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2階到達者出現

 休憩所から出ると、地図を作りながら進む事を始めた。

 持っていた鞄の中に仕事で使う道具が一式入っているので、A4サイズのバインダー式ノートとシャープペンシルを使い地図作りを開始。

 先へと進みだした良治は、一つのものを発見した。


 それは宝箱だ。

 黄色と赤で色塗りされた宝箱だ。

 アニメや漫画で出てくるような色鮮やかなものであり、洋画などで出てくるものではない。

 なぜ、これだけアニメタッチなのか理解に苦しんだ。


「……なんでこんなものが? 天然洞窟っぽい場所にあるのって不自然じゃ? ……いや、今更か」


 周囲の景色は現実じみているのに、良治の前にある宝箱は非現実的なもの。

 色々ぶち壊しているんじゃ?

 そう思いつつ、近づき開くかどうか試してみると素直に開いてくれた。

 そして中には、


「木の盾? どうやって……ああ、このバンドを腕に巻き付けると……鞄が邪魔になるな。しまうか」


 チラリと見て判断を下す。

 左手に持っていた鞄をポーチにしまいこんで、宝箱に入っていた丸い木の盾を左に巻き付けた。サイズ的には小さなものだし、重量的にもそう重くはない。

 左手が自由になったことで、片手剣を両手で使えるという利点が発生したが、今の所意味が無いように思った。


「こんなものか? ……あとで掲示板に書き込んだら、みんな驚くかな?」


 その時の事を思い浮かべつつ先へと進んでいく。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 昼になり、用意されていたアンパンを食べながら良治は掲示板を見てみると、幾つか分かった事が出てきた。


 全員に支給された食料はアンパンが2つのみ。

 それと良治同様に宝を発見した人達もいて、中には魔法を得ている者がいた。

 発見された魔法は【火球】と【回復(小)】というものらしい。


「魔法……そういうのって良く分からないけど便利そう」


 これについて調べてみると、宝箱の中に羊皮紙が入っていたらしく、手にしたら勝手に覚えたという事だった。


「覚えるのも楽そうだな。でも、この迷宮って人によって違うらしいし、中身が違うってこともあり得るか……なんだか運しだいの迷宮に思えてきた」


 独り言を呟いた後、口にいれたアンパンの欠片を水で流し込む。

 腹が多少膨れてくると眠気が出てきて煎餅布団へと潜りこんだ。


「目が覚めたら夢だったとかいうオチでもいいよ、本当に……ふゎぁ~」


 抱いた希望は、もちろん打ち砕かれてしまう事になる。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 休んだ後、良治はさらに探索を続けた。

 そろそろ15:00といった所で、またも神様の声が聞こえてくる。


『ぴんぽんぱ~ん。業務連絡のお時間だよ~。なんと、驚く事なかれ、1階をクリアできた派遣社員の方が出ました! やったね! おめでとう! これで君の時給は550円だ! その調子で頑張れ! それと1階は基本説明のようなもので、本格的な戦闘は2階からね。でも、その状態で大丈夫? 神様心配だな~。優しいでしょ? 感謝してもいいよ?』


(……心配なら、迷宮の外に出してくれよ)


 神様相手に即座にツッコミを入れるが、当然聞き入れてもらえない。おそらく他の人々も同じ事を思った事だろう。


「しかし、もう出たのか……。いや、ようやくと言った感じか? 結構広そうだけど、これだけ歩いていれば誰かしらクリアできて当然か」


 出てくるモンスターは弱く障害にすらなっていない状態。

 そんな迷宮を半日以上歩いているのだ。もっと早くにクリア者が出ても良さそうなもの。


「きっと掲示板の方では色々言われているだろうな……ちょっと見てみるか」



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



雑談スレ part8


520 名前 名無しの迷宮人

1階に戻れないってマジかよ!


521 名前 1層目をクリアした派遣社員

だからマジだって! 階段を上ったら、すぐに階段が消えたんだよ。


522 名前 名無しの迷宮人

ちょ! それって本当に!


523 名前 1層目をクリアした派遣社員

何度も言ってんだろ! 前の書き込みを見ろよ!

ああ、面倒くさい。誰かここまでの説明をまとめてやれ!

情報は流した。あとは勝手にやってくれ!

誰が大変なのか分かれよ!

もういい。俺は休む。


524 名前 名無しの迷宮人

あなた無責任すぎない!


525 名前 名無しの迷宮人

そうでもないだろ。ちゃんと情報はくれたんだ。

それに話を聞く限りだと、気持ちは分かるぞ。


526 名前 名無しの迷宮人

ほれ、まとめだ。


1.ボロイ腰巻をつけ緑の肌をした背丈の小さいモンスター。おそらくゴブリンだと思われるが、これが出現する。他は未確認。

2.青い血が流れるし死体も残る。武器は棍棒。これも残るらしい。

3.ドロップらしきものは現在不明。まさか死体が……とは思いたくない。

4.今の所、複数目撃はなし。

5.迷宮内部の光景は1階と同じだったらしい

6.登ったら階段が消えた。つまり戻る事ができない。

7.時給は550円に上昇。割にあうのかどうかは実体験しないとな……


確定情報? と言っていいかどうか分からないが、こんな所だろう。


527 名前 名無しの迷宮人

>>526

仕事が早くて助かる。

確かにまだ確定情報と言えるかどうか分からないが、参考にはなるよな。


528 名前 名無しの迷宮人

あいつが言った通りってことか。

2階から戦闘面が本格的になるって感じだろうな。

1階は、それ以外の事での体験説明みたいなものか。


529 名前 名無しの迷宮人

あいつって、派遣社員さん?


