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追加されていた部屋

 良治が9階での初戦闘を終えた頃、洋子達が敵と遭遇していた。

 ヌンチャク課長こと、久遠 香織が前面に立ち、ヘルハウンドの攻撃を回避しながら戦い始める。


(この人、動きが速すぎる)


 目前で戦っている香織の様子に、洋子はそうした感想を抱いた。


 相手は人間サイズではない。

 3-5mほどの獣じみたモンスター相手に、攻撃を繰り出す香織の動きが尋常では無かった。

 比べるとしたら7階で戦ったワーウルフだろう。

 その変身後にも匹敵しているかのような動きを香織が見せている。

 左右の動きだけではなく、時折ヘルハウンドの背にも飛び跳ね乗り、頭に打撃を与えているのだが、その一連の動きが重力を無視しているかのようにすら見えた。


(ヘルハウンドは、香織さんだけでも何とかなりそうだけど、それって彼女がやられたら終わりよね?)


 そう考える洋子と言えば、グリフォンに風牙の魔法を放ち、自分達に近づけないようにしている。

 すでに何発かは被弾させているし、各種の魔法の有効度も確認済み。

 それでも、撃墜させる事が出来ないという事は、魔法耐性が高いモンスターという事なのだろう。

 そう考えた洋子は、無理に命中させるよりも、近づけさせない事に考えを切り替え、魔法を操っていた。


(ヘルハウンドを2人で片づけてからグリフォン討伐が正解? ……でも、香織さんの動きが早すぎて手出しが難しい……私に2匹のヘイトが向いたら、あっという間にやられそうだし……)


 一見すると勝てる戦いだ。

 しかし、疑問が次から次へと湧いてくる。

 この戦い方を続けていて良いのだろうか?

 洋子は疑問に思わずにいられなかった。


(戦い方を考える必要がある気がする……)


 そう思えてきた頃に、香織が幾度目かのスラッシュを打ち放ち、ヘルハウンドとの決着をつけてしまう。


 あとは、洋子が相手をしていたグリフォンのみ。

 地上戦闘を終えた香織が近づいてきて、互いに目を合わせ頷きあう。

 彼女達の勝利は約束されたようなもの。


 ――だが、それは、課題が残る勝利とも言えた。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 良治と須藤が、迷宮を進む。

 前を歩く須藤を見ていると、良治と異なり必ず左を選ぶようだ。


 その良治といえば、須藤に時折声をかけ足を止めさせていた。

 やっぱり地図が有った方が良いだろうと考えたようで、須藤と合流した場所を中心とし白チョークとノートを使い地図を書き始めている。


「係長は生真面目っすね」

「そうか?」

「掲示板でもそんな感じでしたよ」

「自分では、そう思わないんだけどな。Yさんと合流してからは任せっきりだったし」

「そういえば、彼女と付き合っているっていう話は本当の所どうなんすか?」

「……はぁー」


 またそれか。と、ノートを広げたまま深い溜息をついてしまった。


 迷宮と現実。

 両方の掲示板で、そんな話が繰り返されているのだが、否定しているにもかかわらず全く消える気配がない。

 今では、すっかり付き合っている話として広まっていて、否定するのもバカバカしくなってきている。


「何度も言うが、彼女と俺は同じ会社の人っていうだけ。それ以上の関係はない」

「マジっすか? でも、迷宮では一緒だったんすよね?」

「そうだけど、関係あるのか?」

「掲示板を見る限りだと、一緒になった連中が結構いい仲になっている感じなんすよね。なんつうか、そういうのってあるじゃないっすか。危険を一緒に乗り越えると、こう……」

「吊り橋効果の事か? それで、君とヌンチャク課長は仲良くなれた?」

「……クッ!」


 即座に言い返されると、須藤は情けなさそうな表情を見せた。

 前に言った現実で稽古をつけてもらったら? については、言えていないのだろうか? それとも言ったが、断られた?

 どうであれ、進展はほとんどないんだろう。

 そう、理解できるのに十分に情けない表情である。


「俺の事より、自分の事を頑張れよ。こっちではもう会えないかもしれないんだぞ?」

「……アッ!?」


 まさか、考えていなかった? と、思える程に驚いてみせた。


「まぁ、Yさんと組んでいるから、連絡したい事があれば伝えられるけど……」

「いや、そこは自分で! ……と言いたい所なんすけど無理っすよね。課長は掲示板見ないし」

「らしいね。俺よりネット関係が苦手って、そうそういないと思うんだが?」

「ネットがどうとかよりも、PCとか携帯とかそういうのが苦手みたいっす。機械音痴みたいなものじゃないっすか?」

「音痴って……迷宮スマホは簡単だろ?」

「そうなんすけど、苦手意識ってあるじゃないっすか」

「あー…うん。それは分かるな」


 ゾンビとスケルトンに遭遇した時、洋子の後ろに隠れた自分を思い出すと納得せざるを得なかった。


 そんな会話をしながら歩いていると、またもヘルハウンドとグリフォンに遭遇。

 ボス戦よりも、ボス的な相手と言えるような2匹のモンスターを相手に、彼等は戦い始める。


(……何かもっといい戦い方が無いかな?)


 良治と洋子。

 互いに思う事は似たようなものであった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 昼食の時間に槍の派遣社員が、とある話を披露した。

 それは9階での戦闘についてではない。

 休憩所に新たに追加された施設についてである。



雑談スレ Part45



133 名前 短剣術士

タオル付きのシャワー室?

施設設備の追加ですか?


134 名前 大剣術士

今度はシャワー室?

何故、それを隠していたんだ?


135 名前 槍の派遣社員

隠していたわけじゃねぇよ。

知ったのは今朝だったんだ。

あの時は、出現する雑魚敵の事ばかり考えていたから、すっかり忘れていただけだ。


136 名前 弓術士

それは、9階限定ではないですよね?

9階にたどりついた以降も、大丈夫なんですよね?


137 名前 槍の派遣社員

>>136

さぁ? でも、今までの事を考えれば継続されるんじゃね?


138 名前 467

確定だ。

PT募集(2人のみ)&ベッド&シャワー室。

神が何を考えているのか分かった。

つまり、少子化対策を考えて、こんな事をしたんだよ!

きっと今度は、自動販売機に栄養ドリンクとかゴム製品が入ってくるぞ。

なるほど。まさに神の所業よ!


139 名前 剣術士

そ、そうだったのか!

……って言うと思ったか?


140 名前 杖術士

まったくだ。そんな事あるわけないだろ。

少子化対策ならゴム製品は邪魔だ。


141 名前 ハンマー術士

>>140

そこじゃないだろ!

論点が間違っているんじゃないか!


142 名前 短槍術士

シャワー室……ふむ。


143 名前 棍術士

>>142

何が「ふむ」だ!

おまえ、何を考えてやがる!


144 名前 杖術士

というか、槍の派遣社員。

なぜYさんが書き込まない事からシャワー室の話になるんだよ?


145 名前 槍の派遣社員

普通、シャワー室なんて用意されたら女は使うんじゃないか?

男の俺だってどうしようか悩むぞ。

戦闘でかいた汗とか嫌だろ?


146 名前 ハンマー術士

ああ、汗か。

9階での戦いは厳しいようだしな。

そりゃあ、汗を洗い流したくなる。


147 名前 杖術士

なるほど。あり得る。

邪推してしまったようだ。


148 名前 棍術士

シャワー室か……

ヌンチャク課長とYさんが一緒に……ゴクリ


149 名前 467

なんだろうか?


>>148

そのセリフは、俺の役目のような気がしないでもないんだが?

何故か口惜しい。


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