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さっきまでの狂った笑いはどこへやら、クリーチャー姿の男性がキョトンとこちらを見てくる。
「ちっ」
姉が舌打ちすると、同時に男性へ飛び蹴りを食らわせる。
蹴りと言うか靴だろうか?
そちらには、何らかの魔法を付与していたらしい。
魔方陣独特の淡い光が見えた。
男性のダラりと垂れていた頭を蹴りあげる形になる。
勢いで、頭が千切れてしまうが姉は容赦なく立て続けに、体を蹴飛ばした。
千切れた頭部は、床に落ちたかと思うと黒い塵になって消えてしまう。
体の方も同様で、着ていた服だけが遺された。
姉は、部屋の外へ注意をはらう。
やがて、その扉を閉めた。
そして、こちらをギロリっと睨む。
「あんたって子は!!」
「いや、だって姉ちゃんがそもそも鏡に手を突っ込まなきゃ」
「言い訳、禁止!!」
「理不尽!」
まぁ、でもいつまでも、そうギャーギャーもしていれないので、俺達は場所を移動することになった。
こうなったら遭遇戦もやむ無し、というわけである。
移動の前に、やはりこの家の中を調べることになった。
間取り等は変わっていなかった。
鏡の中なので、てっきり左右対称を覚悟していたのだが、そうでは無かった。
先程の部屋、死体を見つけた寝室を一通り調べ、ほかの部屋を調べる。
一番の違いは、こちらの家の窓には板が打ち付けられていなかった。
他の部屋にも鍵が掛かっておらず、普通に入れた。
しかし、いつまた遭遇戦になるかはわからないので緊張しっぱなしだったが。
一通り、家の中を調べ終えると、今までこちらの世界に囚われてしまったらしい歴代の犠牲者の死体をいくつか見つけてしまった。
状態はそれぞれで、腐っているものもあればミイラ化しているものもあった。
バラバラなものもあれば、まるで動物や魔物の毛皮でやるように、被害者の全身の皮、それも生皮が剥がされて、タペストリーのように飾ってあったりもした。
「うげ、宗教系の映画でこういうの見たことあるけど、俺もう肉食えないかも」
動物を解体して食べるのには慣れているが、人でやられると中々堪えるものがある。
猿系なら大丈夫だったんだけどなぁ。
それで行くなら人間も大丈夫でも良さそうだけど、無理だわ。
あ、いや、この場合、普通なのか?
「私もしばらくチャーシューとか焼肉、無理かも」
あ、良かった。
姉も同じようだ。
「やっぱり、人型と人は違うわ」
「うん、同じだったら嫌だ」
良かった。どうやらこの辺の感性は姉と同じようだ。
さて、色々調べた結果。
最初の死体が残した手記と同じようなものが、次々と手に入った。
中にはこの鏡の中の世界について、事細かに書かれているものもあった。
それによると、どうやらこの世界は【お化けの出現する、過去世界】のようだ。
「過去の世界?」
俺が呟いた横で、姉が難しそうな顔をする。
「誰かが作った?
自然と出来た?」
「?」
姉が何やらブツブツ呟き始める。
それから、俺を見て確認するように聞いてきた。
「この世界、どう思う?」
「へ?」
「だから、この鏡の中の世界。
まぁ、外側もそうだけどさ。
変なんだよ。気づかなかった?」
「なにに?」
「誰かの手が入ってる形跡がある」
あー、そのことか。
「家の中が掃除されてたこと?」
「それもそうだけど、家のあちこちに術式がそれとなく編んで組み込まれてた。御札はそのひとつ」
他にも術式があったのか。
「経年劣化してるのもあったけど、掃除の件も含めると定期的に人の手が入ってる印象が強い。
だから、ここは映画とかでよくある怨念で出来た世界じゃなくて、誰かが、それこそ生きている誰かが意図的に作った世界の可能性があるかも」
「ふーん? そうだとして目的は?」
「そう、問題はそこ。幽霊を閉じ込めるのが目的なのか。
それとも、この異世界なら実験しても罪に問われないと思ったのか」
一気に姉の思考が飛躍する。
魔法のことはさっぱりなので、俺は聞き流すだけにした。