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みんな大好き?

 逃亡者の事はさておき、どうするかと4人が悩む。

 彼等が選んだのは金剛鎧で、洋子が全員にかけた。

 武器への付与に風+を選んだのは、どのような敵であれパワー+スラッシュのダメージ増加が見込めるだろうという判断からでしかない。


 16階の風景を目にする。

 地下に作られた空洞を、大きな柱や建築物で支えているかのような場所は、15階で見慣れたものであるが……


 ボスの姿がない。


 これはどういう事だと、4人共が困惑し周囲を見ていた。


「何か仕掛けたか?」

「……設定ミスでしょうか?」

「そんな事が、あるのか?」

「私は経験がないですが、ボスが出現しなくてイベントが進行しなかったという話も…」


 話し出した洋子であったが、香織が手を上げ止めた。


「……静かに。聞こえるわ」


 緊張した表情で目を閉じている。

 習うように3人も耳を澄ませると、小さな物音が聞こえてきた。

 建物が震えるような……いや、地面も揺れている?


 その振動が近付いてきている事を知るまで、時間はかからなかった。


 姿が見えないのに、4人共が口の渇きを覚え唾を飲む。

 その時、奥にあった建物が崩れるのを目にした。

 さらにズンと一際大きな振動が鳴り響くと目前にあった建物が破壊され、ソレがなんであるのか理解できた。


『グルルゥー……』


「恐竜!」

「違います! ドラゴンです!」


 洋子のツッコミが早かったが、ソレを恐竜と言ったのも無理はない。

 建物を瓦解させ、顔をのっそりと出してきた姿は、ティラノサウルスを思い起こさせるもの。洋子が言ったようにドラゴンではあるのだが、翼をもたず地上を主戦場にしたタイプ。


 全身を覆う石のような色をした鱗には、苔が生えていそう。

 頭上にある2本の曲がった角など、小さくて良く見えない。

 背びれもあるようだが、これまた小さい。

 そうした特徴が無ければ、ドラゴン等とは間違っても言えないだろう。

 知性が皆無のように見える獰猛な目や牙を見せる口は、捕食者として存在している事を知らしめるのに十分に役立つだろうが。


 ドラゴンが一歩踏み出すと建物がさらに崩れた。

 良治達であれば、魔法やスキルを行使しないと破壊できない建物を、そのモンスターは動くというだけで破壊してしまう。


 さらに一歩。

 どれだけの大きさなのかが見えてくる。

 尻尾は隠れて見えないが、全長はおよそサイクロプスと同等といったところか。

 姿勢を低くするその姿は、今にも突進してきそう。

 一度走りだされたら、近接攻撃を当てるのは難しいだろう。

 ……なら、動きを固定しなければ……


「2人共行くぞ! 洋子さんは、後から援護を!」


 良治が大声で叫ぶと、2人が左右の建物へと飛び跳ね壁に沿って走っていく。

 洋子は目を吊り上げ、しっかりと首を前に倒した。


 最初に攻撃を加えたのは香織と須藤。

 それぞれの武器を振り抜く形でダメージを与え、距離を置いた


『グルルゥ……』


 須藤は切った。

 香織は打撃を与えた。


 しかし、それが痛みとして伝わっていないのか、ドラゴンは尖った爪先でポリポリとかいてみせる。余裕を見せるのは勝手であるが、そのスキに良治がパワーを溜めていた。


「スラッシュ!」


 風+の効果によるパワー+スラッシュ。

 少し距離があるようだが、3つに分裂したかのような衝撃波はドラゴンの胸へと命中。小さな刃は鱗を剥ぎ取るだけであったが、一番大きな刃が肉を裂き赤い血を吹き出させた。


『グラァアア――――!!!!』


 ドラゴンの咆哮が迷宮内で響く。

 近くにあった建物が細かく振動を起こすが、その間に須藤と香織が再度迫る。

 武器を振り上げ……といった所で、ドラゴンが暴れ出した。


『グラララァアア――――!!!』


 頭を下げ、自分にダメージを与えた良治を睨みつけ走り出す。

 ドシンドシンと石床を踏みつけ走る速度に、須藤と香織が追い付けない。


 やはり動き出されると速い。

 自分へと攻撃が向いたのはいいが、正面から攻撃を受けるのは無理。

 となれば、回避を優先し位置取りを変えてから……。


 良治がそう考えた時、洋子が氷結の魔法を放った。


 標的は迫るドラゴンの足元。

 動きを止める為に、パワー+氷結を選んだ。

 白い爪を生やした右足が凍てつき、ドラゴンの動きが止まる。


 その間に須藤と香織が追い付き、それぞれ攻撃を加え始めた。

 2人による攻撃がドラゴンの背に集中したのを見て、洋子が雷光を放つが麻痺効果が見受けられない。

 標的となっていると思われる良治と言えば、距離を置いて魔法を放っているが、ダメージを与えられているようには見えなかった。

 ならばと、洋子の元へと駆け付けた。


「魔力は大丈夫か?」

「まだいけます。魔石も十分ですよ」


 良治にそう言い、ポーチを軽く叩いて見せる。


 良治が求めたのは、パワー型の融合水弾。

 攻撃を畳み掛けたいが、前で戦う2人に声が届くかどうか分からない。

 火球では危険と判断し水弾にしたのだろう。

 

 2人がパワーを使用している間も、須藤と香織が攻撃を続けた。

 そのうちに、ドラゴンが両手や顔を振り回し始める。


『グルルゥ!!!』


「こいつ!」

「無理しない!」


 須藤が無茶ぶりをしようとしたのを見て香織が叱責。

 手や顔を振り回す行動に2人が距離を置くが、ドラゴンの動きは彼等を攻撃する為のものでは無かった。


 パキっと音がし、ドラゴンの足が地面から離れる。

 体を動かす事で氷を砕いたのだろう。

 自由になった右足をゆっくりと石床に置いたかと思うと再度走り出す。


『グラァ――――!!!』


 両手と口を前に突き出し、涎を垂らしながら走る姿は、まさに暴竜。

 進路方向から考えれば標的は良治か洋子のどちらか。

 最初の大ダメージを与えたのは良治であるが、その後雷光や氷結を洋子が使用している為、どちらが標的になっているのか分かりづらい。

 

 この時、すでに洋子がパワー型水弾を良治の前に置いている。

 それは同時に良治の方も準備が終わっているという事。

 自分達へとまっすぐに迫る暴竜に対し……


水弾(アクアボール)!!」


 パワー型水弾を良治が放つが、それと同時に、


『グゥゥララアアアアアア―――――――!!!!』


 ドラゴンの口から巨大な火の玉が吐きだされた。


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◆現在この作品の書籍版が発売中となっています
web版とは【異なる部分】が幾つかあるので、是非手に取って読んでみて欲しいです。
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