発見されたもの
掲示板での話が終わると、再度探索を開始する。
大剣術士達が言ってきた絵の照らし合わせや、昨日の提案については全員一致で賛同。洋子的には、自分の手で地図作りをしたいという気持ちもあったが効率化を選んだようだ。
それらについての返事は後にするとして、探索を続行するのだが……
報告になかった宝箱を発見する。
「また、警報っすかね……」
「調べてみれば分かる……ん?」
「どうかしました?」
良治が鑑定虫眼鏡を使い調べてみると『高級宝箱:????』と表示されてしまい、壊れたか? と、思ったが、須藤が使ってみても一緒であった。
嫌な予感がフツフツ湧いてくるが、中に入っている物がこの先で必要になってくるものだとしたら取らずにはいられない。
全員がどうしようかと迷っているうちに、良治が思いついたように「あぁ」っと声をだした。
「これどんな罠か知らないが、遠くから開けたらいいんじゃないか?」
「……遠くから?」
「このサイズなら羊皮紙だろ。なら、離れた場所から水弾でも打てば、罠があっても被害には合わないんじゃないか?」
「……良いわね、それ」
「いえ、でも爆発の類が発生した場合はどうします?」
「開けた途端、中のものが燃えるとか吹っ飛ぶような仕掛けっすか? ……ありえなくはないっすね」
いいアイディアかと思えばそうでもない様子。
かといって、警報罠の事もある。
ほんの少し開いただけで、また同様の罠が発動した場合を考えると……
「「「「うーん……」」」」
全員が悩みだした。
悩んだ結果、宝の位置だけをメモに記載し一時保留となった。
掲示板で報告し、良いアイディアが出ればと思ったが、この報告がされても結局は何も出なかった。
――ただし。
大剣術士達と直接会う事によって、別の事が判明した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
須藤や香織はいない。
ガチャ要望に応えるために、2人共が10階へと向かっている。
大剣術士達と会うなら昨日の話についても返事をするべきだし、地図の確認を考えると会うのは洋子が良い。
そして洋子が会うのであれば、自分も会うと良治が言い出した。
この先の事を考えれば、須藤や香織にガチャの事を任せた方が、色々面倒な手間が省けるという理由もある。
そんな諸々の理由で、良治が大剣術士達と会う事になった。
「……直接会ってくれるとは、少し驚きましたよ」
「俺はあまり気にしないんだが、その……」
「係長。その話はいいですから」
何かを言いかけた良治に、洋子が目を吊り上げ言うと、口をつぐんでしまう。
2人のやりとりを見ていた大剣術士が、緊張を緩めたかのように微笑むと、横に立っていた弓術士が、
「なんだか、恋人同士みたいですね……」
そんな爆弾を落とすものだから、目の前にたつ2人の体がいきなり膠着した。
「こ、こいぃ!?」
「ッ!?」
良治が上ずった声を出し、洋子は頬を赤くした。
弓術士と言えば、2人の反応に驚き身を引いてしまう。
「すみませんでした。掲示板での話と違って、つい……」
「いいえぇえ!」
「び、びっくりしただけだ!」
弓術士が謝罪すると、2人共が勢いよく手と首を振った。
(……否定しない?)
