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初日の終わり

『ぴんぽんぱーん。退社時間のお知らせです。本日はこれで終わり。寂しい? 大丈夫、明日も来てもらうから。その辺りは安心してね。あと、強制退社なので残業なんてものはありません。また、戦っている人は終わってからになるので、その辺り気を付けてほしいかな? では、また明日~』


(感謝してもいいよ? は無いのか)


 だいたい毎回あった苛つくセリフがないのに疑問を覚えたようだが、すぐに忘れる事にした。

 とりあえず今日は終わった。

 だけど明日も……と思った時、良治の姿が迷宮内部から消え、見慣れた光景を目にした。


「おっ!? おぉ! おぉおおおお!!!!」


 大声で歓喜の声をあげるが無理もない。

 そこは良治が住まう、築12年のアパートの一室だったのだから。

 ちょっと壁に亀裂が走っているが、補修工事はしないのだろうか?



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



『……正気か?』

「こんな事、冗談で言えませんよ!」


 ピンクのスマホを片手に会社へと電話をかけたところ、部長へと繋がり正気を疑われたようだが、全てを聞いた後であった。

 途中で『何を馬鹿な事を言っている!』だとか、『いいからさっさと会社にこい!』とか、言われることなく最後まで報告できたのは、ある理由からとなる。


『良治君。ニュースは見たか?』

「え? ニュース?」

『どこでもいい。すぐにテレビをつけてみろ。それで分かるだろう』

「……もしかして」


 部長の言い含むような言い方。

 そして、迷宮スマホで行われた掲示板での話し合い。

 それを考えてみると…

 ゴクリと喉を鳴らし、部屋にあった薄型テレビをつけてみる。


『本日朝から起きている複数会社の社員消失事件ですが、いまだに原因が判明しておりません。多くの目撃者がでている事から信憑性が高く……え?』


 男のニュースアナウンサーが、テレビ局内で文面を読み上げていた時、横から手が伸び紙を置いた。


『そ、速報です。当局においても行方不明となっていた社員から情報がもたらされました。……が……これは……』


 渡された紙から目をそらし、すぐにテレビカメラへと顔を向けてくる。


『……失礼しました……続けます。たったいま入った情報によれば、消失した人々が自宅へと戻ったようです……が、彼等の話によれば、神を名乗る何者かによって、まったく見知らぬ迷宮へと拉致されていたとの事。そこで何をしていたかについて言えば、ゲームのテストプレイヤー……』


 どういった経緯なのかは知らないが、ニュースで取り上げられた内容は、彼が経験した出来事そのままだった。


『どうだ? やっているだろ?』

「……はい。かなり大事になっていますね。それに、俺達がやっていた事も取り上げられました」

『なに?』

「さっき部長に話した事が、ほとんどそのまま……」

『……それはまだ見ていないが……もしニュースでも同じ事が言われたのであれば……いや、こんな話をニュースで流した? 本当かね?』

「部長こそ見てくださいよ。たぶん他の局でもすぐ流れますよ」

『そう、だな。分かった。それと良治君。詳しい話を直に聞きたいから、今から出社してくれ』

「分かりました……あっと、その前に部長」

『なんだ?』

「……携帯式トイレって、ホームセンターで売っているか分かりますか?」


 店が閉まる前に、これだけは何としてもと思う良治であった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 疋田 浩二(ひきた こうじ)。歳は46。

 白髪が混じりだした髪をきっちりとかきあげ、肌は日に焼けたように赤身を帯びている。

 心労が溜まっているのか頬が痩せているようだが、眼光は力強く鋭い。

 良治と同じくビジネススーツを着込んでいて、首に絞めた茶のネクタイを緩めている。


 一言でいえば、ダンディズムを体現しているかのような部長という感じだ。

 ちなみに、奥さんとの間に娘が2人いる。かなり良好な関係のようだ。何とか次は男の子が欲しいと思い頑張っているのは内緒だった。



 そんな男と、普段ならば会議を行う為の小さな部屋で、互いにパイプ椅子に座り話をしている。白い長テーブルの上にある特ダネ記事は、浩二がネットから拾い上げ印刷したものだ。


「じゃあ、社長と課長はまだ知らない?」

「ああ、今日は朝からインドに出張だったからな。まだ連絡はしていないが、そろそろ向こうの方から連絡がくるかもしれない――それにな」

「それに?」

「……君1人だけじゃない。洋子君も、朝から連絡がつかなかった」

「洋子さんも!?」


   柊  洋子(ひいらぎ ようこ)。良治の部下の1人だ。

 まさか、その部下までもが同じ被害にあっているとは思わなかったようで、良治の眼が大きく見開いた。


「彼女の方から連絡がきたが、どうしてもやっておかないといけない事があるとかで出社は難しいらしい。心当たりはないか?」

「……あぁ、まぁ」


 そう言う良治の目が泳いだ。

 たぶん、掲示板に書かれていた品々を求めに走ったんだろうなー…と、考えてしまう。


「そうか。何か大事な事があるようだな。君はいいのか?」


(携帯式トイレなら買ったけど、他にも何か……ああ、ヘルメットもあった方がいいか?)


「何かありそうだな?」

「ええ、まぁ」

「……言いづらそうだが、言えない事か? こちらでもネットで調べてみたが本当と嘘の見分けが難しい。何か証明出来るような事はないか?」

「えっと、じゃあ、これを見てください」


 そう言い、持ってきた鞄からA4式バインダーノートを取り出した。

 これを見せればと開いてみたが、記載したはずの迷宮図が無かった。


「どうした?」

「……これに迷宮の道筋を書いていたんですが……消えてる?」

「迷宮というのは、君達が連れ去られていた場所だな? その地図を書いていたという事か?」

「はい。ですけど、綺麗に消えています」

「……ふーむ。それでは無理だな。例え書かれていたとしても、証明にはならんだろう。それより、覚えたという魔法はどうだ?」


 浩二に言われ、ふと思う。

 そういえば、魔法に関して何かを言われた事がないし、マニュアルにも無かったなと。

 まさか使える? そう考え意識を習得した火球へと向けてみたが。


「なんだか、頭の中に霧がかかった感じです。迷宮にいる時は、パズルが組み合ったようにキッチリはまっていた感じなんですが……」

「それも駄目か。まぁ、ここで使われても困るが……他に証明できそうなものは?」

「……ないですね。ですけど、これだけ騒ぎになっているんです。口裏合わせるなんてできませんし、それ自体が証明になりませんか?」

「言いたい事は分かる。分かるが、こんな話を証拠も無しに、全て鵜呑みにするわけにはいかんだろ」


 言い切った浩二が頭を抱えだした。


「まぁ、俺が経験した事や知っている事はこれぐらいです。あとは、明日を待ってみますけど……出社した方がいいですか?」

「いや、待て。……君は出社した直後に連れていかれたのだろ? それなら、出社しなければどうなるのだ? 開始が8:00ならばその後に来てみたらどうだ?」

「なるほど! それ良いですね! 試してみます!」

「よし。では、洋子君にもそれを伝えておいてくれ。電話番号は分かるな?」

「はい。じゃあ、それで伝えてみます……で、部長」

「なんだ?」

「資材置き場の物、少し借りていいですか? あと、有給もできれば……」

「何に使うのか分からんが資材については使っていい。有給の方は保留だ」


 成労建築では、前日まで申請しなければ有給は許可されないので当然だ。

 世知辛い世の中である。

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