能ある鷹は爪を隠す?
退社時間となりアパートに帰ると、近くにある立ち食い蕎麦屋へと向かった。
一杯350円でかき揚げ蕎麦が食べられるという事もあり、結構な客達がいる店だ。
蕎麦をすする音を出している狭い店内に、良治も入って行く。
彼が頼んだのは天ぷら蕎麦だった。
値段は400円。
載せられている海老天は、小さなものが一つのみ。
この値段で天ぷら蕎麦が食べられるのだから贅沢は言えないが、もう少し大きいのが良いとは思わずにいられない。
そんな事を思いつつ、カウンターで蕎麦を食べ始めると、隣でタヌキ蕎麦を食べていた男の愚痴が聞こえてきた。
「……また、これかよ。この時間はいつもだな」
何の事だ?
と、隣の男を見れば視線が上へと向いていて、テレビが置かれていたのを見つけた。
(あぁ……)
すぐに理解出来た。
迷宮から帰ってきたこの時間帯ともなれば、各局が争うかのように新情報を流し始める。タヌキ蕎麦の男は、それが不満だったのだろう。愚痴を漏らした男は、面白くなさそうに蕎麦を食べ終えて店から出ていった。
良治も残った分を食べ終え丼を店員に戻す。
そのまま立ち去ろうとした時、少し離れたテーブルにいた客達からの声を耳にする。
「意見対立の話を聞かなくなったと思ったら今度はガチャか……よくやるな……」
「そういや聞いたか? まだ意見対立の話を続けるならスポンサーを降りるって企業が出たらしいぞ」
「俺も聞いたが、それ本当だったのか?」
「いや、本当かどうか分からないんだよ。お前知らないか?」
「知るわけないだろ」
(……その話はもう聞きたくない)
関わり合いたくないと、今度こそ蕎麦屋を後にした。
その日の夜、洋子のブログで大騒ぎが起きた。
元々ガチャ関連の事で騒ぎは発生していたのだが、その攻略手段にも似たようなものが発見されたからだろう。
しかも、それを見つけたのが、またも良治達。
元々注目を集めていたプレイヤーが再度の発見をしたという事で、さらに注目を浴びる事になってしまった。
ブログには多数の感謝的なコメントが残される事になり、それを見た良治は、つくづく宝箱を拾っておいて良かったと思った様子。
中には、14階に到達するなり現金に手を出してしまったプレイヤーもいたようで、現実世界の金銭が減っている事が確認される事になった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『ぴんぽんぱーん。はーい、神様だよ。管理者とか言われているけど、神様だよ。好きに呼んでもいいけどね!』
(……邪神のおでましか)
事件発生から31日目の朝。
迷宮へと連れて来られ良治達に、さっそくとばかり管理者の声が届き、誰しもが不快感を顔に浮かべた。
『えーと、まずは宝箱の件ね。あれの値段設定は意図したものだから修正はしない。そこは安心していいよ』
「おっ? やったっすね!!」
「やりましたね! 今度は、私にもやらせてください!」
「落ち着け!」
「ガチャってそんなに面白い? 私には分からないわ」
喜ぶ洋子の気持ちが分からないようで、香織はヌンチャクを手にしたまま首を傾けた。何かを言いたげな洋子であったが、管理者の声がさらに続けられる。
『補充されるカプセルには、まだ余裕があるから、僕に感謝して回すんだよ! じゃぁね!』
「……ん?」
「どうかしたっすか?」
「いや……なんだか、引っかかるような言い方だったなぁ……と」
管理者の言い方に含む所を感じ、迷うように眉を寄せた。
洋子と香織が顔を見合わせたのは、互いに思う所があるからだろう。
「まぁ、宝箱の件は安心できたし昨日の続きをするか。洋子さん地図の方はどう?」
「……」
「洋子さん?」
「あっ! えーと……たぶん、半分も探索が終わっていません」
「ほぼ1日かけて半分以下か……早めに進むか?」
「いえ、今まで通りでお願いします。モンスターに先制攻撃される確率が高いので……」
「……すまん」
「ごめんなさい……」
「面目ないっす」
良治が謝るなり、香織と須藤が続け謝罪してしまう。
(荒野に長くいたせいだろうか? どうも気配を察知する感覚が鈍っているな)
そう考えた良治は、警戒を強めて歩き始めることにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
雑談スレ part 70
85 名前 名無しの迷宮人
つまり、カプセルの数には限りがあるって事か?
