戦闘結果
翌日の朝、13階に続く階段を上り始めた。
須藤と香織には、パワー+土鎧を。
良治と洋子は、パワー+闇鎧を使用。
闇鎧は、使用時や魔法を受けた際、体にそった線が表示される仕組みで、土鎧のように段階を踏んで消費されるものではない。
洋子が各自に防御魔法をかけている間、前衛の2人が火+の魔法を使い、武器に火属性を与えた。
「終わりました」
「打ち込むタイミングは、石化光線が始まってからでいいんだな?」
「はい。融合魔法の一撃で、止めをさすつもりでやった方が良いと思いますから」
「あれで削り切れなかったら、終わりかもしれないっすもんね……」
融合魔法で使わるのは火球の魔法。
まずは洋子が良治の前に自身の魔法を置くところから始まる。
これを打ち抜く形で、良治が魔法を放つわけで、タイミングや狙いは良治任せということになる。
狙いは目玉ではなく胴体。
理由は一度放たれた融合魔法は操作不可能なので、目玉を狙うと最悪外れかねないから。
放ったら最後、神に祈るしかないのだが、ここの自称神様ではなく別の神様に祈った方が良いとは思うが。
(緊張してきた)
本番を前にし、喉が乾いてくる。
すぐにペットボトルをポーチから取り出し、購入していた緑茶を口に含む。
「係長いいっすか?」
「あぁ。2人とも気を付けてくれよ」
「分かってるわ。前半は私と須藤君で削るから、その後は頼むわよ」
「はい!」
それぞれが己の役目を認識しあうと、全員の体から熱がこみ上げてきた。
2度目の戦い。
最初と違い、攻略方法を考えて挑む戦いだ。
これで失敗すれば、何をしても無駄なのでは? というのが、多少なりとも出てくる。
それが積み重なっていくと、他者への責任転換じみたものが出てくる事もある。
そんな経験がある洋子が嫌な事を思い出しかけたが、すぐに頭を振ってかき消した。
(この人達なら大丈夫!)
一歩ずつ全員が歩みだす。
顔つきがいつもと異なっていく。
それぞれが緊張を感じているのが良く分かった。
洋子だけではなく、誰もが失敗はできないという気持ちだろう。
まず須藤と香織が13階に到着。
少し遅れ良治と洋子も足を踏み入れると、後ろにあった階段が消え、サイクロプスの巨大な目が彼等を睨みつけた。
「いくわよ!」
「おっしゃ!」
香織の合図で、前衛となる2人が飛び出した。
槍とヌンチャクを手にし10m超えの巨人を相手にするのは無謀とも言えるが、2人の一撃はすでに人間の域を超えるもの。
2人がサイクロプスの左右に分かれ、交互に攻撃を開始すると、即座に怪物が反撃にでた。
『GAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』
吠えた声から苛立ちが感じられる。
周囲を飛び跳ねながら動く2人を蹴散らそうとする。
1度だけ、須藤が危険な目にあった。
途中で洋子に言った目の事が気になり、顔へと近づきすぎた為だろう。
香織に攻撃が向けられていたはずであったが、その須藤に対し腕が振り払われると、躱しきれず地上へと墜落。土鎧の効果によって無事であったが、次の一撃を受ければ間違いなく大打撃を受けるだろう。
追撃が来る前に起き上がり、ジャンプスキルを駆使し再度攻撃を開始。
前衛の2人が、ダメージを与え続けサイクロプスの背後に回りはじめていく。
そろそろといったタイミングで、
『UGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!』
怪物が吠え、同時に香織が須藤の名を叫んだ。
「わかってるっす!」
須藤の声と同時に2人が、サイクロプスから離れる。
距離をおいてから、須藤と香織のアイテムポーチから宝箱が取りだされた。
ドンドンと置かれた2つの宝箱の裏に香織と須藤が隠れる。
その時、サイクロプスが石化光線を放った。
効果は……
「無事……っすね」
「……使えるわ」
予想はしていたが、事実として目の当たりにするとやはり違うのだろう。
2人そろって嬉しそうであるが、闇鎧を使う事を忘れていた事に気付いていないようだ。
そんな2人に向かって再度石化光線が放たれるが、これまた無効化。
そうした一方で、良治の前方に巨大な火球が作られていた。
離れているにもかかわらず、ジリジリとした熱を感じる。
それは、洋子が作り出したパワー+火球で、見慣れたもの。
良治は、息をひとつ呑み、自分達に全く注意を向けていないサイクロプスの胴体を睨みつけた。
「いくぞ」
