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予想されたボス

 日曜に、また洋子と温水プールに行くのだが、前日に言われた事が頭から離れていない様子であった。

 会社で言われた通り、自分がいるグループで同様の話が出てきたら、どう判断し動くべきかと悩んでいる。


 その良治を、プールから上がって遠目に見ていた洋子は不満げだ。


(また一人で……どうして自分から相談してきてくれないかな?)


 そう思う彼女の気持ちを知らず、良治はプールの壁に背をつけ天井を見上げるばかり。

 我慢しきれなくなった洋子が近づき始めると、突然がむしゃらに泳ぎだした。

 判断がつかない為、頭から一度追い出そうとしているのが分かり、洋子は近づくのを止めてしまう。


 体力を使い切るかのように泳いだ良治によって、多めに作ってきたサンドイッチが綺麗に無くなったのは良いのかもしれないが悩みが完全に晴れたわけでもなかった……



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 また迷宮で過ごす日々が始まる。

 最初の月曜日に、ジャンプスキルについて自信が出てきて、トロルやミノタウロスの頭上から攻撃を仕掛ける事も行いだす。

 須藤なぞ、途中で回復魔法まで使い、さらに高く上がってから「ジャンプつきぃいい!!!」と、喜々とした声をあげ、トロルの頭に槍を突き刺した事もあった。


 夕方ごろになり、それぞれが考え始めた。

 それは、13階へのチャレンジ。

 未だ1度にかかる戦闘時間には不満があるが、そろそろ自信がついてきた彼等は、次の階に挑戦したいという気持ちが湧き始めている

 しかし13階は……


「予想ではボスらしいよな」

「あくまで予想ですけどね」

「でも12階での施設追加も予想が的中してたっすよね」

「私達には関係なかった施設だったわね」

「俺と香織さんにとっては将来的に関係あるかもしれないっすよ!」

「無いわね」

「即答っすか!」


 香織の言葉に切られたかのように、須藤が胸を抑え込む仕草まで見せる。

 彼のそうした大げさな芝居は今更だった。


「それで、13階の方どうする気?」


 須藤を無視し香織が話しを進めると、逆に良治が「皆はどうしたい」と尋ねた。


「私はチャレンジしてみてもいいと思います」

「同じく。残り時間的にも良いと思うっすよ」

「ええ。問題ないわ」


 3人の意思を確認すると良治が喜々とした笑みを作り頷いた。

 その笑みを見た全員が「あぁー…」といった感想を持ってしまう。

 良治が一番チャレンジしたがっている事に気付いたからだろう。


「よし! いってみるか!」


 拳を作り力強くいう良治の姿からは、迷宮内を怯え進んでいた頃のをイメージするのが難しいものがある。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



『ぴんぽんぱーん。業務連絡の時間だよー。最近じゃ、ほとんど言う事がなくなってきたけど、階到達者が出た時ぐらいは仕事しないとね! という事で13階へと上がりかけているPTについての報告だ! ご存じ係長PTなので分かっている人も多いとは思う』


 管理者と言われ始めている少年の声が聞こえてくると、迷宮にいた人々の動きが止まった。13階はボスがいるという予想がされていることを知っている人々だろう。


 その当事者達は、すでに13階手前まで近づいていた。

 頭上にある13階の到達口を見れば12階と等しく青空が広がっていて、乾いた大地の匂いが鼻から入ってくる。


 どうやらステージは一緒のようだ。

 ボス戦ではなく、雑魚戦闘なのかもしれないが……


「洋子さん頼む」

「分かりました」


 13階に上がりきる前に、パワー+土鎧を全員にかけ始め、他の3人は『火+』を使用していた。

 彼等が準備を始めている間も、管理者の声が続く。


『これで彼等の時給は1100円となるけど……まぁ、負けたら元通りって事になるね』


 ピク。

 声を耳にした瞬間、4人が動作を止めた。

 良治が後ろを振り返ると、仲間の3人が息を飲んだ。


『もう分かっているようだから言っちゃうけど、13階はボスだ。そして、これまた予想通り、今までとは訳が違うと思っていい』


「言われてしまった……」

「教えてきたのは初めてですね」

「ちょっと萎えるっすわぁー」

「わざわざ知らせるって事はかなり強いんでしょ。気を引き締めましょ」


 最後に香織がいうと、全員が頷き合い姿勢を正した。

 準備が終わり、よし! と階段を一歩。

 その時、


『じゃあ、頑張ってね! 僕も応援しているよ!』


 という声が聞こえてきて、全員が苛立った。


(誰のせいだと思ってるんだ!)

(あなたの応援だけはいらない!)

(うぜぇえええ!!!)

