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インタビュー

 その日の掲示板に、槍の派遣社員が書き込む事が無く、何が起きたのか騒ぎになった。


 9階もボス部屋だった。

 出現する雑魚モンスターが単純に強かった。

 地形がまた変わり、その影響によって敗北した。

 9階において必要と思われる宝を取り逃していた。


 掲示板で行われた話し合いは何の根拠もないまま進むが、槍の派遣社員とヌンチャク課長の敗北については誰もが確信しているようだ。


 良治達は重い空気を感じたまま探索を進めるが、それも終わりを迎えてしまう。


「ここで終わり?」

「はい。……結局ありませんでしたね」


 考察の中にあった、9階で必要と思われるアイテムらしきもの。

 それを、発見する事が出来なかったという事は、自分達も槍の派遣社員達と似た状況で挑まなければならないのだろうか?


 いや、槍の派遣社員やヌンチャク課長は、これまでの階で色々と取り逃がしている様子。

 その中に必要なものがあったかもしれない。

 それなら、自分達は大丈夫?

 だが、もし違っているのであれば……


 9階に挑んでも大丈夫という感覚がもてなく、良治が「参ったな」と愚痴を出してしまう。


「焦る必要はないですよ」

「それは分かっているが……こう、何か欲しくならないか?」

「自信のようなものですか? ……それなら、もう少し歩きます? ドロップ率も上がっている様ですし、敵が何か落とすかもしれません」

「なるほど。そうしよう」


 僅かな期待を込めて、2人は適当に歩き出した。

 しかし、結局、期待した何かは入手できないまま退社時間となってしまう。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 いつものようにアパートに戻ると、冷蔵庫に手を伸ばし、乾きを覚えた喉へビールを流し込んだ。

 軽く1本空けた後、日課となりつつあるテレビをつける。

 何時ものように、自分達が知った出来事が流れるのかと思いきや……


『本日は、噂となっている係長と謎のYさんについての特番放送となっていますが、まずは、本人達に対する独占取材からです』


 そんなニュースが流れ、何が起きているのか分からなくなった。

 飲み始めたばかりなのに、もう酔いが回ったか? 等とすら思ってしまう。

 話の続きを聞けば、本人達からの連絡が以前からあったようで、これからその確認取材を生中継で行うらしい。


『放送許可は取れていますが、顔や名前については一切触れないのが条件となっています。その辺りについての問い合わせ等があっても、当局では返答しかねるという事を、ご了承ください』


「……あっ、噂の係長って、俺の事じゃなかった?」


 なるほど!

 なんだそうか。そうだよな。

 皆で俺達の事のように言っていたけど、全部誤解だっただけじゃないか。

 きっと、別の掲示板でも似たような人がいたんだろう。

 真実なんて、分かればこんなものだよな。


 ――と、1人で納得しかけたが、否定するかのようにスマホが鳴り出した。

 出てみると、部長の疋田 浩二の声が聞こえてくる。


「はい、もしもし」

『係長! 何を馬鹿な事をしている!! すぐにやめるんだ!』


 出るなり大声で怒鳴られてしまった。


「ニュースの事でしたら、自分ではありませんよ。噂の係長とYさんって、まったくの別人だったのでは?」

『……いや、そんなはずは……聞くが、今どこにいる?』

「家です。これ生放送ですし、疑うようであれば会社に行きますが?」

『……本当に家に……ん?』

「どうかしました?」

『ニュースだ。見ているか?』

「あー…」


 電話がかかってきたので注意がそれていた。

 言われてテレビの方を見てみると、すでに取材が行われている様子。

 その内容を聞いているうちに、良治の表情が見るからに険しく歪んでいく。


 誰の部屋かは知らないが、すりガラスを挟んだ居間のような場所に2つの影が見える。

 モザイクがかけられているようだが、それを必要とするかどうか疑問だ。

 おそらく男と思われる方の声が聞こえてくる。


『迷宮なんて楽勝ですよ。用意されたアイテムさえとっておけば、そうそう困ることなんてありません。そのための地図なんです。気付かない方がどうかしていますよ。所詮ゲームですよ? ネトゲしていれば大体コツが分かるものです』


