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洋子の魔法

 魔石や盾の情報を流す為、一度休憩を挟む。

 この時の掲示板は募集スレとなっており、次々とPTが組まれていた。

 その中で情報を書き込んでしまったものだから、ほぼ無視されてしまい、良治は決めた休憩時間まで煎餅布団の上でゴロゴロと転がり過ごした。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 迷宮に戻って1時間もしないうちに、またも宝箱を発見。

 中には、羊皮紙が2枚はいっており、鑑定してみると『土鎧(アースアーマー)の魔法』と出た。


「きました!」

「え?」


 鑑定虫眼鏡でみるなり洋子が大声をあげた。


「これです! こういうのが欲しかったんです!」

「いや、まだ覚えてもいないし、どういう魔法なのか分からないんだけど?」

「大丈夫。おおよそ見当がつきます。さぁ、覚えましょう」


 薄暗い迷宮内で輝く洋子の瞳は、ある意味怖いものがある。

 仕事で遅くなり、帰ってくる途中に野良猫を見かけると、目がギラリと光っている事があるが、それを思いだしてしまった。


(猫ほど可愛いならいいんだけどね……)


 そう思ったとしても口にしないあたりは、どういう反応をされるのか察しがつくからだろう。


「やっぱりです! これ防御系の魔法ですよ!」

「防御? おぉ! それは助かるかも!」


 今まで攻撃系ばかりだったし、着用している防具は青銅の盾と皮の胸当てのみ。それは凄く助かる! と良治も手を伸ばした。


「……土鎧(アースアーマー)……か。ちょっと試してみよう」


 まずは良治が使ってみると、体の全身が赤く輝いた。

 しかし、すぐに消えてしまった為、良治が軽く首を傾げてしまう。

 隣に立つ洋子が興味深々な表情を浮かべながら、スティックを使い無言でつつき出す。

 突いた部分が一瞬赤く光り、薄皮一枚といった所でスティックが止められるのだが、さらに続けると反応が無くなり良治の体へと届いた。


「効果がある間は、ノーダメージ。耐久力が切れると光も消え、直にダメージが入るってことですか……では、次です 土鎧(アースアーマー)


 洋子が良治へと手を向け魔法を使うと、今度は黄色く光った。


「あれ? 他人にも使えるの?」

「私の場合はそういうイメージでしたね。どれどれ」


 再度洋子が同じ事を繰り返す。

 良治の魔法と違い、突いてみると黄色い光が発せられた。

 数回続けても効果は切れることなく、洋子はニンマリとした笑みを見せる。


「係長、ちょっとごめんなさい」

「何を……って、おぃ!?」


 謝られる意味が分からないと考えた時には遅く、洋子が力の限り良治の脇腹に右ストレートを放った。

 本能的に声を出しかけたが、まったく痛みが無く、洋子の拳がぶつかった時に黄色く輝いただけ。


「どうです?」

「何も感じない……もう少し叩いてみてくれるか?」

「ええ。では」


 望むところだと、何度か試してみる。

 洋子の拳だけでは変わらないようで、ついには蹴りまで放ち始めると、黄色ではなく赤い光へと変わり効果が切れた。


「私の攻撃ぐらいでも消えるんですね。あまり耐久値は高くないのかも?」

「殴るだけじゃなかったからな? 蹴りもはいっていたからな?」

「女の蹴りですよ? 大した攻撃じゃありません」

「……」


 良治の顔は、何かを言いたそうであるが声に出すのは控えた。


 その後も何度か試してみる。

 実験に良治が持っている剣も使われたが、洋子が使うと振るうというより、振り回されている感じだった。危険を感じるには十分であった為、良治自身が自分に向かって軽く使ってみる。

 非常に残念そうな洋子の事を無視し、分かった事と言えば、面的な攻撃にはそれなりの効果を示すが、斬撃や点としての攻撃には弱い事が判明。


「微妙ですね。力の強いモンスターの一撃だと光りすらなく一発で破れるかも? 過信はしないで保険程度に考えた方が良いです」


 言っている事は真面目な内容であったが、忠告をする洋子の顔といえば、


(なんて、残念な顔なんだ。せっかく顔立ちは整っているのに……)


 良治にとってみれば、そう思えてならないものだった。


 彼が見ている洋子の顔。

 それは、ゲームを楽しむ彼女の素としての表情だったのだろう。

 


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 退社時間前になり、5階の地図が完成。

 新たに魔法も取得できたし、これ以上ここにいても仕方がないと、すでに発見してあった階段前に行く。


「洋子さん、この先は明日でいいかな?」

「きりがいいので、その方が良いですね。まだ少し時間が残っていますが、どうしましょう?」

「あー…君の魔法をちょっと教えてくれるか? 土壁もそうだったけど、火球も俺のと違っていたよな? 操るだけじゃなくて、2発同時に出していなかったか? 水弾や風牙はどんな感じ?」

「そういえば――分かりました。じゃ……」


 キョロキョロと周囲を見渡すがモンスターが出てくるような気配はない。

 実験台となるものを探そうとしているのが分かり、良治は自分のポーチから細長い宝箱を取り出した。


「それ持ってきたんですか?」

「なんだか、もったいなくてな。でも使い道が思いつかなくて、3個しか拾ってない」

「現場で余った資材じゃないんですから……」


 洋子が呆れたような声で言っている間に、オーガから入手できた横長の宝箱を離れた場所に縦にしおき、良治が後ろから支えた。

『旦那。この流れって、またっすか?』等とは言っていない。


「もしかして……魔法を?」

「そう言う事。これかなり頑丈でね。俺のスラッシュでも破壊できなかったんだよ。壊してくれるならむしろ嬉しい」

「何故嬉しいのか分かりませが、やってみます。水弾(アクアボール)