(邪魔。死んで)


 ――なにはともあれ、気合だけは十分なようである。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 サイクロプス。

 その姿を見た瞬間、洋子はその名を呟いた。

 トロルやミノタウロスと比べ2倍強の背丈。

 肌は日が落ちきる前の夕焼け色をし、頭にまっすぐ伸びた角が一本。

 体を巨大な毛皮で半分ほど隠した、一つ目の巨人といった姿であった。


 見た瞬間、良治が唾を飲み込んだ。

 須藤は槍を両手でもったまま身を低くする。

 香織はヌンチャクを手にしたまま自然体だ。

 洋子と言えば皆より一歩下がり、即座にパワースキルを発動させた。


 どう攻めるか?

 悩み始めたころ、サイクロプスに変化が見られた。


「散らばれ!」


 号令と同時に、4人共がその場から走り出した。

 理由は巨人の両手に、岩石が突如出現したからだろう。


『GUAAAAAAAAAAAA!!!!!』


 咆哮と共に、須藤と香織が走った方向へ岩が投げつけられる。

 僅かな曲線を描き飛んできた岩が、走り抜けた場所へと落ち激しい振動を発生させた。

 しかし、香織と須藤は宙へと飛び跳ねており振動の影響を受けずに問題なく地上に着地。

 その間に、良治がサイクロプスへと迫り、足元を切りつけ走り抜ける事に成功。

 初撃ダメージを与えられたのは良治の一撃であった。


『GU!?』


 手ごたえらしいものを感じた良治は、Uターンをし再度駆け寄ろうとするが、すでに須藤達の攻撃が始まっていた。


「おらぁ!!!」

「スラッシュ!」


 良治同様、2人がサイクロプスの下半身に攻撃を集中。

 須藤が槍の攻撃で肉を削り、香織がさっそくスラッシュを使った。

 支える足を崩し、その後上半身へ攻撃を開始する。それが彼等の狙いなのだろう。


 そうした行動に出ている須藤と香織をサイクロプスの一つ目が睨みつけると、両手を握りしめ大地へ向け振り下ろした。


「下がって!」

「香織さんも!」


 互いに気付いていたようで、トロルの金属ハンマー攻撃にも似た一撃を躱した。

 彼等がいた場所に痛烈な打撃がはいると、地響きが発生。

 その時、離れた場所で、再度パワーを溜めていた洋子が、攻撃に参加し始めた。


風牙(ウィンドカッター)!」


 トロルの腹を一撃で切り裂いた真空刃がサイクロプスの胸に向かうが、再度出現した岩によって邪魔されてしまう。


 しかし、背後に回っていた良治もパワーを溜めていた。

 放たれたのは、火属性を得たパワー+スラッシュである。


『GU!?』


「よし!!」


 すでに確認されている事だが、火+状態でパワー+スラッシュを放つと、衝撃波が赤く染まる。

 その効果がサイクロプスの切られた右足で発現。

 膝の下周辺が見事に切断され、さらに炎が発生し舞い上がった。

 サイクロプスはバランスを崩し、大地に右腕をつき呻き声すら上げてしまう。


 この間に、須藤と香織が互いに視線を合わせ、顔を頷かせあった。


 そろってパワーを使い始めた時、


『UGAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』


 それまでとは違った咆哮が聞こえ、サイクロプスの一つ目が良治に向けられると、怪しく光った。


「!?」


 視線を向けられた良治が横っとびしようとしたが、一歩遅く光の中に姿を消してしまう。

 サイクロプスを挟んで反対側にいた香織や須藤からは、何がどうなったか見えないが、一つ目から光線のようなものが放たれたのだけは確認できた。


「係長!?」

「……やられた?」


 どうなった? 死んでしまったのか?

 パワーが溜まり終わるのを待ちつつ悩んでいる2人に、サイクロプスの目が向けられ、再度光線が放たれる。


「!?」


 標的となったのは須藤である。

 香織の近くにいた彼は、槍を手にしたまま石像とかした。


「須藤君!?」


 返事なぞない。

 目の前で石の塊とかした須藤を見て、香織が動揺してしまう。

 そこへ洋子の声が飛んできた。


「香織さん! 治癒を!」

「治癒?……あっ!」


 それなら解除できるのかと思った時には遅かった。

 3発目の光線が香織を襲い、須藤にかけよろうとした姿勢のまま石化してしまう。


 残るは、もう1人と姿を探すと、良治に向かって必死に走っている姿を発見。

 自分の横を素通りしようとした女を見て、サイクロプスは攻撃するのを一度躊躇ったが……



 ………洋子もまた石化してしまう。



 サイクロプスに挑んだ4人が石像とかすと、その場に残った怪物の姿がブレ始める。

 目に悪そうな白黒の線表示のまま、怪物が立ち上がった。

 色が戻ると、良治によって切断されたはずの足が復活。

 完全に元の状態に戻ったサイクロプスは自分に挑んだ者達の成れの果てを見てから、勝利者としての咆哮をあげた。

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web版とは【異なる部分】が幾つかあるので、是非手に取って読んでみて欲しいです。
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