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洋子のブログ

 自宅に帰った良治は、ピンクのスマホを手にし悩んでいた。


「香織さんとの間に何かあったのか?」


 電話して聞いてみたい。

 だが、もし女同士の問題であれば、聞くことで不機嫌にさせてしまいかねない。

 かといって、あの調子で12階にいったら……


「いつもの洋子さんなら、明日になれば元通りって気もするんだが……」


 仕事をする時の洋子であれば、現場の人間と口論したとしても負けないだろう。

 気落ちした顔を見せたとしても、次の日には元通りになっている。

 この子は大丈夫だ。建設業界で長くやっていける。

 良治は洋子の事を、そうした人間として判断していた――が。


「……うーん。不安だ」


 温水プールでの事もそうであるが、今の状況になってからというもの、自分が知る洋子とは違う側面が見えてきた。

 それはプライベートの洋子としての顔だろうという事は分かるのだが、そうした側面を見せられると、自分が知っていたはずの洋子像というものが崩れてきて『大丈夫だ。問題ない』などとは思えない。


 散々迷った挙句、スマホに手を伸ばした。


 トゥルルー…ガチャ。


『はい、もしもし』

「……俺だけど」

『俺さんですか?』


 その一言で、余計なお世話だったか、と思い知った。


『冗談ですよ。係長ですよね。分かっていますが、どうしたんです?』

「いや、もう用件は済んだ」

『はい?』

「邪魔して悪かったな。ゆっくり休んでくれ。じゃあ」

『え、係長?』


 ガチャ。

 洋子が何かを言っていたが、ためらわず電話をきってしまう。


(……つくづく女ってやつが分からん)


 男であれば、色々と察しがつく事もあるが、女相手となると全く自信がない。

 部下としてならば理解できるが、今の洋子は1人の女に近い気がする。

 そうなってくると、良治にとって未知の生物に近しいのだろう。


(洋子さんのブログでも見れば、少しは分かるか?)


 自分のノーパソに目を向け、あまり見る事がないブログの事を気にした。

 洋子と合流してからというもの、配置図を送ることも無くなっていたし、何か知りたい事があれば彼女に聞けばいいという風にしか考えていなかった。


 しかし、柊 洋子という存在を再確認するという意味では役立つだろうか?

 そう思い、ビールで喉を濡らしてから、彼女のブログへとアクセスしてみた。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 迷宮に連れて行かれるようになって20日目。

 11階の地図ができたので、宝の配置場所を公開します。


 >>《11階:宝の配置図情報リンク》


 見ての通り11階の宝は1個だけでした。

 中身は火+という魔法なのですが、少し不明な点があります。

 一緒にいるメンバーは火属性を武器に付与できるのですが、自分は全くダメでした。

 今日は、少し思う所があるので続きは明日にします。申し訳ありません。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「……ん?」


 違和感を覚える。

 前に見た時のブログでは、ゲームを語る時の洋子的なイメージを感じられた。

 会社でやられたら困るような事であるが、それもまた洋子なのだろうと考えていたが……


「……なんか変だな?」


 読んだことで不安が増し、前回の記事へと目を向けてみる。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 迷宮に連れて行かれるようになって17日目。

 今日は10階ボスと11階での追加要素について情報があります!


 まず10階のボスは、キマイラ。あるいはキメラというものです。

 山羊、竜、獅子、蝙蝠、蛇――といった様々な動物を混ぜた複合生物ですね。結構有名なモンスターなのでイメージしやすい方がいるんじゃないでしょうか?

 複合生物なのにイメージしやすいって何だろう……とは思いますが、まぁ、その辺のツッコミは無しでお願いしますよ!


 これについての情報ですが……

 すいません。実は良く分かりませんでした!


 サイズはヘルハウンドと同等で、姿が違うというのは分かります。

 分かるんですけど、ヌンチャク課長の動きが良すぎたのと、パワー+魔法の効果が高すぎて、あっさりと片づいちゃったんですよね。


 そういう事でして、どのような攻撃手段があるのか、ほとんど分かっていません何でもはしませんが許してくださいね!


 あと、自慢でもないです!

 R係長の方でも同じような結果だったらしいです。

 係長の方では、槍の派遣社員がさんが頑張ったらしくて……えっと、だから前衛さん次第なのかも? とは思いました。


 なので……

 ……

 前衛職のプレイヤーさん頑張ってください!