530 名前 名無しの迷宮人

違う。察してくれよ。あいつを、〇様とは言いたくない。


531 名前 名無しの迷宮人

良く分かります。

ところで、クリアした方は、どんな武器を手にしていたのでしょうか?


532 名前 名無しの迷宮人

>>531

最初に渡された槍のままだと言っていた。まとめに書き忘れたよ。


533 名前 名無しの迷宮人

初期状態のままか。まぁ、武器の入手報告もないし、1階ではないのかもな。


534 名前 名無しの迷宮人

ですね。しかし、それだと、短剣やスティックの人は戦いようがないですよね?


535 名前 名無しの迷宮人

短剣はまだ良いよ!

スティックの俺はどうしろと! 回復(小)だけしかないんだが!


536 名前 名無しの迷宮人

短剣だって同じです。スライム相手ならいいですけど、動きまわる相手に何度も突き刺さなきゃ駄目みたいだし……考えるだけで、嫌になる……


537 名前 名無しの迷宮人

そりゃあ、嫌だろうな。男の俺も嫌だし。

せめて長い獲物にしてほしかった。

あるいは魔法……


538 名前 名無しの迷宮人

そういう人は、1階で頑張れってことだろうな。

もうじき退社時間だし、それでなんとか出来ればいいが。

ホームセンターにでも走るか?

携帯式トイレも売ってるんじゃないか?


539 名前 名無しの迷宮人

それありか? ありなら、俺チェーンソーでも買ってくるわ。


540 名前 名無しの迷宮人

私も行ってみよ。

チェーンソーは扱うのが難しそうだからスコップを買ってみる。


541 名前 名無しの迷宮人

俺も何か考えておくか。

本当に帰れるとしたらだが……



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



(ホームセンターか。帰れるなら俺も行ってみよ)


 午後の休憩が終わり、良治はさらに迷宮地図を書き込みながら先へと進んだ。

 その途中で、


「あっ!?」


 見つかった。

 いや、見つけてしまったというべきだろうか。

 報告にあった通り、上へと通じる階段を発見したのだ。


「地図に書いておくだけにして探索の方を進めるか。せめて、今日の終わりでどうなるか確認してからでも遅くはない。……しかし、なんでここだけ人工物のような階段なんだ? ほんとに色々ぶち壊しているな」


 文句を言いつつも、その位置をノートに書き記した。


「ここまで来たんだし、いっそ明日も使って全部調べてみるか。それで報告にあった魔法の類がはいった宝箱……」


 考えを口にしながら歩いていると、その宝箱を見つけてしまい、一瞬呆然としてしまう。


「お、おお、おおおぉ!」


 嗚咽のような声をあげ、少しずつ宝箱へと向かった。

 1個目が見つかった時と比べ、感動が大きいように見える。


「よ、よし。これで魔法だったら……神様お願い!!」


 その神様によって迷宮に連れてこられたのだが、すっかり忘れているようだ。

 宝箱を開き、中を見れば一枚の羊皮紙が入っていた。


「きたか!」


 見た瞬間疲労が吹き飛び、茶の混じった瞳を大きく見開いた。


「えーと、情報だとこれに触れば……きたぁ――――!!!!!」


 当たりを引いたと確信した。

 羊皮紙を手にした瞬間、報告にあった火球(ファイアーボール)という文字と発動した際のイメージが脳裏に浮かんだのだから。

 良治が手にした羊皮紙は、魔法を習得した瞬間消失するが、そんな事を気にせずに盾のついた左手を少し離れた洞窟の壁へと向けた。


「どのくらいなのか試さないと。よし! 火球(ファイアーボール)!」


 狙いをつけて、魔法を使う意識をもって言葉を唱える。

 良治の左手からボゥっといった音とともに、野球ボールサイズの火球が放たれ壁へと衝突。ちょっとした爆音が出て、破壊された小石が周囲に飛び散った。

 火球が衝突した箇所をみれば、サッカーボール大の穴が出来ている。


「……うわ。凄いな。これなら十分銃の代わりになるんじゃないのか?」


 良治にとって予想していた以上だったようだ。


「えーと、2階へと昇る場所がここで、宝がここだったと。……あと、回復(小)とかいうのもあったな。できれば、それも探して……ああ、その前に発見報告しておこう。もしかすれば、全員の迷宮にあるかもしれないし」


 スライムが出てもすぐに処理できるしと、迷宮スマホを取り出し書き込んでおく。どういう反応をするのか見る気はないようだ。


「スライムに対しては過剰すぎる攻撃だけど、今度見つけたら試してみよう。残った箇所も探せば、また何か……よし、いくぞ!」


 火球の魔法が見つかった事によって、良治のテンションがあがった。

 まだ1階だというのに、彼は段々とこの状況を受け入れつつあるのかもしれない。


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