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イベント

 それが起きたのは、良治達が最後の絵を手にした時の事。


「おぉー…」

「こうきましたか……」

「あるあるっすねぇ」

「もう、驚かないわ」


 彼等の目前で起きた事を簡単に言えば『4枚の絵によって階段が出現した』という事になる。


 まず最後の1枚である水弾の絵を手にした。

 するとポーチにしまってあったはずの3枚の絵が突然目の前に出現。

 最後に入手した一枚も宙に浮き光り出した。

 呆然と眺めている間に近くの建物へと飛んでいき四方に分かれ壁に張り付くと、その中心に見慣れた階段が発生。


 集めれば良かっただけのアイテムという事になるわけだが、洋子は不満そうだ。

 絵に描かれている内容が、何かしらのヒントになっているのではないか?

 そんな事を考えていたのに、それが無駄にされた気持ちなのだろう。


 彼女の推察はともかくとして、出現した階段に良治が近づいた。

 子供のような微笑みをしながら階段の上へと視線を向けると、さらに笑みが深まる。


(期待させるじゃないか)


 心情がそのままの顔に出ているかのよう。

 自然に階段に足が置かれるが、


「まだっすよ」

「……そうだった」


 須藤の手が肩に置かれ、足をとめ振りかえる。


「気持ちは分かるっすよ。俺だって同じっす」


 そういう須藤を見れば、良治の気持ちを理解しきっている顔つき。

 女2人も近づいてきて、同種の微笑みを良治に向けた。

 良治は後頭部をかきむしり「悪い」と、気恥ずかしそうに言い頭を下げると、3人共が笑い声をあげてしまう。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 出現した階段の事を掲示板で報告すると、各自が反応をみせる。

 大剣術士達もすでに3枚入手しているので、彼等も追いつく事だろう。

 良治達は入手していない『土+』のある場所の方へと向かっていた。


 宝箱を見つけ鑑定してみると警報の罠を確認。

 これは、すでに報告されてあったものであるが、今回は銀色の鍵を須藤が使い鍵の開け閉めをしてみる。


「これでいいんすかね?」

「鑑定してみたら分かるんじゃないか?」


 外観的な変化がないので、鑑定虫眼鏡を使ってみると『高級宝箱』とのみ表示され、須藤と良治の2人が握り拳を作った。

 成功確率がどの程度なのかは不明だが、管理者が言ったとおり罠の解除は可能のようだ。そこに間違いはなかったという事だけでも嬉しかったのだろう。


 男2人が喜ぶ側で女2人が手を伸ばしてくる。

 それぞれ羊皮紙を手にすると即座に覚えた。

 良治と須藤も残された2つを手にし『土+』を習得。

 宝箱は無論回収された。


土の槍(アースランス)!」


 須藤がそう口にすると、矛先の銀光が鈍りだす。

 見た須藤は、赤茶というより土色……と言うべきだろうか? と、考えた。

 光は鈍くなったが土色のまま。それは他の属性でも一緒だ。

 知りたいのは、パワー+スラッシュ時の効果である。


 火+の時は、対象を燃やした。

 水+の時は、鋭さが増し貫通力を上げた。

 風+の時は、三日月の衝撃波が増え、ダメージ力そのものを上げた。


 では、土+は?

 どうなる? と、さっそく須藤がパワー+スラッシュを近くの壁へと放つ。


 ……が。


「分かんないっすね……」

「報告通り色が違うだけか」


 水+の時も違いは微妙であったが為に、理解するまで多少の時間はかかった。

 今回の土+もその類のものだろうか?

 悩みながら破壊された壁へと近づき見てみたが、やはり効果が分からない。

 床に散らばった瓦礫を見ている4人共が、頭を悩ませてしまう。


「モンスター相手ならどうでしょう?」

「物だと効果が出ないって事か?」

「まったく出ないって事は無いと思うんですけど、具体的には分からないのかもしれません」

「……そう言う事もあるか」


 洋子の言いたい事を感覚的に理解した様子を見せると、


「ねぇ、洋子さん。貴方が覚えた魔法はどうなの?」


 そんな事を香織が尋ねると、洋子は待ってました! とばかりに、歓喜の表情をみせてしまう。


「どうしてもと言うのであれば、お見せしましょう!」


(そこまでは……いえ、言うだけ無駄ね)


