設定なのだろう?


 「俺、もう高校生なんだけど」


 「でも私より年下のガキじゃん」


 「…………」


 「そんでもって、待ても出来なかったのはどこの誰だっけ?」


 「…………」


 「やーい、ガキ」


 姉が煽ってくる。

 さすがに、恥ずかしいというかなんというか。

 俺は、黙ってそのまま姉の手を取らずに歩き出す。

 すると、手首を掴まれてしまった。


 「年上である姉を追い越すなんて、まだまだ早いっつーの」


 無理やりそうやって手を繋ぐ形になってしまった。

 そうして、姉はずんずん歩いていく。俺はずるずると引きずられてしまう。

 子供の頃みたいだ。


 「ところで、姉ちゃん。

 道わかるの?」


 「家の間取りが同じだったことと、太陽の位置から考えるにそんなに地理的な差異は少ないとおもう。

 さっき言ったのの確認と、もうひとつ、確かめたいものがある」


 「確かめたいもの?」


 「自殺魔塔が、あるのかどうか」


 「自殺魔塔? なんで、ここで自殺魔塔?」


 【白い家】、【殺戮村】に連なる最後の話の舞台だ。

 ただ、この内容は何故かあまり知られていない。

 たぶん、ほかの二つに比べて話が地味だからだろうか。


 「確認だけど、自殺魔塔の話は知ってる?」


 姉が聞いてきた。

 俺は答える。


 「一応」


 自殺魔塔の話は、怪談、都市伝説の中ではマイナーな話になる。

 あまり知られていないのだ。

 その話の内容は、こうだ。

 【殺戮村】の主人公が、当時はただの観光地だったその場所に流れ着き、自分の犯した罪について怖くなりその塔から投身自殺をした。

 そして、少しだけ時間が流れて、【白い家】の出来事によって心を病んでしまった人達も呼び寄せて、自殺させてしまう。

 そんな話を聞きつけた自殺志望の人達がやってくるようになってしまった。

 以来、自殺の名所となってしまった、という話がひとつ。


 実は、この自殺魔塔にはもう一つ、噂があった。

 もともと、そちらの方が古くから囁かれていた、つまり成立は自殺魔塔よりも早かった噂らしい。

 そのもう一つの噂とは、【神隠しの噂】だった。

 曰く、もともと、観光地の一つだったその塔の最上階は、異世界に繋がっている、もしくは古代に祀られていた神様の領域になっているという噂があった。

 なんでも、最上階は展望室になっていて、その展望室がここではないどこか異世界に繋がっていて、その出入口がランダムに開いている、というものと、展望室には寂しがり屋の神様が棲んでいて、遊び相手がほしくて気まぐれにさらってしまう、という話だ。

 そんな二つの話がそれぞれ存在していたらしい。


 共通するのは、展望室にいると人が消えてしまうという点だ。


 自殺魔塔の話もそれなりにマイナーだが、こちらも知っている人は限られる。

 後者は、いわゆる地元の人しか知らない話だ。


 「基本的に現実のものを再現してあるのなら、賭ける価値はあるでしょ。

 自殺魔塔がここじゃない別の場所に繋がっている可能性。

 もしかしたら、本当に異世界に行くかもしれないけど、視点を変えればここが異世界なわけだしね」


 「そんな上手くいくかなぁ」


 俺が呟いた時、近くの茂みが、がさがさ揺れた。

 姉が足を止める。俺も続いて止まった。


 「あ、知らない人がいる!!」


 そんな無邪気な声とともにひょこっと顔を出したのは、子供だった。

 

 「本当だ!」


 「あ、お姉ちゃんがいるー!!」

 

 続いて、そんな声。

 やはり、子供だった。

 十歳よりも下に見える子供が三人、こちらへニコニコと笑顔を向けながら、近づいてきた。


 「ねーねー、お姉ちゃん。遊ぼーよ!」


 「遊んでー!」


 「ねーねー、お姉ちゃん、新しく来た人達でしょ?

 ここ案内するから、一緒に遊ぼーよ」


 わらわらと姉に群がる。

 姉を見ると子供らを淡々と見つめている。


 「君たち、ここの子?」


 子供達を見つめながら、姉は尋ねた。

 その声には、感情が含まれていない。

 まるで、自動音声のように無機質だ。


 「そーだよー!」


 「あっちに行って、一緒に遊ぼーよ!」


 「ジュースもお菓子もたくさんあるよ!」


 姉の空いているもう片方の手を掴んで、子供のひとりがぐいぐい引っ張りはじめる。


 「あー! お兄ちゃんばっかり手繋いでる!!

 ズルイズルイ!!」


 別の子供が、俺の手首を掴んでいる姉の手を引っペがそうとする。

 さすがに、姉が、


 「わかったわかった」


 そう言って子供らを落ち着かせた。

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