攻略研究
良治の個別相談会が続く。
休憩するたびに行っていると、徐々に質問の頻度が減りだし、暇になってきた洋子達がサイクロプスとの戦闘について相談し始めた。
……掲示板を見続ける良治を除いてであるが。
「早い話が、光線をなんとか出来ればいいんすよね?」
フローリング床の上で胡坐をかいていた須藤が顔を上げ聞いた。
その視線の先にいるのは、洋子と香織。
この2人は良治が使っているベッドの上に並んで座っているのだが、主である良治は床下に座りこんでいる。その良治のすぐ側には、黒いローブから隠れ見えている、洋子の太ももがあるのだが、彼は気付かない様子。
「そうですけど、何かあります?」
「いや、何かって言うか……洋子さんなら分かるんじゃないっすか?」
聞かれた洋子は分からない様子。
須藤は、整っていない黒髪をボリボリとかきだした。
「分かんないっすか? あの目玉をぶっ潰せばいいんじゃないっすか? 洋子さんの魔法で狙えば一発っしょ?」
「……それですか」
今度は分かったようだが、返事に張りが無い。
「狙うのはいいんですけど、たぶん私の魔法じゃ駄目だと思うんですよ」
「へ? なんで、そう思うんすか?」
「私が1発目に放った風牙が、岩石で防がれたのを覚えていますか?」
「……あぁ。まぁ……でも、それだけっすか?」
「問題はヘイト値が無視されて防がれた事なんです。危険が迫れば防御するのか、それとも魔法に対して最優先で反応するタイプなのか……それは分かりませんが、私の魔法だと難しいかもしれません。連続で使えるタイプでも、優先的に反応されるのであれば当てられるどうかも……」
「……それなら、俺のジャンプ突きで!」
「それよりはスラッシュがいいんじゃ?」
須藤に向かって言うと、がっくりと両肩が落ちた。
そこまでジャンプ突きにこだわりたいのだろうか? と洋子が悩む。
元ネタが何であるのかは分かってはいるのだが、洋子はジャンプ突きには魅力を感じないようである。
「……何をやるにせよ、やる時は、誰かが注意を惹き付けておいた方がいいでしょうね」
「となると、私か鈴木さん?」
「ええ、まぁ……」
その一人である良治と言えば、スマホを見つめ指を動かしていた。
『現在、8階にいるが、闇鎧の魔法というのは魔法だけにしか効果がないのか?』
こういった質問が出ていて、どういう意味なのか、具体的な説明を求めている最中である。
洋子は、それを知らないまま話の続きを行った。
「……実は、一つ気になる事があるんですよね」
「まだあるんすか?」
「……これはゲームでよくあるんですけど、体力が減りだすと攻撃パターンを変えてくるボスがいます。そういったタイプのボスというのは、さらに体力が減ると、また攻撃パターンを変えてくるんですよね。その中には酷いのもいまして……」
とあるボスでは、HPが30%を切ったら、部下を複数出して、それを討伐しないかぎりダメージを与えられなくなる。
とあるボスでは、HPが20%を切ったら、戦闘できる場所が削られていき、制限時間が設けられる。時間が過ぎれば落下して全滅だ。
とあるボスでは、HPが10%を切った後に、全ての攻撃が即死攻撃に変わり、1人ずつ戦闘不能になっていく。蘇生魔法のクールタイムより攻撃の方が早いので、全員が倒される前に倒すしかないというパターン。
こうした攻撃パターンの変化によって、心を折られたプレイヤー達が多かったらしく、洋子はサイクロプスも同じようなものではないか? と考えている様子。
良治が大ダメージを与えた。
これによって体力が減ったサイクロプスが攻撃手段を変えた。
しかし、それはまだ1段階目の変化で、2段階目、3段階目とあるのではないか? という疑念だ。
「……ちょっと待って。そんなボスにどうやって勝てばいいの?」
「ゲームの場合だと対処方法が用意されていますが、中には変わった戦法で勝利できるボスもいましたね」
その変わった戦法というのを洋子が話し出した。
彼女が話したボスの一体に、HPが30%を切ったら部下が召喚されるというのがあるが、この部下との戦いがかなり厳しい。
ボスからの攻撃に加え、部下からの攻撃も加算されるわけで、受けるダメージが一気に増える。
ヒーラーの力量ばかりか、殲滅力も試されるボスと言う事になるだろう。
そこで考えられたのが洋子のいう変わった戦法。
このボスはHPが30%切った時に部下を召喚する。
つまり、その前であれば召喚しない。
ならば、その30%を一撃で減らしたらどうだろうか? という脳筋戦法だ。
「……なにそれ。そんな事が出来るの?」
「出来るというか出来てしまったというか……元々大ダメージを与えられる必殺技をもつ職があったんですけど、その必殺技を同時に放つと融合……」
話をしている最中、洋子の声が止まり、小さく首が傾げられた。
洋子が何かを考え始めた頃、良治への質問者が、具体的な説明を書きこんでいた。
その質問者は、9階に行こうと思っているのだが、ヘルハウンドのブレス攻撃に対しても、闇鎧が有効なのかどうかを知りたいらしい。
(……どうだろ?)
言われてみれば、試したという話を聞いた事がない。
洋子の話では、魔法耐性が上昇するという話だった覚えがあるが、火球に対しても有効なのだし、同じ火に対しても有効なのでは?
いや、しかし、分からない事を自分の推測だけで返答するのは駄目だ。
ここは洋子に聞いてみよう…と、振り向いて見ると、何故か良治を見ていた。
2人の視線がバッチリ合う。
突然見つめあう2人であったが、ちょっとおかしい。
洋子は、金魚のように口をパクパク動かしている。
そんな洋子に質問しづらいのか、それとも目の前にある太ももが気になるのか、良治は困ったように目を細めた。
なんだ。急にどうした! と、外野に置かれた2人は戸惑いだす。
いきなり空気が変わったかのような部屋の中で、香織と須藤が、2人から距離を置きだした。
洋子は、ごくりと喉を鳴らしたあと、口を開く。
良治は、質問した人を待たせるのも悪いと口を開いた。
「融合魔法!」
「闇鎧ってさ……」
まったく関係ない言葉が2人の口から出て来て、香織と須藤はもだえ苦しむ姿を見せてしまった。