 心の中でのみ言いかけた香織であったが、洋子の表情を見て即座に諦めた。

 そんな香織を無視し、洋子の体がクルッと回転し良治へと向けられる。


「ん?」

「金剛鎧の魔法をかけますね」

「……分かった」


 返答に躊躇したのは実験台に指名されたような気持ちになったからだろうが、満面の笑顔を見せられては敵わなかった。

 洋子は言った通り金剛鎧の魔法をかけると、良治の体が青白い光に包まれる。


「これは防御力も上がるんだよな? なら土鎧はいらないのか?」


 自分の肩や腕を見ながら尋ねると、洋子は少しだけ顔をあげ習得時のイメージを、頭の中に思い浮かべた。

「うーん」と小さく呟いてから、良治の腹にスティックを軽く押し付ける。

 その先が体に触れるかどうかといった所で、ポワっとした光がでるが良治の体に届き、すぐにスティックを戻し良治を見上げた。


「多少の抵抗は感じましたが、本当に微々たるものですね。ブレス攻撃の方も、わずか程度と考えた方がいいです」

「闇鎧の時と一緒か?」

「感覚的には近いかも? 例えば、火のブレスを受けたら全身大火傷になって死ぬはずが、かろうじて生き延びられる……と言った感じでしょうか? ……9階に行けば試せますけど、どうします?」

「やめておく!」


 尻込みをした良治を見て、洋子が安堵したような表情を見せた。

 それは良治に対する気持ちが前と異なっているからだろう。

 2人がそうした話をしているのを見ていた須藤が、香織へと近づき小さな声で話しかけた。


「(最近、少し変わってないっすか?)」

「(色々あるんでしょ。進展しているんじゃない?)」


 そんな事を言われて須藤は、話をしている相手の事を思う。

 自分達もちょっとは進展しているはずなのだが……あれ?


「(……香織さんは変わらないっすね)」

「(変わらなきゃいけない理由がないわ)」


 即答され、少しだけあった希望が打ち砕かれてしまうが、歯を食いしばって耐えた。


「(変えてみせるっすよ!)」

「(はいはい、頑張ってね)」


 2人がそんな話をしている間に、今度は木人形の魔法実験にうつっていた。


 洋子が床にスティックをむけて木人形(ウッドゴーレム)の魔法を使うと、石床の中から木の芽が出て来て、即座に成長していく。

 一本の木が出来上がったかと思うと、今度は床から木の根が引っこ抜かれ、それが2本の足へと変化。

 左右にあった枝が絡まり腕へと変わると、少し遅れてから黒い点が3つ表示され、ハニワのような顔が出来上がってしまう。


「……これは、どう使うんだ?」

「守るとか、攻撃してとか、そんな大まかな命令しかできないようですね」

「攻撃も可能か……いいな。これを出しながら、他の魔法は?」

「試してみます!」


 言われてみればどうだろう? と水弾の魔法を出そうとするが出来なかった。

 火球や闇鎧の魔法も同じで、他の魔法を扱うのは無理そうだ。


「駄目ですね……」

「そう上手くはいかないか……あぁ、2体目は出せないのか?」

「なるほど!」


 さらに良治の言った事を試してみるが、2体目の出現も叶わない。

 悔し気な洋子の隣で、今度はパワーありきで試してみたら? と言う。


 それも試してみるのだが発動しない。

 パワースキルの効果が無いのか? と思ったが違った。


 1体しか呼べないというだけらしく、すでに出現している木人形を解除した後であれば発動出来て、倍近いサイズの木人形が彼等の前に出現。


「これはまた……」

「色々と役立ちそうなサイズですが、これを使っている間は他の魔法が使えないという事を考えれば……うーん」


 洋子が悩んでいると、今度は須藤がパワーありきでの金剛鎧について言ってくる。

 これもすぐに試され良治の体が発光。

 かけた瞬間眩しさすら感じてしまい全員が目を隠した。


 出来ないものもあれば可能なのもある。

 何かを知っていく手探りのような感覚が楽しくて、その場にいた4人が、あーだーこーだと話しあっていた。

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web版とは【異なる部分】が幾つかあるので、是非手に取って読んでみて欲しいです。
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