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SNSで動画が有名になったと言っても、俺の顔にはモザイクがかかってたし、クラスメイト達も似てるけどたぶん違うよね、という態度だった。
そもそも、高校は小中学生の頃と違って魔力ゼロや魔法が使えない人間への扱いが緩い。
逆に言えば、義務教育の小中学の方が厳しすぎたくらいだ。
それでも、偏見はある。差別は、皆無じゃない。
魔力ゼロ、家は農家、将来性は皆無男。なんて女子の間じゃかなり陰で笑われてたらしいし。
男子の間じゃ、敵にならないという感じでかなり下に見られてるみたいだ。
まぁ、どちらも『一部の』が付くが。
「で、ドラゴン飼ってるってホントなのか?」
「んあ?」
昼休み。
教室の片隅で適当に机を合わせて弁当を食べる仲間の一人、一般人には珍しいハイエルフの少年、リーチが聞いてくる。
リーチは、人形のように白い肌と金色の髪、そしてアイドルに負けず劣らずの容姿をした美少年だ。
これで家が大財閥だったなら完璧だっただろうに、神様は何を思ったのか、彼を高校近くにあるパン屋へ産まれるよう振り分けた。
ちなみにリーチの家の焼きそばパンは絶品である。
「あー、まぁ、ドラゴンみたいだな」
俺は他人事のように、言う。
いまだに俺の中じゃゴンスケはドラゴンじゃなくて、トカゲだ。
そう、デカいトカゲ。
「でも、よく手に入れられたね、高かったんじゃない?」
そう聞いてきたのは、黒髪黒目、眼鏡をかけた人間種族の少年である。
彼の名前は、ツカサ。パン屋でもないが、農家でもない、サラリーマン家庭の生徒である。
「あー、拾った」
「拾ったって」
ツカサが絶句する。
「ドラゴン捨てるやつなんているのかよ?」
リーチが訊ねてくる。
「コンビニのビニール袋に入れられてた。
ご丁寧に袋の口まで縛ってあってさ」
俺は当時のことを説明した。
説明し終えると、ツカサが嫌そうな表情を浮かべる。
「猫の話もそうだけど、よく出来るよね」
「サイコパスだな! 絶対そうだ!」
リーチもイラついたように言った。
「そういや、そのゴンスケの画像ねぇの?」
「あ、僕もみたい。テツの飼ってるドラゴン」
「一応、携帯に入れてあるけど」
言いつつ、俺はフォルダからゴンスケの体の上でポンが丸まって寝ている画像を出して、二人に見せた。
「猫だ」
「猫の尻に敷かれてるドラゴンなんて、僕、初めて見たよ。
ゴンスケはポンを食べようとしたりしないの?」
ドラゴンよりも、一緒に寝てるポンの方が二人には衝撃的だったようだ。
「次の休み、ゴンスケ見に遊び行って良いか?」
リーチがそう訊いてきたので、快諾する。
「あ、じゃあ僕も」
ツカサも生でドラゴンを見たいようだ。
そんな感じで、あとは昨日のテレビがどうだとか、次行くライブがどうだとか、他愛のない話をしていると、女生徒から声を掛けられた。
「ね、ドラゴン飼ってるって本当?」
教室全体がシン、と静まりかえった。
「へ?」
見れば、森人並みの美貌の女生徒が俺たちを見つめていた。
雪のように白い髪に、春になると咲く桜のような淡い色をした瞳。
人間種族のように、見えた。
「違うの?」
こてん、と首を傾げる女子。
誰こいつ? とツカサを見れば何故か携帯電話のバイブレーションのように体を震わせている。
つぎにリーチを見れば、驚いているものの体を震わせてはいなかった。
「いや、うん、飼ってるけど」
「ほんと?! ね、ドラゴンの画像とか無いの?」
「あるよ。見る?」
「見せて見せて!」
あ、香水かな?
いい匂いがする。
「はい、どうぞ」
小さな子供みたいに、その女子は目を輝かせて画像に見入っている。
「わ、ホントだー。すごいドラゴンと三毛猫だー。
猫の尻尾長いねー。猫も飼ってるの? この二匹は仲いいの?」
「うん、三毛猫もうちの猫。まぁ、それなりに仲は良いよ」
「そっかー」
ある程度、画像を見たら満足したらしいその女子は颯爽とその場を去っていった。
「……誰?」
俺のつぶやきに、ツカサがお化けでも見たような顔になった。
一方、リーチは。
「特進クラスの、なんだったかな?
どっかの財閥だか公爵家のお嬢様だよ。学年は俺らと同じ1年生」
「そうなの?」
俺はもう一度、ツカサを見た。
この世の終わりみたいな顔をした友人が、そこにはいた。
そんなことがあった以外は、普通に学業を終え帰宅した俺だったのだが。
「ただいまー。って、おわっ!?」
帰宅した俺は、玄関に入るや否や待ち構えていたゴンスケに押し倒された。
そして、いつも以上に体の臭いを確認され、ゴンスケは自分の体を擦り付けてくる。
「ぐぅるるる、グルルルっ」
威嚇、唸ってきた。
「何怒ってんだよ」
「ぎゃるるるるぅぅ」
「?」
訝しむ俺を無視して、ゴンスケは俺を甘噛みの要領で口に咥えると、風呂に連行、浴室にて俺を制服ごとシャワー責めにしたのだった。