 男の発言に、取材をしていたスーツ姿の男が自分の記憶を探るような顔つきをした。

 姿を隠した男の方は、聞かれてもいない事をペラペラ口にしていたが、途中で待ったがかけられる。


『……係長はネトゲ――いえ、ネットゲーム経験があるんでしょうか?』

『え? もちろん、ありますよ。今時やらない人っているんですか? もうじきVRゲームの時代なのに、ネトゲ経験すら無いって流行りというものを分からない人達じゃないですかね?』

『……』


 ハッキリ過ぎた。

 ハッキリと分かり過ぎた。

 取材をしている男の顔が、これはマズイ! と表情で訴えているようにすら見えた。

 額から出ている汗は、きっと冷や汗だろう。


 取材する男の気持ちを知らずに、今度は影に隠れた女の方が口を出し始める。


『本当に、皆さん何しているんでしょうね? 私が作っているブログを見に来てくれるのは嬉しいんですけど、それくらい迷宮掲示板の方を見れば分かる事です。見に来る方々って、迷宮にいる方々なんでしょうか? 全く関係ない人達が見に来ているような気がしますよ。暇人じゃないでしょうか?』


 何だこの2人は?

 噂になっている係長とYさんというのは、こういう2人だったのか?

 自分達とはまったくの別人じゃないか。どうしてこんな2人と間違われたんだろう?


 疑念を膨らませていると、取材している男が、時折テレビ画面の方をチラチラ見始めた。


『様子が妙だな』

「中断したがっているように見えますね」

『……まさかと思うが』

「あり得ます……」


 取材している男は、この2人が偽物だと分かってしまったのだろう。


(いくらなんでも楽勝って言うのはオカシイだろ)


 もし他のグループに所属しているプレイヤーだとしても、難易度は一緒のはず。

 なのに、簡単だと言い切れる理由が全く分からない。

 そうした所から出演している2人が偽物だろうと考えたが、もし偽物だとしても、ろくな調査もせずに生放送で取材を試みるだろうか? という疑問も同時に出て来る。


(当人達から連絡があったらしいけど……あぁ、確認取材って言っていたな……でも、調べてからにした方がいいんじゃないか?)


 良治が考え込んでいる間、浩二の方でも考えていたようで、電話での会話が止まってしまう。

 互いに何も言わなくなり放送の続きを見ていると、突然画面が切り替わった。

 最初に出てきた女のアナウンサーが、目端を横にズラシ何かを注視しているように見えたが、その目線がテレビカメラに向けられる。


『突然でありますが、本日の取材はここまでとします。帰ってきたばかりで2人の体調があまり良くないらしく、無理を控えさせていただきました。引き続いて今までの情報を取りまとめ……』


「……」

『誤魔化したな』

「これは酷すぎますね」


 アナウンサーの態度からそう思えたようだ。


 もしかしたら、テストプレイヤーという事だけが確認できていて、その他の事は生放送でやった方が、インパクトがあると思ったのだろうか?

 それとも、この出演者達が生放送でないと喋らないと注文つけた?


 2つの思惑が重なった結果が茶番劇を作り出す事になってしまったように思えた。


『関与しない方が良いだろう……悪いが、明日あたり出社できないか?』

「はい。それは構いませんが、まさか、今の件で?」

『いや、現状報告を聞いておこうと思ってな』

「分かりました」

『洋子君には、俺から連絡をいれておこう』

「お願いします」


 電話をきった良治は、世の中、妙な事をする連中がいるものだと思いながら、残ったビールを喉に流し込むのであった。


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◆現在この作品の書籍版が発売中となっています
web版とは【異なる部分】が幾つかあるので、是非手に取って読んでみて欲しいです。
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