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悪魔のセンサー

 そこは洋子の休憩所であった。

 新たに出現した木製扉の先に、1人のNPCがいる。

 大剣術士が書き込んだように、黒いチョビ髭を生やした男で、名をトリスというらしい。


 カウンター越しにいるトリスに対し、須藤が指さし言った。


「笑顔が気持ち悪くないっすか? すげぇ作り物って感じっす」


 そのトリスというNPCは、青い法被(はっぴ)を着た背丈の高い男で、非常に整った顔立ちをしている。チョビ髭のおかげで人間味を感じることはできるが、それを抜きにした場合、須藤が言うように作られた顔のような印象。

 着ている衣服や、常に手を合わせている姿。

 そして絶やすことのないスマイルといった部分だけならば、クジ引きイベントを行っている商店街の店員を連想させてしまうものだ。


「スマイルは無料でございます!」

「別にいらねぇ」

「買い取りサービスはいかがでしょうか!」

「でも、10倍の値段で売りに出すんでしょ?」

「当店自慢のガチャを、お楽しみくださいませ!」

「「……」」


 会話というものが出来ないのだろうか?

 そう思える話の流れに、2人が苛立ちを覚えた表情を見せるが、仕方がない事だと思える。


 設定されている質問や、仕事に関する事に対しては反応するようで、大剣術士はそこから調べたようだ。


 そんな2人から離れていた良治が、ガチャ台を睨んでいた。

 白いプラスチックカバーで作られたガチャ台は、中身が見えない。

 出てくるのは緑や金色の丸いカプセルで、こちらは半透明のようだ。


 台の高さは1mといった所だろうか。

 そのガチャ台の手前に1枚だけ金貨を差し込めるような場所あり、金属製の取ってを回せば、ガチャっという音が鳴りカプセルが出てくる。

 金貨は、1万と10万コインがあるようで、トリスの方で交換するようだ。


 中に入っているカプセルは、台から出て来てもそのままの大きさ。

 カプセルを開くと消失し、景品が実物大で出現するという仕組み。

 魔法やスキルを覚えられる羊皮紙は、本来手にした瞬間覚えるものであるが、このガチャ台で出現したものは違うようで、覚えるという意思を持たなければ大丈夫であった。


(懐かしいけど、これ以上回すのはな……)


 宝箱を売った分だけではなく、鋼鉄の武器までを売って回してみた。

 自分が回している最中、後ろから訴えるような視線に耐えきれず、洋子にも回させてみたが、これ以上回すのはどうかと悩み中。


 出た魔石や治癒石の類は、公平に分配済み。

 羊皮紙に関しては鑑定し、須藤や香織が未取得であったものは覚えてもらい、他の物は売却だ。

 1つだけ金色のカプセルが出て来て、その中身が蘇生魔法であった。

 これについては、洋子に覚えてもらったが……


(蘇生魔法も人数分欲しい。だが、これってなんだか怖いな……)


 ガチャの怖さ。

 それが感覚的に分かってきた。

 洋子に1つ覚えてもらったが、せめてあと1個……いや、どうせなら人数分欲しい。

 しかし、その人数分を集める為にどれほど回せばいいのか?

 4階で入手した宝箱を売れば、まだ回せるし、それで人数分がそろう可能性はある。


(売り払ってもいいとは思うが、泥沼に落ちていきそうで怖いな)


 最初は1万だった。

 それが翌日には3万を使っていた。

 そんな書き込みがあったのを思い出す。

 今の自分は、それに近い心情ではないだろうか?


 これを売って、もし駄目であれば次は現金を少しだけ……

 ……

 ……

 ハッ!?


 腕を組んで悩んでいた良治が、唐突に頭を左右に振った。


「なるほど! これがガチャの怖さか!」

「「「???」」」


 突然出た声に、彼が何を悩んでいたのか、分からなくなった3人である。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ガチャ部屋を出て、一度掲示板に目を通した。


(4階の宝箱を手元に残しておきたいという気持ちは……無くはない)


 手元に残しておきたいという気持ちは確かにある。

 あるにはあるが、蘇生魔法を入手出来るのであれば、そこまで(こだわ)る気もなかった。

 7階や13階で得た計3つの宝箱があれば、何とか4人ほど隠れられる気がするので、悩む理由は歯止めが利かなくなりそうという点の方が強い。


「不安なら、私が回してみましょうか?」

「香織さんが?」

「俺もしてみたいっすね」

「須藤君もか」

「あんまり回すことないんで、たまにはやってみたいっすよ」

「うーん……」


 その方が良いだろうか?