掲示板では完全に否定していたのに、今しがた弓術士が言った事を拒絶する様子がない。これは、467の言った事が大外れではないか? と大剣術士が首をひねる。
そんなやり取りが行われてから、話がされ始めた。
まず、大剣術士が提案してきた探索範囲の分業化については、すぐに賛同することを告げた。
「そうか、良かった」
良治が賛同したので、この話は掲示板で詳しく話される事になるだろう。
弓術士が懸念していたのは、良治達が判断するまでの間、横やりをいれてほしくなかったという点だけ。自分で判断したのであれば、彼女が何かを言う事もなかった。
「それとガチャの件ですが……」
次に、ガチャ要望に応じる時間についてだが、地図の照らし合わせの時間を使い、他のメンバー達に任せてみようという話がされる。それは大剣術士も考えていたようで、良治が言った事に賛同してみせた。
次回からは、剣術士や467のPTメンバーも含めて会う事になるかもしれない。
4人までなのだから、会うのは良治ではなく、洋子と言う事になりそうだが。
そして発見された絵の確認が始まる。
「……絵のタッチは同じが」
「でも内容はまったく違いますね」
「大剣術士さんの方は、本当に火球だな……」
「でも、私達のは泥で出来たゴーレムにも思えます」
良治と洋子が、2枚の絵を見比べながら感想を口にした。
その後、大剣術士と弓術士に絵が渡される事になるが、彼等も同意見のようで、何度か頷きあってみせた。
彼等の方でも確認が済むと、良治達の分が返却される。
この絵に意味があるのかどうか分からないが、保管だけはしておくようだ。
最後に、迷宮図を見せあう事になったのだが……。
「ここは私達も見ましたよ」
「ああ、確かに通った」
洋子が記した場所にあった宝箱なのだが、それが大剣術士達の方では見つかっていない。
壁の後ろに隠れていたわけでもないし、近くを通れば分かる様な場所だった。
なら見逃したのではなく地図に記載した道筋が間違っているのだろうか?
そう考え地図を照らし合わせてみたが、共通している道について言えば間違いらしいものが見つからない。
「どういう事でしょ?」
「分からないが……調べた方が良いのかもしれない」
良治がそう判断すると、洋子も力強く頷いてみせた。
調べたくてウズウズしている様子が分かり、良治がクスリと微笑んでしまう。
それを見た洋子が馬鹿にされたと思い込み、頬を膨らませてしまった。
(やっぱり467の勘は外れだな)
(Yさんって掲示板とイメージが違って可愛い)
そんな事を考え合う大剣術士と弓術士は、互いの探索範囲を決めてから帰る事にした。
「須藤君達はどうだろ?」
「そう、ですね……」
互いの迷宮スマホで掲示板を見てみると、まだ少しかかる様子だ。
希望者が多かったのだろう。
キリがいい所で止め合流する事になるのだが、それまでの良治と洋子は話しづらい空気の中にいた。
(恋人……か)
(そう見えるの?)
弓術士が落とした爆弾が、まだ胸の中にあったようで、その言葉を思い出す度に相手の方を見てはすぐに目を逸らしてしまう。
そんな2人の様子は、まるで学生が初恋をしたような状態で、見る者は同様の気持ちを抱くかもしれない。
須藤達と合流を果たすと、2人共が安堵した息を吐いた。
「……何かあったの?」
目ざとく香織が聞くと、2人はそろって力強く否定。
それが余計に怪しくて、香織の唇が緩んだ。
(また何か言う気だ!)
察した洋子が、そうはさせまいと大剣術士達と話し合った事を2人へと教える。
「……絵の方は気になるけど、それより宝箱が気になるわね」
「もしかしたら、レアものってやつじゃないっすか?」
「レアもの……どうなんだろ?」
「とりあえず、拾っておいたほうがいいよな?」
そこは間違いがないはずだと良治が言うと、3人がそろって頷いた。
それは良いが『????』という表示が気になる。
罠の類が予想されるのだが、どうしたらいいのかと悩んだ。
「大剣術士さん達の方では見つからなかったわけですから、羊皮紙の類じゃないかもしれません。なら、燃えるって言う事はないと思うんですよね」
「……羊皮紙じゃなければだが」
仮に洋子のいう通りだとしても、羊皮紙以外にも燃えそうなものが入っていれば……いや、その前に火がつくような罠ではない可能性もあるが……。
「いっそ凍らせたら?」
「氷結ですか?」
「そうよ。凍る前に少しぐらい動くでしょうし、それで蓋ぐらい開かない?」
「凍ったら、中のものを取り出すのが大変じゃないか?」
「その時は、火球を近くにおいて溶かせばいいのよ。操作できるんでしょ?」
「試してみないと分かりませんが……1度だけやってみますか?」
「――分かった」
こうした流れから香織の案が採用される事になり、彼等は謎の宝箱を開ける事にした。