 まずはこれをと、洋子が魔法を使うと手の平に水弾が発生。

 ここまでは火球の時と一緒だったのだが、発生した水弾の渦が早まり、大きな針のような形状へと変化。


「……なにそれ?」

「これある程度は形状変化できるんですよ。ただし総量は変わりませんし、複雑のものだと作りにくいです。私は針にして使っていますね」

「へぇー…」


 そんな話は一切聞いてないんだけど! 水弾というより水針じゃないか!

 そんな不満を感じていると、洋子がスティックを振るい、水弾ならぬ水針を飛ばしてきた。

 宝箱にぶつかると、べちゃっと潰され水へと戻り床へと垂れる。


「結構固いですね、その宝箱」

「スラッシュでも無事だったからな」


 ただ思う。

 もし貫通していたらどうだったんだろうと。

 少しだけ身の危険を感じたのか、良治の顔色が変わっていた。


「次いきますね。係長。危ないので、どいてもらえますか? 風牙を使います」

「お、おぅ。そうだな。風牙は周囲に影響するからな」

「いえ、ちょっと違うんですよね…」

「また?」

「はい。ちょっと見ていてください」


 良治が宝箱から離れると、洋子の手が天井へと向けられる。

 そして風牙の魔法を使うと、少し大きめのブーメランが1枚出来上がった。


「なにそれ?」

「見ていれば分かります。では、いきますよ」


 驚く良治に軽く返事をし、発生したブーメランを宝箱目掛けて飛ばす。

 今度はガツン!という音をだし宝箱が倒れ、弾かれたブーメランが斜め前へと飛んでいった。


「壁が、ザックリいった!」

「ええ、まぁ。オーガもこれで、ザックリとやれました」

「俺のと威力が全く違うんだけど!」


 皮膚すら切れなかった自分の風牙と違いすぎて、なにこの差は! と思わずにいられない。


「この話って掲示板にあったんですけど、係長って、過去の書き込みとか読まないでしょ?」

「そうだけど……へぇー…こんな話も書かれていたのか」

「色々盛り上がっていましたよ。風牙は駄目ですけど、水弾や火球が、幾つも出せるのが分かった時は大騒ぎでした。ただ、同時操作となると色々厳しいので、私の場合5発ほどが限界でしたけどね」

「5発!? ずるくないか!?」

「掲示板でも同じこと言われましたよ。でも、距離が離れると操作が難しくなるし、魔力切れすると、終わりなんですよ? ずるいと言われても困ります」


 そう言われたので頷いて見せたが、完全に納得はしていない様子。

 洋子が終わると、今度は良治の魔法を見せる番になった。


「……火球と水弾は威力が低そうですね。風牙がイメージした場所で発生するのは良いなって思いますが、牽制ぐらいにしか使えない? ……うーん」

「ああ、でもこういう使い方もあるよ」


 そういい、ボス戦で使って見せた火球と風牙のコンビネーションを見せた。


「爆破で生じた煙を風で巻き上げて視界を悪くするわけですか……これ、自然現象にしてはオカシクないですか?」

「そう? 上手くできてないか?」

「……ええ、まぁ出来すぎな気がしますが……これもゲームだから? うーん……」


 何を悩む事があるのだろうか? と良治としては不思議でならないようだ。


「不自然な気がしますが、ちょっと面白そうですね。私も考えてみます」

「それがいいと思う」

「はい。それはいいんですけど、この宝箱って……」

「ほんと頑丈だよな」


 そんな感想を抱かれた宝箱は『宝箱が頑丈で悪いのかよ!』と言っているように見えたという。


良治のいう昔やったダンジョンゲームについて(裏設定です)


良治の記憶にあるダンジョンゲームというのは、まだセーブ機能も無ければ、復活の呪文なんかもないものです。~の塔と言えばお察しいただける方もいると思います。ダンジョンゲームと言うよりアクションRPGの部類かな?


このゲームはステータスどころか、HPもありません。

ないのではなく、表示されないのです。スコアや1UPなどの表示はあったと思いますが(間違っていたらスイマセン)

良治がゲームをやっていた時代は、本来であればSFCやもう少し先のものが出ていると思うのですが、この作品では、まだFCの最初期時代と考えて下さると助かります。ご都合主義と思ってくださって結構ですよ。


ちなみにポヨポヨの正式名称はブルースライムなのですが、彼の友人達がそう呼んでいた為、彼もまたそう覚えてしまっていたという流れです。

これに関して言えば、元ネタが有ったりします。詳しくは話せませんが……


こうした設定等は最初記載していたのですが、作品のテンポが悪くなるとか没入感が減ると思い削っております。面白可笑しい過去話として公開できればいいのですが、どうもその気になりませんでした。

今回公開したのは、疑問を感じた方がいると、余計に引っかかるのではないか? と思ったからです。

この話を御不快に思ってしまった方々には申し訳ありません。

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◆現在この作品の書籍版が発売中となっています
web版とは【異なる部分】が幾つかあるので、是非手に取って読んでみて欲しいです。
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