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籠の鳥の王女は恋をする  作者: 新道 梨果子


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第三章 6.叱責

 しばらくすると、面談室に王子がやってきた。案外、短い時間でやってきたのは、王女を後宮に預けてきただけだったのかもしれない。

 その間、私はただ、部屋の中で立ちすくんでいた。

 扉を開けると同時に、王子は大きくため息をつく。私は何も言えず、王子が中に入って扉を閉めるのを待っていた。


「城の警備体制に問題があることが、ようく分かったよ」


 どこか呆れたような、声。


「本当に大変なことをしでかしてくれたね。真面目な人間? 聞いて呆れるよ」

「申し訳ありません!」


 私はその場で床に座り込んで、頭を下げた。


「……どういうつもりかな」

「こんなことで償えるとも思えませんが、それ以外に知らなくて」


 王子が私に近寄ってくるのが分かる。私は堅く目を閉じた。

 王子が腰に長剣を佩いているのはさきほど見た。

 痛いだろうか。苦しいだろうか。けれどもそれは私の受けるべき罰で、受け入れるべき痛みだ。

 分かってはいても、身体が震えた。

 きっと王子は、私の首に剣を振り下ろしてくれるだろう。そして王女はお咎めなしとなるだろう。なにもかもなかったことに。それが、救いだ。

 だが、自分の頭上で、王子が苦しげな声音で言った。


「頭を上げてくれ。できない。それは、できないんだ」


 私は言われた通り、おずおずと顔を上げる。

 王子はこめかみに手を当て、再びため息をついた。


「君の首を斬ることで片がつくなら、やるよ。けれどこの件に関しては、それはできないんだ」

「……どうして」

「どうして? エイラの輿入れに影響が出るからに決まっている」


 従者の一人くらい、秘密裏に殺して埋めればいい。故郷の家族が遺体を欲しがって何か言うかもしれないがその場合は、王城が、王子をかばっただの事件に巻き込まれただの理由を与えれば、刀傷がいくらあろうと、それで黙ってしまうだろう。

 どうしてそれができないんだ。


「全てを隠してしまうには、もう公になりすぎている」

「え……今日のことがそんなに広まっているんですか」

「違う。それは私とエイラの侍女しか知らない。侍女が大事にしたくないから、と私にだけ相談してきた。他に知られていたら、こんなことでは済まないだろう? 広まっているのは、エイラと君が仲が良いことだ。皆、面白がって話すから、城内では知らぬ者はいない。噂話の範疇ではあるけれどね」


 そして私を指差した。息を呑む。


「そこで君が消えたらどうなる? 噂は本当だったのだ、エイラと君は恋仲だったのだ、エイラの婚姻に君が邪魔になったから消したに違いない、とまことしやかに囁かれるのは火を見るより明らかだ。噂に信憑性が増す、それは困るんだ。私たちは、エイラを綺麗なまま嫁がせる義務がある。もしエイラがセイラスで懐妊したとして、その御子が王の種ではないという噂でもたったら、君はどう責任を取るつもりなのかな」

「……申し訳ありません」


 もうそれしか言えない。


「噂はいい。民草とは、面白おかしく話を広げるものだ。なんと追求されても、それは噂でしかなく、何を調べられても痛くも痒くもない。だが、二人が王城を抜け出した、これは事実だ。万が一、相手方に知られたら、どう否定するんだ。どこからどうその事実が漏れるかも分からないのに」


 王子はまた深くため息をついて身を翻すと、椅子にどかりと腰掛けた。


「危うく軍を出動させて捜索させるところだったよ。本当に駆け落ちでもしたのかと思ったから」

「そんなこと」


 私はともかく、王女が私と逃げたいと思うはずはない。


「君の部屋に遺書があったから、思いとどまった。これは帰ってくるつもりだろうと」


 王子の言葉に、身体がこわばった。

 城下に出る前に、故郷の家族に走り書きだが遺書を書いた。不出来な息子で申し訳ない、と。今までありがとう、と。ただただ、謝辞だけを連ねた手紙。もし私が処刑されたとしたら、その手紙は届くかどうかは分からなかったが、それでも一縷の望みをかけて書いた。


「でも、あと少し遅かったら、本当に捜索しただろうね。帰ってくる、というのは推測にしか過ぎない」

「はい……」

「エイラのわがままに付き合ってやって欲しいとは言ったけれどね、命を賭してまでやるとは思わなかった」

「違います。エイラ殿下を私がそそのかしたのです」

「エイラは逆のことを言っていたけれどね」


 そして何度目かも分からないため息を、またついた。


「とにかく、今日のところは部屋に帰ってくれ。明日からは来なくていい。当分は謹慎だ。ひとまず周りには病欠ということにしておこう。追って沙汰は伝える」

「はい……申し訳ありません……」


 私はのそりと立ち上がり、扉に向かって歩く。

 部屋を出る前に、もう一度王子の方を見たが、憔悴した様子で机に肘をついて、額に手を当てている。

 もしこの場で本音を言ったなら、きっと王子は抜刀するに違いない、と思う。


 それでも私は、今日のことを後悔などしていないのです。

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