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合流してから、問題となっている宝箱へと向かった。
すでに探索済みの場所を歩いていき、目的の宝箱を発見。
4人が頷き合い、当初の計画通りの行動にでる。
氷結担当は、無論洋子。
他の3人は近くで待機。
仲間達が見守る中、洋子が、
「氷結!」
使用すると、宝箱の下に氷が発生するが、弾かれるように転がってしまう。
衝撃によって蓋が開くが、罠らしきものが発動した様子がない。
計算外であるが、何かしらの危険性が無いように思え4人が安堵の溜息を吐いた。
なんだ拍子抜け……。
――いや、ちょっとおかしい。
開いたはずの蓋が閉じている。
「……開いたよな?」
「そう見えたっすね」
「どういう事?」
ますます不可解になり感想を漏らすが、1名ほど違った。
小さな唇を隠そうともせずニンマリと曲げる。
手にしている薄赤いスティックを、左の手の平にポンポンとあてながら「フフフ」等と声を漏らし始めた。
「……よ、洋子さん?」
「こういうのは知りませんね。何でしょう? ちょっと新鮮です」
良治の中で、嫌な予感が湧き上がってきた。
冷や汗のようなものが額から流れてきたが、気のせいではない。
さて、どうしてくれようか? といった様子で宝箱に熱い視線を送っていると……
宝箱が自分で起き上がった。
その行為に「へ?」とか「はぃ?」とか声をだすが、宝箱の蓋がパカッと開き、蓋に大きな目が2つ。そして白く鋭い牙を見せると、4人共が声を失なってしまう。
なんだあれは! と良治は、宝箱を指さし言いたげな様子。
洋子と須藤は連想したのか、2人そろって「「アレだアレ!」」と言っているが他の2人には全く通じていない。
「分かるのか!」
「ミミックですよ!」
「いたのかよ!」
「ミミック?……ってなに?」
分かる人と分からない人との差が、そこにはあった。
洋子と須藤は何故か喜んでいる。
全く分からない良治と香織は、モンスターの一種か? と身構えた。
そんな4人を笑うかのように、ミミックが飛び跳ねだす。
「襲ってこないのか?」
「油断は出来ないわよ。洋子さん、土鎧をお願い」
「そうでした!」
「頼むっす!」
パワーを使っている暇はない。
通常バージョンでも洋子の土鎧の方が強いので、それぞれに使おうとする……が、
カタン!
突然ミミックが飛び跳ね、洋子に牙を向けた。
「この!」
予想していた良治が鉄の盾を使い、突如襲ってきたミミックの攻撃を遮る。
弾こうと行動したのだが、その盾にミミックの牙が突き立てられ、ガリガリと削られ始めた。
「食うのか!?」
「そのまま!」
驚く良治に香織が声をかけ、ヌンチャクを振るう。
命中すると、ミミックが盾から離れ床へと転がるが、すぐに飛び跳ねだす。
「まるで効いてないようね……」
「そりゃ……ちょっと待て」
嫌な事を思い出し良治の声が止まった。
同じ事を思ったのか、須藤の顔が青くなる。
「それは、無いっしょ!」
「……えっ。そう言う事です?」
「嘘でしょ!」
洋子と香織も考えてしまったようだ。
まさかと思うが、このミミック――無敵ではないのか? と。
「洋子さんは、パワーを! 須藤君。香織さん、時間を稼ぐぞ!」
「わかったっす!」
「了解よ!」
良治の号令によってそれぞれが配置につき始める。
ミミックは小馬鹿にしたように4人の周囲を飛び跳ね回りだした。
トーン…トーンと何度も飛び跳ねるミミックに対し、苛立ちが増したのか須藤が動く。
ミミックを殴りつけるように槍を振るうが、それにも噛みついてきた。
しかし、すぐにペっと吐き出し離れてしまう。
不味かったのだろうか?
「て、てめぇ!」
馬鹿にされたかのような行動に、須藤の怒りが急上昇。
槍を掴む手を震わせていると、横に良治が並んだ。
「ああいうのに有効そうな属性は何だ?」
「属性……物質的な相手だし、使えるものでは風っすかね? 本当は雷や土が……いや、この場合は無属性? ……ちょっと分かんないっす」
「いや、いい。試してみる。風の剣!」
ものは試しだと、良治が自分の剣を風属性に変える。
フォンという音がし、剣の周囲からそよ風のようなものを感じた。
パワー+スラッシュを使えば、小さめの衝撃波が増えるが、通常攻撃程度であれば、属性による追加ダメージがあるだけ。
効果があるかどうか分からないが良治が攻撃をしかける。
鈍い音を出し、ミミックが吹っ飛ばされる。
良治の手に、切ったという感触が一切ない。
この手ごたえはむしろ……
湧き出た考えを捨てるかのように頭を振るう。
無敵のモンスターとか、なんだそれは!
ゲームバランス崩壊もいい所だろう!
いや、しかし、ここの管理者の性格は……
(最悪だった!!)
そういえば、そうだった! と思い出し、背中から汗が噴き出した。
飛んでいったミミックといえば、再度床を蹴るように飛び跳ね近付いてくる。
良治の前までくると、脛を目掛けて飛び跳ねた。
ガリッという音と共に脛が齧られ、激しい痛みと一緒に力が抜けていく。
「グゥウ――!?」
「鈴木さん!」
「このやろう!」
突然の角度変更による攻撃をかわし切れず、力が抜けたかのように片膝をつく。
須藤が駆け寄り槍を振るうとミミックが外れるが、良治の肉片や血が千切られ周囲にとび散った。
「……回復(大)」
ここまで痛烈な痛みを受けたのは久しぶりだ。
今までも攻撃を受けることはあったが、その度に土鎧に救われてきたと言っていい。
洋子の土鎧を待たずに自分で使っていれば……と悔やみながら、回復(大)によって噛みつかれた足を治す。
その時、洋子から「避けてください!」という叫び声が飛び、須藤と良治が左右に分かれた。
「雷光!」
洋子が選んだのは雷光。
通常よりも太い雷が、折れ曲がり走る。
見事に宝箱に命中すると、その雷と共に壁へと向かって吹き飛ばされた。
壁は粉砕されミミックがめり込み、一呼吸遅れて床に落ちた。
どうだ?
これでもダメージが無かったら……いや、そんなはずは……
嫌な予感。
あるいは、確信じみた予想を抱きながら、4人が不安な様子で見守っていると……ミミックが動き出した!
「やっぱり……」
――か。と続けようとした良治の声が止まった。
一番近くにいた彼にはハッキリと見えた。
宝箱に焦げ目のような黒い跡がついている。
それはつまり……
「こいつは違う! ダメージ結果があるぞ!」
「よっしゃ!」
「なら!」
「……」
前衛の3人が希望を抱くが、洋子は違った。
パワー+雷光でも、わずかな焦げ目がついた程度と言う事は?
(……無敵じゃないってだけで、防御力はかなり高いってことじゃ? それとも魔法の選択が駄目だった? どっち?)
素直に喜ぶ事ができず、どうしたらいいのかと考え始めていた。