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――来たよ来たよ――
――来たね来たね――
くすくすと、無邪気な幼い声が意志を交わし合う。
――ボクらと同じ子だね――
――そ、カワイソ、カワイソな、同じ子が一人――
――もう一人、いるよ?――
――いるねいるね♪――
――もう一人にはね、ボクらのお姉ちゃんになってもらうんだ。
だって、狡いよね。ボクらと同じなのに。ボクらよりも幸せな子がいるなんて、許せないよね。
ボクらと、同じくらいカワイソになるべきなんだよ。
そう思うでしょ?――
クスクスと、また無邪気な笑い声が交わされる。
***
死体の近くには、遺留品らしいバックパックとメモ用紙が何枚か転がっていた。
その中から、身分証明書の入った財布が出てきて、姉が確認した。
メモも確認する。
二つを合わせて、どうやらこの死体が依頼にあった行方不明者の可能性が高いことがわかった。
「押し入れや作業小屋に仕掛けてあった、ネズミ捕りに引っかかって放置されてたネズミの死骸思い出した」
アレもかなりひどい状態だったが、コレはそれ以上だ。
「ひどい臭いだわ。湿気が多いと腐りやすいとは聞くけど。
さて、何日経過してんだか」
「そういうのわかんないの?」
「アンタは私をなんだと思ってるの」
「いや、よく司法解剖とかネタにしてるドラマとか観てるから」
「アレは物語でしょ。
知ってる? 作り話は作り話とわからない人はそういうの見ちゃいけないの」
「? なんで?」
「現実と空想の区別がつかないと、色々ごっちゃに考えて小っ恥ずかしいクレーム入れることになるから」
「そういうもん?」
「誰とは言えないけど、何人かそういう人に会ったからね。
それはさて置き、私、虫とかわかんないからなぁ」
「虫?」
「そ、遺体を養分にしてる、蝿とかそういうのの孵化具合とか幼虫の成長具合で死亡時期を逆算することが出来るっぽいけど。
所詮ドラマで得た知識だし、そもそも専門家でもないしね」
「あー、それ俺も見たかも。でも、あんまり死体を直視したくはないかなぁ」
「父さんだったら、アンタに目を瞑るように言うところだろうけどね。
あの人、なんだかんだ子煩悩だから」
「まぁ、見て気持ちの良いものでもないしね」
「それにしては、アンタ、なんか慣れてる?」
「あー、ほら、姉ちゃんも知ってるでしょ。
山行ったりすると、ごくごくたまに食べカスやら、じゃれ殺した残骸をみつけたりするし。
あと、まぁ、色々あった人のぶら下がってた最後の姿なんてのも見たことあるし。
それに、爺ちゃんに手伝えって言われて、嵐が来てるのに田んぼの様子見に行って行方不明になった人の捜索手伝って、その人を近所の人と一緒に引っ張りあげて見つけたこともあるし。
うん、あんまり見たいものでも、見ていいものでもないよ」
「…………父さんが聞いたら、爺ちゃん婆ちゃんと喧嘩になりそうな話だ」
「田んぼのやつは、父さん知ってる。
あの時は、父さんも一緒に探してたから。
あ、でも、あの後、なんか病院に連れて行かれたんだよなぁ。
で、どうやって見つけたのかひとしきり説明させられた。
警察じゃないんだな、ああいうの聞くの。
やっぱり、司法解剖とかする関係なのかな」
「ってことは、前半の食べカスの話はしてないわけか。
まぁ、正解かな。
爺ちゃんと父さんの親子喧嘩は、止めるのが骨だし」
二人して、今までの家族喧嘩を思い出す。
別の意味で空気が重くなってしまった。
「で、これからどうするの?」
俺は訊ねる。
「んー、とりあえず。遺体、見つけちゃったしなぁ」
言いつつ、姉は魔法を展開させる。
現れたのは、魔方陣だ。
複数の魔方陣が部屋の中を、プカプカ浮いて、あっちにフヨフヨ。こっちにフヨフヨしたかと思うと、消えてしまう。
と、今度は、別の魔方陣を展開させる。
それは、遺体と遺留品のみこんで、やはり消えてしまった。
「よし、帰ろう!」
元気よく、姉が言って来た時と同様に鏡に触れる。
すると、姉が首を傾げた。
「んん?」
ぺちぺちと、鏡を軽く叩く。
首を傾げて、俺を振り返る。
「いっけね、閉じ込められた」
やっちまったぜ、とテヘペロする姉が目の前にいた。