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イメージチェンジ

 翌日の火曜日。


「……何があったんだ?」

「何もありませんよ」

「いや、係長。そこは言う事が違うんじゃないっすか?」

「……須藤君のいう通りだと思うわ」

「俺が悪いのか?」

「2人共、そういう事じゃないですからね!」


 開始早々、このような会話がされたわけだが、理由は洋子の姿にある。

 ネクタイのない薄手の青いワイシャツはいい。

 しかし、下に履いているのがデニムのホットパンツであった。

 黒いガウンのようなローブに覆われているので、とんでもなく似合わないという程では無いのだが、以前の作業服姿と異なりすぎて良治は困惑気味。


(今までと違い過ぎるだろ。本当に何があったんだ?)


 若作りだとか言うつもりはない。

 そこまで女に対して無神経では無かった。

 良治にしてみれば、現場仕事を優先していた部下が、ある日突然自分は女だとアピールしだした気分。

 驚きと戸惑いが入り混じり、結果出てしまった言葉が、洋子の心情を心配する言葉に過ぎなかった。


「本当に何でもないですから! それより12階に行きますよ!」


 戸惑う良治。

 ジレったい様子の須藤。

 深い溜息をついてしまう香織。


 そんな3人を連れて、何故か洋子が前を歩いて12階へと向かう事になった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ――12階にたどり着いて、およそ10分後。


「動きづらいぞ!! なんだこれ!」

「係長落ち着いて!」

「めんどくせぇなこいつ!」

「須藤君、無茶しない!」


 彼等が騒いでいる原因は、戦っている2体の巨大生物のせいだ。


『ガァアア――――――――!!!!』

『ウガァ――――――!!!』


「ガァーガァーうるせぇ!!!」

「か、係長!?」

「実際、煩いっすからね……」

「鼓膜がやぶれそうだわ」


 12階で遭遇した2体の巨大生物。

 どちらも11階であったゴーレム達と同サイズであるのだが、この2体は生物としての外見を持っていた。


 一体は、両手斧をもつ牛の顔をした生物。

 体は人と同じであり筋肉が異常に鍛えられていて、両手で持つ斧を振り回している。須藤が言うにはミノタウロスと言うらしいが、攻撃範囲が広すぎる。


 もう一体の方はといえば、とんでもなくバカでかい金属ハンマーを持ち、地面に何度もたたきつけていた。

 顔そのものはゴブリンと見間違いかねない外見だが、肌の色や腹のでっぱり具合が全く違う。

 その姿を見た洋子は、トロルと口にしたが、地獄絵図に登場する餓鬼を連想させる姿とも見えなくはない。――サイズだけは全く違うが。


 この2体が、とんでもない攻撃を繰り出してきている。

 横に振られる斧の攻撃範囲もさることながら、ハンマーを叩きつけた時に発せられる振動も非常に邪魔。


「須藤君下がれ! スラッシュを頼む!」

「了解っす!」


 良治の指示が飛び、須藤が下がる。

 攻撃対象が、香織と良治であったが為、彼に大きな一撃を任せたのだろう。

 そこには洋子もいて、パワーを使っている様子であった。

 並んだ須藤もパワーを発動させるのだが、その間も振動が体を揺らし、不快そうに顔を歪めた。


「行きます!」


 一足早く洋子の準備が整った。

 スティックを力強く握り、頭上高くに風の刃を作りだす。

 形状だけならば、以前良治が見たもの同じであるが、サイズが大きい。

 どちらのモンスターに対しても有効そうではある。

 洋子が叫ぶと前衛の2人が左右に別れ、洋子の風牙が放たれた。

 目標となったのはトロル。

 出っ張った腹を引き裂いてやるとばかりに、巨大な風の刃が一直線に向かう。


『ギャアア――――!!!!』

『ガァ!?』


 トロルの腹に鋭利な刃物で切り裂かれたような跡が出来る。

 そこから赤い血と、腹に詰まっていた色々なものがドバァっと出てきてトロルが両膝をつき倒れた。

 そして今度は、


「これで終わりだ牛野郎!」


 須藤が声をあげ、パワー+スラッシュを放つ。

 槍を縦に振るうと三日月の衝撃波が発生。

 地面を一直線に削りミノタウロスへと向かう。

 モンスターは自身が持っていた斧を使い防ごうとするが、その斧を切り裂きミノタウロスの前面に縦一直線の傷跡を付けた。


「駄目か?」


 ケルベロスやキマイラを引き裂いてきた必殺スキルであったが、離れすぎていたせいなのか、ミノタウロスには傷跡が付いただけのように見えた。

 不安を覚えた面々であったが、少し遅れ牛の顔と人の体から真っ赤な血のシャワーが周囲に飛び散りだす。


「ウッ!!」

「くっさ!」

「これは酷いです……」

「最悪……」


 駄目か? と思い近づいてしまったが為に、全員が血のシャワーを浴びてしまう。彼等は、たった1戦しただけで自分達の休憩所に入り、お湯のシャワーを浴びる事にした。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



雑談スレ Part51


542 名前 R

12階のモンスターについては今の所、こういった感じです。

他の情報はまだありませんね。


543 名前 槍の派遣社員

地面が揺れて、めんどくさかったぜ。


544 名前 Y

私は、係長が豹変して少し怖かったですよ。


545 名前 467

ガタッ


546 名前 杖術士

ゴトッ


547 名前 棍術士

kwsk!