86 名前 ガチャで失敗した迷宮人
そういう事だと思うぞ。
まだ余裕があるって事は、逆に言えば無限に出来るってわけじゃないだろう。
87 名前 名無しの迷宮人
>>86
じゃあ、14階に到着するのが遅れるほど蘇生魔法を入手できる確率も減るの?
88 名前 ガチャで失敗した迷宮人
そこは分からないな。
余裕がどの程度なのかも不明だし、出る確率も偏りがある気がするんだよ。
杖術士なんて、50回やって駄目だったみたいだし。
89 名前 杖術士
おかしいだろ!
短槍術士は3回で出たんだぞ!
なんで、俺だけで出ないんだよ!
90 名前 槍の派遣社員
>>89
お前、物欲センサーが高すぎるんだよ。
ああいうのは、無心になってやるのがコツだw
91 名前 名無しの迷宮人
槍の派遣社員は、2枚出しているから説得力あるな。
92 名前 大剣術士
何気にまわした短槍術士と弓術士さんが1枚ずつ。
係長が1枚に、槍の派遣社員が2枚か?
なんだか、槍の派遣社員のいう事が正しく思えてきた。
93 名前 名無しの迷宮人
できればでいいんだけど、ガチャの景品に限りがあるのなら、すでに蘇生魔法を入手しているPTは遠慮してほしいんだが駄目か?
94 名前 大剣術士
>>93
俺もそれは考えていたんだけど、言いづらかった……
係長は、どう思う?
95 名前 R
俺は良いと思いますよ。
96 名前 杖術士
俺は回すからな?
まだ、入手できていないし。
97 名前 剣術士
杖術士はもう十分回しただろ!
今度は、ハンマー術士さんに回してもらう!
98 名前 ハンマー術士
俺か? あまり気が進まんが。
99 名前 杖術士
待ってくれ! あと10回。それでいいから!
100 名前 棍術士
その話は、掲示板じゃなくて、俺達だけでしたらいいだろ。
それより、蘇生の魔法ってどのくらい出たら止めるんだよ?
1枚出たら、遠慮してくれって言うのは勘弁してほしいぞ。
101 名前 名無しの迷宮人
俺はそこまでは言う気はないよ。
それに掲示板に書き込まないだけで、もう14階に行って、ガチャ回している人もいるんじゃないか?
102 名前 R
そうかもしれませんね。
ルールを決めるとかではなく、自重を頼む形でいいんじゃないですか?
103 名前 名無しの迷宮人
>>102
賛成。
現状維持派の時のような口論は、もう嫌だ。
104 名前 467
ウハハハ。
杖術士よ。蘇生魔法を1枚ゲットしたぞ!
105 名前 杖術士
えっ!?
106 名前 大剣術士
ちょっと待て。
467も14階にきていたのか?
初耳だぞ?
107 名前 467
実はそうなのだ。
誰と組んでいるかは内緒だけどなw
能ある鷹は爪を隠すっていうだろ?
有能な社長様に隙はない!!
108 名前 長刀術士
>>107
へぇー…そうですかぁー
有能なんですねぇー
この間、調子にのって魔法を使い過ぎて倒れたのは、別人なんでしょうか?
109 名前 鎖鎌術士
>>107
お前の事を色々暴露してやろうか?
使っている武器がガラスのような玉で、玉術士って言う事とかさ?
110 名前 刀剣術士
>>107
驚かせたいから名前を付けないでくれって頼まれていたが、もう我慢ならんな。
ちょっとそっち行くわ。
111 名前 467
>>108-110
まて、早まるな!
俺のイメージが崩れるだろ!
112 名前 名無しの迷宮人
>>111
大体イメージ通りだから安心しろ。