 見せ場かもしれませんよ!


 ……たぶん。


 10階ボスについてはこんな所です! 次いってみましょうか!(*’▽’)



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「……洋子さんだった」


 ここ最近知り始めた洋子の性格を、そのまま突きつけられたような感覚を覚え、疲労を感じたように呟いた。


「……うん? だったら今日のは? ……やっぱり何かあった?」


 知る事で不安が増してしまい、他の記事も読んでいく。

 それらは良治にとってみれば記憶をたどるような内容だ。

 データベース的にまとめている所については几帳面な感じになっているが、記事の文面は洋子らしいと思えるもの。

 ちょっと怖い時もあるが、仕事をしている時とは大分変っていて、それがなんだか新鮮で面白くはある。


(……あの顔は面白いよな)


 ふっとブログ記事に洋子の笑顔を思い浮かべた。

 喜々として自分が思う事を語る表情は、少し残念に思えるが、それが何だか……


(あぁ、いかん)


 思い浮かんできた気持ちを、首を左右にふって消すとブログを閉じた。


(少し不安だが、明日になればいつもどおりかもしれない。変に気にせずに晩飯でも食べてくるか)


 そう考えると、さっそく私服に着替え、馴染みの定食屋へと向かった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ――洋子視点


 ブログ更新が終わったら、いきなり係長から電話とか……ハァー…

 できれば、今は止めてほしかったなぁ~


 私の指がノーパソのキーボード上を走っているのは、ちょっとした調べ物があるからだ。


 切っ掛けは、香織さんの『女として見られたくないの?』と言う言葉にある。

 前ならキッパリと言い返せたけど、最近の自分を考えると、あの場で言い返せなかった。

 最初から仕事上の付き合いでしかなかったから、そういう気持ちは無かったし、係長も、そういう目で見てくる事は無かった。私の方から壁のようなものを作っていたし、それで良いと思っていた。


 ……だけど、ここの所、その壁が崩れかけている。

 そのせいなのか……


(参ったなぁ……今更気付くとかないわぁ……)


 えぇ、認めるわよ。

 私は、係長に女として見てもらいたい。

 部下じゃなくて、女としてね!

 香織さんの言う通りよ!

 だから何よ! 悪い!


 ……って、切れてる場合じゃない。


 理想は、女として見られたいわけじゃなくて『あのままだと変に見られるからです』って思われるのが良いはず。最初はそのくらいが良いと思うのよね。いきなり態度を変えられるのも、ちょっと困る……いえ、まぁ、それはそれで……って、違う。


 落ち着いて考えよう。

 まず、作業服は駄目ね。

 動きやすくはあるんだけど、上に羽織っているローブと全然似合っていない。


 じゃあ、ローブを脱ぐ?

 これも違うはずよ。たぶん、この先出てくると思われる防具関係も、あんな感じになるだろうし。


 革の胸当ては、いらないかも?

 安全確保の為につけていたけど、あんなの着ていても意味が無くなってきている。

 そういう意味ではローブもそうなんだけど、あれって魔法耐性や魔力の方に関係してくると思う――実感はないけどね。


 ローブありきで考えるのが良いとは思うんだけど、黒の帯なしガウンに合いそうな服装って何だろ? ……だめイメージ出来ない。


 という事で、色々調べてみた。


 ……

 ……

 ……


 あっ、駄目。

 これ露出が多すぎるわ。

 だいたいこんなの持ってないわよ!

 まるでビキニじゃない!

 プールでだって恥ずかしいのに、これは無理!


 他には……


 いかにも昔の魔術師っぽい。

 全身黒づくめで、大きなツボに色々と薬草を入れてグツグツ煮込んでいるような感じ。

 魔法使いと言うより魔女? もうちょっと普通のないの?


 ……あった。

 あるにはあったけど、これもちょっと……


 いえ、でも私だってまだいけるんじゃ?

 大丈夫……よね?

 動きやすさを重視した結果だと思ってくれるかも?

 香織さんだって、あんな格好でいるんだし……。

 よし、これにしてみよう!

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web版とは【異なる部分】が幾つかあるので、是非手に取って読んでみて欲しいです。
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