 須藤と香織の話を聞き、そう思えた。

 訴えているような洋子の視線は無視。

 これ以上やらせたら、一切躊躇なく危険な領域に踏み込んで行きそうに思えたからだろう。

 惚れた弱みがあろうとも、そこは譲ってはいけないと心を鬼にした。


「とりあえず、4階ボスで拾った宝箱は売ったら?」

「そうっすね。修正が有るかどうか知らないっすけど、早めに売った方が良いと思うっすよ」

「そう…だな。分かった」


 決めた通り売り払うと、20万ギニーを入手。

 手放す時に、宝箱が『利用するだけ利用して、最後はこれか……』などと言っているように見えた。


 入手できたギニーは、須藤と香織に10万ずつに分けて渡した。


「香織さんは、しばらく洋子さんと一緒にいてくれ」

「分かってるわ」

「係長!?」


 何も言っていないはずであるが、洋子は監視対象になった。

 大人しくしていたつもりであろうが、彼女が何を考えているのか、3人には手に取るように分かったからだろう。


 良治は部屋を出て、残された昼休みを寝て過ごした。

 香織はガチャ部屋で10連ガチャを1度だけ行った。

 連続で出てきたカプセルが床へと転がり落ちる。

 それを、洋子と香織が開け始めたが……


「……ないわね」

「ないですね」


 ポンポンと彼女達の手に出てくる羊皮紙の中に、蘇生魔法が見当たらない。

 カプセルの色が緑だった時点で無いのは分かっていたが、万が一という事もなかった。


 魔石や治癒石等は残し、不用な羊皮紙は全て売却。

 1枚6千というのは足下を見過ぎではないだろうか。


「毎度ありがとうございます!」

「その微笑みが、憎らしいわ」


 女2人は、トリスのチョビ髭を引っ張りたくなったという。





 一方、須藤の方と言えば、自分の休憩所で1枚だけ蘇生魔法を出した。

 これで2枚目。

 計40回以上ガチャをして蘇生魔法が2つでたという事になる。


 取得した蘇生魔法については、香織が覚える事になった。

 メンバーの中で死亡回数が一番低いのが彼女だったらしく、それが理由となるのだが彼女の脳裏に浮かんだイメージは違った様子。


 復活するイメージと、復活しないイメージの2パターン。

 そして復活したとしても、顔色が悪いというイメージだったらしく、この事から失敗の可能性がある事や、完全蘇生という事では無いだろうという予測が立てられた。


 出現した羊皮紙の中にあった魔法やスキルについて言えば、やはり9階までのよう。属性付与やジャンプ等。それに、武具の類も一切なく、洋子は両肩を落としてしまう。

 こうした情報は、掲示板や彼女のブログで流される事になるだろう。


「早めに宝箱を見つけた方が良いな」

「それがいいわね」

「今度は私にやらせてください!」

「……たぶん、洋子さんは駄目っすよ」

「どうして!」


 駄目出しをされ洋子が声をあげると、須藤が目を細め言った。


「物欲センサーが、目に見えてる感じっすから」

「……」


 須藤が言った物欲センサーとは、ゲームにおける一つの都市伝説のようなもの。

 そのセンサーを発動させてしまったプレイヤーは、目当てのものを入手できる確率が、激減するという噂がある。


 もしかすると、洋子が側にいるというだけで、蘇生魔法が出る確率が減るのかもしれない。須藤は、そう考えたようだ。

 だとすれば、良治は物欲センサーに耐性があるのだろうか?


 事実かどうかは、誰も分からない……。


補足説明


個人ごとの武器変更による説明となります。

もし良治が洋子が使っていたスティックを使い魔法を扱ったとしても、操作や複数同時使用等はできません。

逆に洋子が良治の剣を持ったとしても、魔法は従来通り扱えますが、ブースト性能的な面はありません。


次に重量的な問題についてですが、洋子が剣を持ったとしても重すぎて扱えなくなります。

ただし、同じように近接職である香織や須藤は、普通に持つ事は出来ます。



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◆現在この作品の書籍版が発売中となっています
web版とは【異なる部分】が幾つかあるので、是非手に取って読んでみて欲しいです。
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