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【急募】捨てられてたドラゴン拾った【飼い方】  作者: カズキ
可愛い子に旅行に誘われて行った話
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 家の外に出る前に、隠し階段を見つけた俺達は、その階段を降りた。

 降りた先にあったのは、また部屋だった。

 それも、死体がぎっしりと床に敷き詰められている部屋だ。

 全員が、裸だった。

 臭いと、その光景の酷さに、俺は吐いてしまう。

 今まで見てきた酷さとは、種類が違う、光景だ。


 「ガス室、か」


 やはり、姉は凄いと思う。

 

 「ガス室って、あの、大戦時に帝国がやってたっていう、アレ?」


 世界史の授業で、教材の動画と教科書で簡単に習った、特定の民族を大量虐殺したことで有名な部屋だ。


 「機能が同じかはわからないけどね。

 でも、意味合いとしては、同じ」


 姉は、どこか淡々と魔方陣を展開させる。

 最初の部屋と同じように、魔方陣がふよふよとその部屋の中をあちこち浮かんで移動して、やがて消えた。


 「ここが、処分場だったのかな」


 処分場。

 殺処分された、ということなのだろうか。

 と、すると、この光景は。


 そこで、俺はその死体の中に自分が紛れている光景を幻視してしまう。


 生まれてくる時代が違ったなら、ここに俺もいたのだろう。

 そして、なんらかの実験の被験体として、終わっていたのだろうか?

 なんて、妄想をしてしまう。

 そこに意味はあるのだろうか?

 被験体としての最後。

 そうなってしまったのは、運が悪かったのか、それとも時代が悪かったのか。

 わからない。

 また、吐き気が込み上げてくる。


 「最初の腐ったのや、さっきの動く死体は大丈夫だったのに、あんたの基準がわからない」


 姉の言葉に、ひとしきり吐いた俺は答える。


 「俺も、わかんない」


 でも、たぶんそういうものなのだろう。

 俺が袖で口を拭うと、姉が水の入ったペットボトルを渡してくる。

 俺は、それで口をゆすいだ。


 「それにしても」


 姉が言った。


 「まるで、さっき死んだみたい。

 腐ってない」


 さっき、というのが何分前なのかはわからない。

 つまり、それくらい死体は傷んでいないということのようだ。


 「ここで新鮮とか言ったら、人格疑われるかね」


 「大丈夫大丈夫。姉ちゃんの人格を疑う人間なんてここにはいないから」

 

 まぁ、ブラックユーモアだとは思うけど。

 俺は、姉とは反対側、階段を見ながら言った。

 また吐きそうだからだ。


 「そんで、動かないか」


 首がもげ掛けていた男が動けて、ここで死んでいる(ように見える)死体が動かない、というのも確かに妙ではある。


 「それこそ、殺処分されたからじゃない?」


 「そうなってくると、さっきの首がもげ掛けてた男については、どうなるの?」


 「えー、それ俺に聞く?」


 姉ちゃんの方が頭の回転が早いので、この質問はあまり意味がないように感じた。


 「それこそ、ここでなんかの実験してたなら、その成功例とかじゃないの?」


 「アレが、成功例?」


 姉に言われ、俺は改めて考える。

 すぐに、無いか、と思い直した。

 いや、どんな研究してるのかイマイチわからないし。

 でも、首がもげ掛けた状態で、生きている状態となると。

 うーん、それこそ不死の研究??

 あー、そういや綺羅星にあったなぁ、死なない研究をしているマッドサイエンティストが黒幕の小説。

 なんか箱かよ、って言うくらい分厚い文庫本だった。

 子供向けの本から、喫茶店で読むには向かなそうな本まで揃っているのは、アレ絶対マスターの趣味なんだろうな。

 それも、絵本や漫画含めほとんど異国の文字で書かれてるのが多かったから読む人も限られてたんだよなぁ。

 俺達は、母がその文字読めたから、読み聞かせてくれたおかげで読めるようになったけど。


 「魔物でも作る研究してるとか?」


 姉が続けた。

 問いかけと言うより、呟きに近かった。


 「それこそ、死なない研究でもしてんじゃないの?

 ほら、不老不死の研究」


 俺は半分冗談で言ってみた。

 そして、ついでに思い出したことを口に出す。


 「ほら、何年前だっけ?

 不老不死だか不老長寿の研究が行き過ぎて、エルフの学生が襲われた、連続殺人事件あったじゃん??

 あれみたいな感じじゃないの?」


 確か外国の話だったと思う。

 エルフの行方不明者が多発して、しばらくして遺体で見つかった事件があったのだ。

 いわゆる、連続殺人(シリアルキラー)だ。

 調査の末、犯人は捕まり死刑が確定。執行されたとニュースになった。

 エルフ、つまりは長命種族が狙われた理由は、その不老不死に近い不老長寿のためだった。


 「あー、あったあった。

 研究にかこつけて、食べてたってやつね。

 まぁ、ここでは少なくとも食べるつもりは無かったみたいだけど」


 さすがに、笑えなかった。


 そう、少なくともさっき見ただけだと、食べたような形跡はない。

 そもそも不老不死、不老長寿の研究というのも、俺の妄想でしかない。


 「でも、そっかいわゆる【死なない研究】か。

 なるほど。

 でもなぁー、うーん? なんか引っかかるんだよなぁ」


 「そう言えば、昔、ほら戦争の時にここでされてた研究というか、人体実験って結局なんだったんだろう?」


 「さて、ね」


 姉は、そのまましばらく黙った。

 なるべく、床に敷き詰めらた死体を見ないように、俺は姉を振り返る。

 姉は、空中でまるで携帯端末を操作するかのような動作をしていた。

 やがて、終わったのか俺を振り返る。


 「とにかく、外に出て調べてみよう。

 いつまでも、同じとこにいると死ぬってホラージャンルだと決まってるし」

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