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舞台裏

出すかどうか迷った説明会のようなものです。

次話で2章は終了となります。

 彼等は、最後まで食いついていた現状維持派である。

 そして、良治がよく見るニュース番組の社員でもあった。


 黒髪をオールバックにしている男は斧を両手でもち、


「何で駄目だった……クソ!」


 不満を漏らしながら、壁に挟まれた峡谷の中を歩いていた。


 一緒にいたのは茶髪を左右に分けている男。

 前を歩く男の声に苛立っているのか、不機嫌そうに口を閉じている。

 こちらの男は、杖を担ぎながら、両手で地図を記載している様子。


「おい。こっちはさっき通ったぞ」

「そう言う事は、早く言えよ!」

「ついさっきの話だろうが!」


 9階へと強制移動してきたばかりだというのに、大声を出しながら進んでいる理由は、彼等の計画が失敗に終わったが為の苛立ちからだろう。


 少し前まで、彼等は迷宮での日給以外に特別手当も手に入れていた。

 その手当ては、迷宮で得られる情報に対する報酬。

 金銭的な潤いが増し、局の中でも注目を浴びる事になったが、それもほんの少し前までの話。


 他のグループで発生していた意見対立。

 それがこのグループでは起きていない。

 勿論、このグループのように発生していない所もあるにはあるのだが、そうしたグループと言うのは大概、歩みが遅かった。


 トップを走る先行派がいるグループなのに、何故意見対立がおきないのか? 

 実は起きているのに、この2人が確認できていないのではないか?

 噂の係長がいるグループにいるのに、何故、今話題となっているネタを拾ってこない?

 せっかくのチャンスを手にしていながら、それを拾えていない無能か?


 そんな評価が広がり始めると、以前と逆の目付きで見られるようになってしまった。


 2人は焦った。

 一度受けた評価が気持ちよかったせいもあるだろう。

 そこから落とされていく気持ちが2人を焦りださせ、一つの作戦を実行にうつした。


「なぁ。お前のせいで、失敗したんじゃねぇのか?」


 後ろからついてきて黒いメモ帳に地図を記入していた男が言うと、前を歩いていた男が足を止めた。


「何言ってんだ?」

「だって、そうじゃねぇか。ちゃんとストライキの話にまでもっていけば、良かったんだ。そうしたら足止めが出来たと思うぜ」

「それは何度も話したよな? 覚えていないのか?」

「覚えているさ。先行派の誰かを抱き込んでからの方がいいってやつだろ?」

「そうだよ」

「それって必要だったか? 目的は、係長達への直接取材なんだから、いらなかったんじゃねぇの?」


 杖を手にしたまま耳元をポリポリとかきながら言うと、斧を手にしていた男は、深い溜息を一つ。


「……お前、本当に頭悪いな」

「あぁ? お前、なんつった?」

「頭が悪いっていったんだよ。耳も悪いのか、お前は!」


 ドンと地面に斧先を向け置くと、彼は大声を出して叫んだ。

 さらに、


「俺達の実力で、係長達に追い付くのにどれだけ時間がかかると思うんだ? 中途半端なやり方で、どれだけ足止めが出来るか良く考えろよ! 仲間割れさせないと追いつけるわけが無いだろ!」

「元々、追い付いてもメンバーチェンジできる可能性は低いじゃねぇか! お前こそよく考えやがれボケが!」

「お前だって、良いアイディアだって言っただろ! それも忘れたのか!」

「うっせぇ!」

「お前が、うるさい!」


 9階で足を止め、感情任せで怒鳴り合う2人。

 その結果、何がおきるのか?

 それは、彼等も知っているはずなのだが、感情が高ぶった彼等は忘れている様子。


 ここはヘルハウンドやグリフォンが出る9階。

 であれば……


『GARUUUUUUUUUU!!!!』


「うぉ、でやがった!!」

「おい! 魔法で援護しろ!」

「わ、分かってる! ……えっと……なんだっけ?」

「うゎああ―――――!!」

「ちょッ、待て! しっかり守れよ!」

「いいから、早くしろォオ――――!!!」


 この2人が出くわしたヘルハウンドと、上空で飛行しているグリフォンによってどのような目にあったのか?

 7階のボス相手には何とか勝つことが出来た2人であったとしても、良治達ですら鍛錬を積むことを考えさせた相手。

 慌てたせいなのか、どういう手順で戦闘をするべきなのか、頭から抜け落ちてしまい、あっさりと餌食となってしまう事になった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 この2人の目的は、良治や洋子への直接取材にあった。

 掲示板での書き込みから、良治達は、お人良しの部類だと考えた2人は、意見対立を意図的に起こすことで足止めが出来ると考えた。


 自分達の立場回復を考え、行動した結果が今回の騒動原因と言う事になる。


 この2人によって扇動されたプレイヤーもいるにはいたが、それはほんの僅か。

 他のグループのように意見対立が自然発生しなかったのは、それだけ精神的に安定していたからなわけで、大概は冷静に考えている。

 扇動されたプレイヤー達の多くが望んだのも、現状維持というより攻略速度を緩めて欲しいという程度。勿論、現状維持を実行した場合、管理者がどういう反応を示すのか知りたい者もいたようだが、それが実行可能かどうかについては怪しんでいた。


 では、他のグループで、何故意見対立が発生し、現状維持を口にし始めたのかと言えばこうなる。


 須藤が初期に荒れていたのを覚えているだろうか?

 彼だけではない。

 香織が3階へと進んだ時、トイレ設置のために早く進めと言っていた名無しの迷宮人達が、実際に進むと今度は強制移動があり前言を棚に上げ騒ぎもしたはずだ。

 そういったプレイヤー達がそのままの精神状態で、今日までいたら、どうなっていただろうか?


 掲示板はさらに荒れ、まともな会話ができないまま強制プレイさせられるプレイヤー達の心情。

 そうした状況こそが、意見対立へとつながっている。


 時給の問題やら、現状維持をする事への要望。

 そうした事を口にしたのは、迷宮環境でのストレスをぶつける何かを必要とした為。


 現状を変えたい。

 という意味で言えば、建設的な発言であったのかもしれないが、実際の所、それは先行派への八つ当たりに近かったのだろう。


 こうした事情があったことも知らないまま、このグループで起きた掲示板での騒動は、終止符を打つこととなったが、騒動というものは、終わると次というものが始まる事が多分にある。

 1つの問題案件が終わり、ホッと安堵した翌日に、次なる問題が出てきたという経験をしたことはないだろうか?


 その次なる問題となるものが、短槍術士によって報告される事になるが、良治と洋子が知ったのは、翌日となった。


 2人が遅れて知った理由は、洋子の危機を知った途端、良治が走り寄った事に関係している……。

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web版とは【異なる部分】が幾つかあるので、是非手に取って読んでみて欲しいです。
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