548 名前 名無しの迷宮人

特ダネがあると聞いて。


549 名前 剣術士

お、お前ら……


550 名前 R

俺? 何かした?


551 名前 槍の派遣社員

したっていうか、係長の口調が一瞬変わったんすよ。

気付いていなかったんすか?


552 名前 大剣術士

>>551

そういうお前も時々違わないか?


553 名前 槍の派遣社員

係長達には、こんな感じだぞ。

お前ら相手には別だがな!


554 名前 杖術士

>>553

ハッキリした性格だな。

それより、係長の口調がどう違ったんだろ?


555 名前 R

俺も気になる……


556 名前 Y

係長。本当に気付いていないんですか?

いつもは楽しそうに戦っているのに、さっきは凄く興奮して怒鳴っていましたよ。


557 名前 R

楽しそう?

怒鳴ったのは少し覚えてる……悪かったよ。


558 名前 槍の派遣社員

時々、顔が笑っていたっすね。

でも、気持ちは分かるっすよ。

怒鳴り声は驚いたっすけど、係長も男だったんだなぁーって感じだったんで、気にしないでいいんじゃないっすか?


559 名前 大剣術士

それって、もしかして普段は大人しいやつが怒ると、って感じのやつ?


560 名前 杖術士

係長が我を忘れるほどに興奮した結果、Yさんが女らしく怯えたって事かな?

なんだかエロい。


561 名前 Y

>>560

今度から560になりますか?


562 名前 467

>>560

お前と棍術士からは、同じ匂いを感じていたんだ。こっち側にこい。


563 名前 棍術士

>>562

一緒にすんな!w


564 名前 杖術士

>>561

申し訳ない!


565 名前 大剣術士

Yさん。

係長が楽しそうにしているとかって言うのは、俺も分かる気がしますよ。


566 名前 弓術士

そうですね。

大剣術士さんも、時折楽しそうに微笑む時がありますし。


567 名前 短剣術士

それ短槍術士さんもですね。


568 名前 大剣術士

いや、あれは……その……

ごめん。


569 名前 短槍術士

係長の気持ちも、分からなくはないんだよなぁ……


570 名前 Y

2人とも?


571 名前 杖術士

2人というか、それなりにいると思うな。


572 名前 棍術士

最初は肉の感触とか、血の匂いがして嫌だったけど、段々と慣れてきたしな。


573 名前 剣術士

今の状況がいいとは思っていないが、怯えてばかりも駄目だと思う。

早く終わらせたいし、その為には慣れないといけないし、慣れてきたら今度は血が騒ぎだしたって言うか……なんて言えば分かるかな?


574 名前 大剣術士

これは分かる人にしか分からないと思う。

言葉で伝えようにも難しいだろう。


575 名前 名無しの迷宮人

私も分かる気がするけど、Yさんは、そういうのがなさそうね。


576 名前 槍の派遣社員

そういえば……

Yさん。アレって、どうしたんすか? 何で急に?

いや、俺的には良いとおもうんすけど、なんつうか、こう……


577 名前 棍術士

アレ?


578 名前 467

何か匂いがする。

ちょっと俺好みの匂いがした。

>>576

何があった? 全部吐け!


579 名前 短剣術士

Yさんどうしたんですか?


580 名前 弓術士

何かお困りなら相談ぐらいならのりますよ?


581 名前 名無しの迷宮人

こういう時って女だけのスレが本当に欲しい。


582 名前 棍術士

いや、そこは男も混ぜろよ



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



(……そんなに笑っているか?)


 掲示板では洋子の事について尋ねられているが、良治は自分の事が気になっていた。

 自覚しているのは、掲示板での情報交換が楽しくなってきている事。

 できるだけ早く情報報告し、それに対する反応を見てみたいとは思っている。


(友達とゲームをしていた時と似ているんだよな)


 小さな頃に友人宅でやっていた時を思い出す。

 テレビ画面を全員で見つめ、どう攻略したら良いのかと話しあった事。

 それが原因で喧嘩もして、友人の母親に怒られた事もあるが、楽しかった事には間違いがない。

 状況はまったく違うが、その時と似たような気持ちはあった。

 だが、それは、掲示板に関係した事のみと思っていたが……


(戦闘も楽しんでいた?)


 指摘されるまで全く気付かなかった。

 怒鳴り声については記憶があるが、そこについては全く知ることがなかった。


(感情のタガが外れているのか? ……少し気を付けよう)


 自身の中で、そう判断したあと再度スマホに目を向ける。

 すると、槍の派遣社員が色々と追い詰められていて……黙って掲示板を閉じた。


 口は災いの元とは良く言ったものだなー…と思い、休憩時間が終わるまでのんびり過ごすことにした。

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