「お願いします」
洋子の返事を耳にし、両手を前に付きだす。
そして唱えるは勿論……
「火球!!」
出現した良治の火球も通常のものではない。
野球ボール大だったはずの彼の火球が、発生した瞬間サッカーボールのような大きさまで膨らんでいた。
「いっけぇ―――――!!!」
洋子が発生させた、巨大な火球へと向かい放つ。
浮遊していた洋子の火球と混ざり、より巨大な火球となって、サイクロプスの胴体目掛けて一直線に……が、このとき怪物がヘイト値を無視した行動にでた。
『UGAAAAAAAAAAAAAAA!!!!』
とった行動は、岩石による防御ではなく、迫りつつある火球に対しての石化光線である。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
燃える。
サイクロプスの体が炎のドームの中で燃えている。
怪物が放った石化光線は火球を石化させることが出来ず、直撃する事になった。
しかし、放たれた石化光線は火球に向かい放たれたわけで、その先にいた良治と洋子に命中する事になった。
闇鎧の効果はあったようで、洋子は無事だが良治が石化してしまう。
この事から、両者の基本的な魔法耐性力が違うという事が推測されるが、それは後の話。
洋子が強張った顔つきで治癒魔法を使うと、良治の姿が元に戻った。
放たれた融合魔法は、未だサイクロプスの姿を覆い隠し燃やしている。
その間、4人が集まり始めた。
しばしの間結果待ちをしていると……
「うわぁ……アレを耐えるかよ」
「でも、もう戦えないんじゃない?」
「だとは思うが……」
「止めは、刺した方が良いです」
炎のドームが消えサイクロプスの姿が現れた。
夕焼け色だった肌は、変色し戦意を喪失しているかのよう。
両膝と両手を地面につけ頭を下げている様子は、土下座をしているようにも見える。
ほっといても死ぬんじゃないか? そうとも言える姿だろう。
誰が止めをさす?
そう尋ねるかのように4人がそれぞれの顔を見た。
もうパワーを使ってからのスキルや魔法で始末できそうだ。
誰がやっても良かっただろうが、視線が良治へと集まったので、剣を手にし怪物へと近づいていく。
何をされてもいいようにと近づき、射程範囲に入ったところでパワーを使いだす。
サイクロプスは、処断されるのを待っているかのように微動だにしない。
後ろで見守る面々は、息を飲み強敵の最後を見届けようとしている。
パワーによって力が溜まるまで、サイクロプスは動かなかった。
良治が準備を整えて、剣を振るう。
―――その時。
『GYAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』
最後の力でも振り絞るかのように顔をあげ天を見上げると、空中に無数の岩石が出現した。
「なっ!?」
また何かあったのか!?
良治が、焦りを覚えつつもスラッシュを放つ。
大きな三日月の衝撃波が放たれ、天を見上げたサイクロプスの顔へと命中。
一つ目が真っ二つに引き裂かれると、血の噴水ともいえる光景を見せつけ地に伏した。
しかし、浮遊している岩石は怪物の最後の望みを叶えようと良治達へ向かって降り注ぎ出す。
「逃げろ!」
一気に落ちてきた無数の岩石は、天災にも近い光景を見せた。
1人突出していた良治だけではなく、後ろで固まっていた3人にも向かって岩石が降り注ぐ。
香織と須藤は、即座に回避行動にでる。
しかし、洋子は違った。
「なにやってるのよ私は……」と言う悔やむ言葉を漏らしている。
更なる攻撃パターンがある可能性は予想していたはずなのに、それを完全に忘れていた自分に対する言葉だったのだろう。
洋子が膠着して動こうとしない。
そんな彼女に気付き、香織と須藤が足を止めたが、すでに良治が走っていた。
がむしゃらだ。
自分で何をしているのかすら分かっていない様子。
間近に迫った岩石には目もくれず、ただ洋子の元へと走り向かう……
後数歩が届かず、暗い影が落ち……決着がついた。
2度目の戦闘結果、サイクロプス討伐は成った。
しかし、最後に発生した攻撃によって、良治と洋子が岩石の下敷きに。
立ったままで居られたのは、香織と須藤のみだ。
宝箱を上手く使えれば、あるいは全員無事であったかもしれない。
そもそも、洋子が呆然自失となっていなければ、回避もできただろう。
最後の攻撃発動から落下してくるまでの僅かな間に起きた出来事は、勝利者であるはずの2人を悩ませることになった。